15 第4話:チビモンのトッププレイヤー
「勝者、KOICHI〜!!!!」
俺の名前が高々と叫ばれる。
ゴリマッチョとの試合は俺の圧勝だった。羽山の送ってきてくれたチビモンは予想以上に強かった。正直強すぎた。
俺はたった2体のチビモンでゴリマッチョのチビモン5体を倒し切った。あれほどのオーバースペックのチビモンを一体でも倒したゴリマッチョを褒めてやりたい。
実況の人も超激レアらしいチビモンにドン引きしていた。
羽山は加減というものを知らないのだろうか。『街角リーグぐらいの大会で負けることはないはずだ』と言っていたが、これほどのチビモンがいたら公式大会でも渡り合えると思う。
さっきからゴリマッチョが「俺の、筋肉が敗北しただと……」とつぶやいている。
なんだか申し訳ない気持ちになる。ただ、いい気晴らしにはなった。
ネカフェの個室に戻ろうかなと考えていると、実況の男性が声を張り上げた。
「さぁ、このKOICHI選手に挑む猛者はいるかーー?!?!」
観客たちが俺を見ている。これは帰るに帰れない雰囲気になってしまった。
仕方ない。もう一戦ぐらいやってから帰るか、と思ったら1人の女性が手を挙げた。
「おーっと、無謀な挑戦者が現れたぞーー!!!」
その女性は高身長で赤いメッシュの入ったショートカットをしている。そして黒いサングラスをかけている。
あの女性、なんか見覚えがあるな――――
俺はそいつの正体に気づいた時にヒェッと息を呑んだ。観客もどよめいている。
実況者が困惑した声になる。
「嘘だろ………まさか彼女は……」
その女がステージに上がり、サングラスを外す。すると観客から爆発的な歓声が上がった。
「こんな小さな大会に、stream社トッププレイ所属の『GLORIA』が、参戦しにきただとぉぉ?!?!」
GLORIA――本名、浜辺莉亜は俺がまだ活動していたころの知り合いだ。一緒にゲームの大会に出場したこともある。
当時はネオと杏奈と俺でチームを組んでいたが、俺がチームを抜けたことで、ネオと杏奈が莉亜と他2人のストリーマーたちと合流し、『トッププレイ』として再結成した。
莉亜が俺を見て手を差し出してくる。
「浩一君、久しぶりだね。今まで3年間もいったいどこに行っていたのかな?」
「あぁ、最後にあったのは3年以上前だったな。ちょっと自分探しの旅に出ていてな。少し時間がかかりすぎたみたいだ。莉亜も元気そうで何よりだ」
「本名で呼ばないでくれる?今の私は『GLORIA』だから」
「じゃあ、俺も今はKOICHIだ。浩一じゃない」
そう言うと莉亜が笑いながら俺を見つめてくる。なんだかその態度が癪に触って、俺は莉亜の黒歴史を蒸し返した。
「自分のことを『俺』って言うのは止めたのか?」
昔莉亜は自分のことを「俺」と呼んでいた。キャラ作りの一つだったらしい。決してオタク女子にありがちなイタイ言動ではないが、本人はそのことを黒歴史だと思っている。
「……自分から『禁句』に触れるなんて、よっぽど死にたいみたいだね。いいよ。これから一生チビモンバトルをやりたくなくなるようなトラウマを刻んであげる」
莉亜からものすごい殺気が放たれる。一瞬黒歴史を掘り返したことを後悔したが、言ってしまったものはしょうがない。切り替えていこう。
彼女は俺のことを睨みつけながら笑っている。
「いい試合にしようね。3年間もネオちゃんを放ったらかしにしてた報いを受けてもらう」
「コテンパンどころじゃ、その気持ちは晴れなさそうだな」
「自分でもよく分かってるじゃん」
その間にも観客が続々と集まっている。ここに莉亜がいるということが、口コミで広まっているようだ。
もはやちょっとしたチビモンの大会という規模ではなくなっている。
「それでは、あのトッププレイのGLORIAを、KOICHIは打ち破ることができるのか?!私も随分長いこと実況をしているが、これほどの大物の戦いを実況するのは初めてだ!!最高の試合が、今始まろうとしている!!!!」
いつの間にか俺が挑戦者のような扱いを受けている。
なにせ莉亜は去年、チビモンの国内リーグで一位を獲得している。stream社の中でもトップのチビモンガチ勢だ。当然と言えば当然の扱いではある。
しかし不本意だ。莉亜にこの場の注目を全て取られた。
ゴリマッチョが莉亜を大きい声で応援している。彼女はそれを見ると俺に話しかけてきた。
「仮にもプロゲーマーを名乗っているのに、素人をボコボコにしているなんて………プロゲーマーの風上にもおけんやつだねぇ」
「うるせぇ」
「いいね。その腐った根性、私が徹底的に叩き直してあげるよ!!」
そう言って莉亜が実況者に、チビモンバトルを開始するように促す。
実況者は未だ興奮冷めないと言った様子で、観客に向かって叫んだ。
「さぁ、GLORIA vs KOICHI。スタートだぁ!!!」
観客の熱狂がびんびんと伝わってくる。この試合の主人公は完全に莉亜だ。
〈ゲームスタート〉
