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16 第5話:レストラン【サンパレル】

レストラン『サンパレル』に入った俺たちは、テーブルを挟んで向かい合って座っていた。


 マインデバイスによると、今はちょうど午後7時だ。このレストランはビルの最上階にあるため、サイバー都市の夜景がよく見える。AR機能はオフにしているが、それでも軽く感動する景色だ。


 俺はなにか話さなければと思って、口を開ける。


「なんか、凄いお洒落なところだな。俺はこういうところにあまり縁がなかったから新鮮に感じるな……」


「そうだね」


 そっけない莉亜の態度にキレそうになる。

こちらが一生懸命話題を振ろうとしているのだから、少しぐらい乗って欲しい。


「あー、なんだ。こういうところは事前に予約が必要だったりしないのか?」


「今日はたまたまキャンセルがあって席が空いていたみたい。このレストランによく通ってるから、OKをもらったんだよ」


「そうか……」


「……」


 そこでまた会話が途切れる。

 俺はものすごい気まずさを感じているが、莉亜にそんな様子はない。目を細めながら、窓の外を眺めている。


隣のテーブルに座っている夫婦がお上品に笑っている。どうやら今日は彼らの結婚記念日のようだ。幸せそうなムードが漂っている。


 マインデバイスが午後の7時10分になったことを知らせた時、魚料理が運ばれてきた。


「こちら、新鮮なえびとオリジナルドレッシングを使用したポワソンとなっております」


 目の前に海老の乗った皿が置かれる。


「失礼しました」とシェフのような格好した人が去っていく。

 海老料理はもちろん美味しかったが、少し緊張して味に集中できなかった。


 ナイフとフォークを置いた莉亜がついに口を開いた。


「とりあえず元気そうでよかったよ」


「チビモンバトルでは楽しそうに俺をボコっていたけどな」


「あれは興がのっちゃってね。あんなふうに調子に乗ってイキっている子を見ると、ついいじめたくなる」


「はぁ、3年前からそのあくどい性格は変わってないな」


「それを言うなら浩一君も全く変わってないけどね」


莉亜が目元を笑わせながら言ってくる。


 俺はついにここの慣れない空気感に我慢できなくなって、莉亜に問いかける。


「確かにそれもそうだな。……本題に移ろう。俺に話があるんだって?」


 莉亜はワイングラスを傾けて少し呑んだ。


 最後に会った時よりも、こういう雰囲気が似合っている。大きな会社の女性社長。腹黒で狡猾で、頭と舌がよく回りそうな雰囲気だ。


「久しぶりに浩一君を見かけたけれど、ネオとの確執はとれたってことでいいの?」


「ネオとはもう話し合った。俺はこれ以上、あいつからの温情を惨めったらしく受け取ったりはしない」


「へぇ、社会のゴミクズからちょっとはランクアップしたんじゃない?本当にネオと会って話をした、ということならね」


 俺は無言で莉亜の顔を見つめる。


「私ね、とてもネオが浩一君と話をしたとは思えないんだよなぁ」


「その根拠は?」


「だって3年間も待ち続けてきたネオちゃんが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……そうとも限らないとおもうぞ。実際俺はネオと話をした。GLORIAさんの深読みした推理は外れてしまったというわけだ」


「ふーん?ならいつネオと会ったのか教えてくれる?」


「二週間前だ」


「それなら辻褄が合わないこともないかな…………」


 ネオは二週間前から先週まで、毎日していた配信を休んでいた。その空白の期間が、俺と会ったことによって生じたものだと考えているのだろう。

 咄嗟に答えてしまったが、ほぼ百点満点の答えを返せたと思う。


「でもまだ信じられないな。ネオちゃんにこの一週間変わった様子もなかったし」


 俺はその言葉に反応する。ネオにこの一週間、()()()()()()()()()()()


 この一週間俺はNeoとして配信してきた。同じチームにいる莉亜でさえわからないぐらいうまくやれていたということか?


