3 第3話:第3世代マインデバイス
ネオが失踪した――冗談みたいな話だが、羽山の表情は大真面目だ。
「それは、事件に巻き込まれたってことなのか?」
「残念ながら詳細はこちらも全くわからない」
「マインデバイスはどうなんだ?あれには位置情報が表示されるはずだろう?!」
「彼女の脳にはマインデバイスが埋め込まれているはずだが、世界中のどこを探しても発見することはできなかった」
俺は思わず立ち上がってしまったことに気付いてソファーに座り直す。
丸井さんが本当に申し訳なさそうな顔をしている。
「悪質なドッキリなら今のうちにネタバレすることをお勧めします」
「誠に申し訳ないのですけれど、全て本当のことなのです」
「そう、ですか……」
「しかし弱りましたね。私どもとしましては田辺さんが何かしらの情報をつかんでいると思っていたのですけれど」
俺は本当に何も知らない。というか最近は連絡さえとっていないのに知ってるわけがない。
彼らに与えることができる情報が何もなくて申し訳なくなる。
「では田辺さん、要件は以上だ。お引き取り願います」
「……ちなみに毎月の最低限の固定給はどうなるんですか?」
羽山が舌打ちしたが、そんなことは気にしないで続ける。
こんな状況になってまで、金のことか。と呆れる人もきっといる。しかし俺にとってこれは何者より大切だ。
「ネオが元カノのよしみで俺を解雇しないようstream社に働きかけていたことは知っている。情けないようだけど、俺にはそれだけが唯一の生命線だったんだ…………あんたらにははした金かもしれないが、俺にはあれがないと困る」
「そちらの方は当然の処置として、Neoが戻ってこない場合は再検討しなければいけないだろう」
「つまり……俺は解雇されるってことですか?」
「はっきりそうとは言っていない。そうなる可能性があるだけだ」
ネオがいない時点でstream社が俺に配慮する理由はない。ほぼ100%解雇されるだろう。
最悪だ、ここ最近いいことが一つもない。
「……あんたたちはこれからどうするつもりですか?ネオが戻ってくるまで何もしないで待っているわけでもないでしょう」
「申し訳ないが、当社の方針にかかわることは解答致しかねる」
そりゃどうせ答えてくれないだろうと思っていたけどさ、ちょっとぐらい教えてくれたっていいじゃん。
いよいよ俺は途方も無くなって、声をあげて泣き出しそうになる。
「私たちはNeoの後継者を探し出し、Neoのアバターを使って彼女の業務を引き継いでもらおうと考えています」
丸井さんが丁寧に答えてくれた。
これを伝えることは羽山も知らなかったようで「丸井さん、何言ってるんですか……!」と耳打ちしているのが聞こえる。
「それは、つまりどういうことでしょうか?」
「えぇ、簡単にいうと中の人を交代させるということです」
「そんなことが可能なんですか……?」
「可能です。第3世代のマインデバイスを使えば技術的なハードルはクリアできますし、Neoは現在明確な契約違反をしておりますからNeoのチャンネルの使用権はこちらにあります」
「ネオはネット上ではなくリアルでの活動も多かったはずだ。それでも中の人を交代させることができるんですか………?」
「えぇ、第3世代のマインデバイスを使用すれば」
おいおいマジかよ、これはもしかするとチャンスかもしれない。
なにせあれほど熱望したネオの才能と実績の一部であるチャンネルが手に入るのだ。
人生お先真っ暗だと思ったが、考え得る限り最高の希望が舞い込んできた。
「その後継者の候補に、俺が立候補することはできますか?」
俺の言葉に丸井さんは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。
羽山が何か言いたそうにしているが、丸井さんが制している。
「えぇ、もちろんでございます。ちなみに最近ゲームのグランプリに出場したことはございますか?」
「……1週間前、FPSの日本予選でランキング2位でした」
「1週間前というとGUNSチャンピオンシップのことですね。日本予選で2位ですか、まだ腕は落ちていないようですね」
「世界大会決勝に進めませんでしたけどね」
「元気をだしてくださいませ。この成績なら立候補になんの問題もございませんよ」
丸井さんが一枚の紙を差し出してきた。電子で済まさないということはそれだけ大事な契約なのだろう。
「立候補される方にはこちらの契約書に必ずサインをいただいております」
「わかりました」
契約書にサインするとマインデバイスから〈契約が完了しました〉というメッセージが届いた。
どうやらこの契約書はただの紙ではなくマインデバイスと連携しているようだ。
すごいな……こんな技術初めて見たぞ。
「明日また本部へいらしてください。その時にこちらが元々選んでいた後継候補者さんと試験を行います」
もう一度stream社でやり直すことができるかもしれない。
そう思うと俺はネオが失踪したことへの心配の気持ちなどとうに忘れて、希望ににやけるのだった。
【☆☆☆☆☆】 ∧ ∧
(・∀ ・) <これをな
ノ( )ヽ
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【★★★★★】 ∧ ∧
ヽ(・∀ ・)ノ <こうするのじゃ
(( ノ( )ヽ ))
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