まず俺は羽山から支給されたチビモンの「アマリウス」を場に出す。ARとは思えないほどの威圧を放っている。
去年のチビモン国内リーグで、彼女は炎タイプのチビモンを最初に出していた。今回も同じようなプレイスタイルで来るだろうと考えて、炎タイプに有効な水タイプの「アマリウス」を選択した。
予想通り莉亜は去年の国内リーグと全く同じチビモンを場に出してきた。
読みが当たったことに俺は内心笑う。チビモンに関しては全くの初心者と言ってもいい俺に読まれるとは、莉亜も大したことはない。
勢いづいた俺はアマリウスに攻撃の指示をする。
「いけっ、アマリウス!『フルタイフーン』だ」
〈アマリウスのフルタイフーン!〉
アマリウスのフルタイフーンが命中する。
しかし彼女のチビモンが倒れる様子はない。それどころかあまりダメージも負っていない。
「マジかよ………炎タイプに有効な水タイプでさえ、莉亜のチビモンにはほとんどダメージを入れることができないなんて……」
俺は思わず膝をつく。国内一位の肩書きは伊達ではない。
まさか属性相性の有利を取ってなお手も足も出ないとは…………。
莉亜のチビモンがアマリウスに攻撃する。アマリウスはその攻撃1発で倒れてしまった。
「アマリウスぅぅぅ!!!!!」
嘘っだろ、おい。強すぎるだろ。その仕打ちはあんまりだよ。
「終わった…………こんなん絶対負け確じゃねぇか」
「浩一君どうしたの〜?元気ないね。せっかくこのGLORIA様が相手をしてあげてるんだよ。狂喜乱舞するぐらいのリアクションをとってくれてもいいんだけどな〜(笑)」
「このドクズ野郎がぁぁ!!!!」
「乙女に野郎なんて、浩一君ってばデリカシーのかけらもないね」
それからの戦いはもはや一方的な蹂躙だった。
莉亜は俺がチビモンが倒される度に自分のチビモンを交代させた。それもチビモン世界大会の時と全く同じチビモンだ。
つまり舐めプだ。去年のチビモン国内リーグは『奇跡の試合』なんて呼ばれているようで、それが再現されていて観客たちは大盛り上がりだ。
「あの『奇跡の試合』のチビモンたちが、容赦なくKOICHI選手のチビモンたちを蹂躙するぅ!!!KOICHI選手もGLORIA選手のチビモンに有効な立ち回りをしていますが、全く敵わない!!!!」
今、俺の最後のチビモンが倒された。この試合で俺は莉亜のチビモンを一体も倒すことができなかった。
俺はチビモンに関しては素人同然なんですから、もう少し手加減してくれてもいいと思う。
「GLORIA選手の勝利だー!!!!最高の試合で魅せてもらった!!!!」
俺は大きなため息をつく。目の前にはARのチビモンを愛おしげに撫でている莉亜がいる。
「いやー楽しかった。3年間の恨み数パーセントはここで晴らせたかもねぇ」
彼女はまさに愉悦という様子で笑っている。
「容赦なさすぎるだろ。もうちょっと弱者への配慮があってもいいと思うぞ」
「それ、ゴリマッチョさんにも言える?」
たしかに俺はアマチュアのゴリマッチョをぼこぼこにした。それを持ち出されてしまっては反論できない。
莉亜がサングラスをかけ直す。
「ねぇ、これから一緒にご飯でも食べない?」
「あんたと話すことなんて特にないけどな」
「私はあるの。ネオとの関係がどうなったのかとか、stream社にはいつまでいるのか、とか」
俺たちがステージから降りると、ものすごい歓声が辺りに響いた。正確には莉亜に向けての歓声だ。
それに莉亜は手を振って応える。
「スーパースターも大変だな」
「そう?私は注目されるのが好きだからstream社に入ったから」
俺たちはレストランに向かおうとするが、群衆が邪魔で通ることができない。莉亜もそれにいちいち対応しているから、とても時間がかかる。
莉亜がおすすめのレストランというところに案内してくれた。
俺は居酒屋のような大衆食堂を想像していたが、彼女のおすすめというのはフランス料理を提供している高級店だった。
タワマンの最上階にあるレストランで、正直自分の服装が心配だった。
俺たちがレストランに入った頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
GLORIA[トッププレイ]
本名、浜辺莉亜 女性
ターン制バトルゲームを代表するチビモンを主にプレイし、他には有名カードゲームのカードスピリットなどを専門にする。
6年前にstream社に所属した、B世代の一人であり古くからstream社を支えてきた。stream社に入る前の芸能的な経歴はなし。
モデルと言われても違和感がないほどの美貌とスタイルを持ち合わせている。
注釈
stream社創設から1年目までに所属したストリーマーたちをA世代、1年目から2年目までに所属したストリーマーたちをB世代と呼ぶことがある。
同様に3年目までをC世代、4年目までをD世代、5年目までをE世代というように続いていく。
ただしstream社創設時に所属していたメンバーは、この法則にあてはめずに“四天王”と呼ぶことが多い。