「なにか、違和感とかはなかったのか?」


「え?いや、特に思いつかないけどな………」


 ほう。どうやら俺は自分が思っている以上にうまくやれているみたいだ。

 俺が急に質問したせいで莉亜が首を傾げている。だが、すぐに気を取り直した。


「証拠を見せてくれたら、信じてあげるよ」


「なんの証拠だ?」


「浩一君がネオに会ったっていうショーコ」


 莉亜はテーブルに肘をつけて笑っている。

 こうして見ると、どこかの秘密結社の女幹部にも見える。主人公に立ちはだかる悪のボスみたいだ。


「証拠?そんなものあるわけないだろ…………」


 そう言いかけたところで、いいアイデアが頭に浮かんだ。

 羽山に助けてもらおう。そう思って、電話をかける。俺は今証人を呼び出すからちょっと待っていてくれ、と言って席を立つ。


 何回目かのコールの後に羽山が電話に出た。


「どうした?またチビモンが欲しいのか?」


「………いえ、違います」


俺は少し恥ずかしくなった。


「じゃあ、何の要件だ?あまりつまらない用事だったら切るぞ」


「今回のはそこそこ大事な用件だと思います」


「話を聞こうか」


「今、莉亜にネオ関連のことについて疑われています」


 電話の向こうで椅子から立ち上がる音が聞こえた。よほど驚いたのだろう。


「どういうことだ?莉亜………つまりGLORIAさんが田辺さんとNeoが入れ替わっていると疑っているということか?」


「いえ、まだそこまで詳細な情報を掴んではいません」


 今度は電話の向こうで安心したようなため息が聞こえた。


「羽山さんには、俺がネオと二週間前にあって、話し合いをした。そして3年間のことについて清算したという話に合わせて欲しいんです」


「なるほど、わかった。それぐらいなら容易い(たやすい)ことだ」


 俺は電話を繋げたまま、莉亜のいる席に戻る。


「stream社でネオを担当している、マネージャーの羽山さんが証人になってくれるそうだ」


「ネオの担当マネージャー…………?たしかに羽山って名前だった気がする。わかった、話してみよう」


 マインデバイスに繋げて、莉亜を通話に参加させる。

 後のことは羽山がうまくやってくれるだろう。俺よりはずっと優秀な男だ。俺が莉亜を説得するよりはマシなはずだ。


「GLORIAさんですか?こんにちは。Neoの担当マネージャーをさせてもらっています、羽山雅弘と申します」

「こんにちは。浜辺莉亜(はまべりあ)です。羽山さん、あなたが証言してくれるの?」


「はい、田辺さんは間違いなく二週間前にNeoと面会しております」


「本当に?」


「もちろんです。なんならNeoを呼びましょうか?」


「……今ネオは何してるの?」


「この時間帯は明日に向けて寝ている頃だと思いますよ」


莉亜は少し口を閉ざした。


「分かった。羽山さんがそう言うなら間違い無いでしょう。時間取らせちゃってごめんね」


「GLORIAさん、それでは失礼します」


 通話が終わった。俺はおそるおそる莉亜の様子を伺う。


 いまだに疑っている風には見えない。これは、なんとか誤魔化せたのだろうか?


「浩一君、私に嘘ついてないよね?」


「もちろんじゃあないか、俺を疑っているのかい?」


「そう………」


 莉亜が急に塩らしくなる。多分これは信じたもらえたと思う。


「その様子だともう一度ネオと付き合ったってわけでもなさそうだね」


「もちろん」


「………ならネオはやっと重荷を下ろすことができたんだね。3年間ずっと心に残っていたものからようやく解放されたわけだ。色々言いたいことはあるけど、あのこと向き合ってくれてありがとう。私から言えるのはこれだけ」


 そう言って莉亜はワインを飲む。


 ……これは、流石に罪悪感感じるなぁ。莉亜は俺とネオがしっかり話し合ったと信じてるみたいだけど、実際全くそんなことはないしなぁ。


 なんなら当のネオは今どこに居るかすら分からない状況だし、ここで本当のことを言ったら、顔面グーで殴られても文句は言えない。


「私たちってさ、もうすっかり大人になった気分じゃん?」


「そうだな。ガキのころにワインを飲んで、高層ビルの最上階で食事をするなんてことはできない」


「でも浩一君はまだ若いでしょう。人生の三分の一の物事しか経験していない。人生の折り返し地点にも立っていない」


「………確かにその通りだ」


「今まで3年間を無駄にしてきたわけだけど、まだやり直すことだってできるはずだと思う。浩一君がこれからどこを歩むつもりなのかは分からないけど、私はそれを応援するよ」


 俺は「ありがとう」と答える。


 なんだか気まずくなって目線を逸らした。だってそうだろう?


 莉亜は俺が重大な決意を持ってネオと話をしたと思っている。実際はそんなことこれっぽっちもないのに、過大な評価を受けている。

 しかもワインのアルコールで酔ったのか、ポエムってぽいことまで言い出した。気まずくて当然だ。


「まぁ、なんだ。俺も少しは大人になったってことだ」


 恥ずかしさを誤魔化すために………というよりあまりの申し訳なさに俺は頭をかいた。



 そこで肉料理が運ばれてきた。

さっきから絶妙なタイミングでやってくる。俺たちの様子を見張ってあるのだろうか。


「こちら、当店自慢のヴィアンドでございます」


 テーブルにお洒落な肉料理が運ばれる。


「失礼いたしました」


シェフのような男が去っていった。


莉亜が静かに肉料理を食べ始める。ナイフとフォークがカチャカチャと音を鳴らす。

隣のテーブルにいたお上品な夫婦が席を立った。今から帰るようだ。


莉亜(りあ)がナイフとフォークをテーブルに置いた。


「明後日さ、トッププレイのみんなで集まるんだけど、よかったら浩一君も来る?毎月私の家に集まって、息抜きしてるんだよねぇ。私たちって何かとストレス溜めやすいし、明確にプライベートの時間作らないといけないから」


「それってネオも来るのか?」


「もちろん。他のメンバーはよく欠席してるけど、ネオちゃんはほとんど参加してくれてる」


 俺はマインデバイスから、ネオの書いたスケジュールを確認する。確かに明日、莉亜の家に集まる予定だ。


 だが、それなら余計俺は田辺浩一として参加することはできない。


「あー申し訳ないが、その日は別に予定があってな。参加は見送らせてもらうよ」


「わかった。私も配慮が足りなかったね。ついこの間別れ話をした元カノと会うなんて気まずく感じて当然でしょ」


 莉亜が言葉の裏を読みすぎて勘違いする。


 全くそんなことはないのだか、そういうことにしておこう。

 本当のことを言えなくて非常に申し訳ない。しかし羽山から絶対に事情を漏らしてはいけないと厳命されている。



 俺はナイフとフォークを手に取り、メインディッシュを口に運ぶ。さっきまで緊張であまり味がわからなかったが、なかなか美味しかった。

 柔らかい肉に柑橘系のソースがよくあっている。


 会計の時に値段の高さに恐れおののいたが、莉亜に奢ってもらった。金ならたくさんあるから問題ないらしい。男としてそれはどうなんだと思ったが、素直に奢ってもらった。あの額を払うのは少し躊躇われる。

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