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34 オーティナティック実況(4)

「ラマリフェクタ中尉、これからどういうルートでワシントンに向かいますか?」


「そうだな、ここからワシントンまでは戦術用スパイクを使ってもずいぶん遠いから、まずは鉄道のあるこの都市に向かおう」


 ユーゴがホログラムの地図を指差す。

 確かに直接ワシントンへ行くよりもマシだが、それでも距離がある。こればかりは仕方ない。スパイクがあるだけまだマシだ。


「それでは早速出発しましょう。日が沈む前に行動した方がいいでしょう」


「了解だ」


 洞窟を出る前に戦術用スパイクとレールガンの調子を確認する。俺のものに問題は見当たらない。今日支給された新品だから、当然といえば当然だ。

 しかしユーゴの兵器には少し問題があるようだ。


「少し待ってくれ、おれのスパイクが壊れている」


「本当ですか?」


「あぁ、オーディンから逃げる時にダメージを受けたのだろう」


「弱りましたね。スパイク無しじゃ鉄道までどれだけの時間がかかるか分かりませんよ」


 多くの視聴者の前でこいつを置いて行くわけにもいかない。

 ユーゴはしばらくした後、考えがあると言った。


「この辺りに技巧師の知り合いが住んでいる。そいつに頼めばこれを治してくれるかもしれない」


「……技巧師とはなんでしょうか?」


 ユーゴが少し眉を動かした。


「お前は優秀なくせに、たまに何故か常識を知らないな。技巧師というのはこの2つの対オーディン兵器の開発、修理を行う技術者のことだ」


「なるほど、しかし何故そんな人がこんな田舎に住んでいるのですか?」


「もともとカリフォルニアでオーディンに対抗する術を研究していたのだが、対オーディン兵器が開発されてから年齢的な問題もあって、ここで隠居生活を送っているのだ」


「そういうことなんですね」


「彼とは小さい頃は一緒に住んでいてな……」


 ユーゴの声のトーンが一つ落ちたが、俺は気にせず質問する。


「その人のシェルターはどこにあるんですか?」


「ここからそこまで遠くはない。歩いてだいたい5時間ほどだ」


「ラッキーですね」


「しかし外にはオーディンどもがいる。そいつらに気を配りながら進まなければならない」


「了解しました」




 俺たちは洞窟から出て屈みながら歩いていた。時々ユーゴがホログラムの地図を確認している。

 俺はその間周囲を警戒して、オーディンがいれば報告する。

 移動しながら、敵を先に発見するという簡単なミッションだ。


「中尉、3時方向150メートル先に敵を確認しました」


「わかった。迂回するぞ」


 出来るだけ無用な戦闘は避ける方針だ。

 そこら辺にいるオーディンでも基本的に兵士が2人がかりで対応しなければならない。対してこちらはユーゴのスパイクが使えないため、戦闘になれば不利になる。


「技巧師さんのシェルターはまだ辿り着きませんか?」


「あと半分ほどだ」


「遠いですね………」


 このオーティナティックの世界では現実で1分進むごとに、太陽は1時間分進む。

 つまりこの世界で5時間ほどかかるというのは5分かかる。ゲーム内の分というのは結構長い。それもただ移動するだけだと余計にそれを感じる。


 俺がだんだん退屈してきた時、こちらに気づいたオーディンが近づいてきた。


 俺は思わず喜びの声をあげそうになる。

あの理不尽なまでに強かったチュートリアルボス以外でオーディンと戦ったことがなかったため、若干消化不良なのだ。


「くそ、気づかれた。迎え撃つぞ」


「ぼこぼこにしてやりますよ」


 胴が短くて黒い中型ロボットで、いかにもモブの敵って感じだ。頭に当たる部分がなく、手足と胴だけで構成されている。


「あのタイプは上空からレールガン撃ち込むと1発で倒れる」


「了解しました」


 俺はまず相手の足の関節を狙ってレールガンを放つ。足の部分をショートさせて、動けなくする。

 くくく、あのクソボスとは大違いだぜ。やつはどれだけ足を狙っても体制が崩れることはなかった。


 俺は思い通りになったことを確認すると、スパイクを作動させて高く飛び上がった。

 レールガンを敵の上部に撃ち込む。


 オーディンはそれだけで派手に爆発した。弱点を狙えば攻撃1発で勝てるみたいだ。


「ユーゴ中尉、敵の討伐が完了しました」


「さすがだな。やはり教官の判断は間違っていなかった」


 ユーゴが少し驚いた顔を見せながらも、満足そうに笑った。


「残りの道は後もう少しだ。急ぐぞ」




 そこから2分ほど進んで、その技巧師の住んでいるというところにたどり着いた。


「ここでスパイクを直すことができるんですか?」


「そうだ」


「しかしここには何もありませんよ」


 周りを見渡しても荒れた大地と、オーディンの残骸(ざんがい)らしきものしか見えない。

 とてもここにこの兵器の直すことができる技術者が住んでいるとは思えない。


「お前はバカか。地上に住んでいる訳ないだろう。地下にあるんだよ」


「地下に………?」


「当たり前だろ。今は人類のほとんどは地下で暮らしている。本当に常識知らずなんだな」


「へぇ、初めて知りました」


「都市部では未だに地上で生活しているらしいが……大都市から今まで出たことのない常識知らずだとしても違和感があるな」


「まぁ、色々あるんですよ」


「色々ねぇ………」


 ユーゴが不審そうな表情をする。

 主人公にバックボーンが設定されているという話は聞いたことがないから、こういう受け答えしかできない。


「それで、シェルターに住んでいる人には外部からどうやってコンタクトを取るんですか?」


 俺が問いかけると、ユーゴはあたりを見渡した。


「ここら辺にシェルターの扉があるはずなんだが……」


 俺はその扉を探す。

 たしかに岩の影に隠れて、地面にマンホールのようなものがあった。


「ユーゴ中尉、扉というのはこれのことですか?」


「そう、それだ」


 ユーゴがそのマンホールをゆっくり開けると、中には深い穴があった。そこには錆びて赤くなっている鉄のハシゴがかかってある。


「まずはおれが先に降りる」


 ユーゴがそのハシゴを使って下へ降りて行く。穴は照明がひとつもなくて真っ暗闇なため、しばらくすると姿が見えなくなってしまった。


 俺が少し待っていると、下の方から声が聞こえてきた。


「こっちは問題ないぞ。早く降りてこーい」


「了解しましたー」


 俺もハシゴに手をかけて下にゆっくり降りて行く。

 この穴は深いが狭いため、戦術用スパイクで壁伝いに歩くということができない。


 下まで降りると、ランタンが一つと頑丈そうな扉があった。

 俺がその扉に手を触れる。


〈パスワードを入力してください〉というアナウンスが流れた。


「中尉、パスワードって分かります?」


「多分大丈夫だ。子供の頃から変わっていなければいいのだが…………」


 ユーゴはそう言いながら扉に触れた。


 〈パスワードを入力してください〉


「竜の称号を刻め」


 ユーゴがそう呟くと、ガチャという音をたててロックが解除された。『竜の称号を刻め』というのがパスワードらしい。


 彼は問題なく解除されていることを確認すると、扉に力を入れて押し開けた。

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