08:秘策があると言う事で
僕の声がフロアに響き渡ると、実にそれっぽい雰囲気で、魔法少女ミナミのカウントダウンがはじまった。
「カウントダウン!!10、9、8、7、6、5、4、3、2、1!―――来ます!!」
理解はしていたが、再び巨大モニターに映し出される『スペースインベーダー』
それを見て、指をポキポキと鳴らすカンバヤシは、多少カッコイイ感じの声色で『こいつぁ……50はいるか』と、言うが、正直お馴染みの『インベーダー』のレイアウトだった。
つまり、横11、縦5……合計55体が、よく見るレイアウトだ。
どんなにカッコイイ感じの声色を使おうが、普通のゲーム画面を見て言ってる状態である事には変わりない。
そんな事を思っていると、眼鏡男子のモモタが告げる。
「カンバヤシさん!先の戦いで破壊されたシールドも回復してるっす!」
「よし!モモタ!よくやった」
シールドはステージ毎に全快するのが当然なので、よくやったのは眼鏡男子のモモタではなく、ゲームを開発した人なのだろう。
でも、モモタは、しっかりドヤってるし、カンバヤシはヤル気で満ち溢れている。
そして、インベーダーとの闘いが始まった。
そして、予想通りの展開だった。
カンバヤシの攻撃は―――とにかく当たらない!
あんなに規則的に動いているというのに―――当たらない。
「くっ……なんて攻撃だ……次から次に攻撃してきて、まったく隙がねぇ」
などと、カッコイイ感じの声色で言う。
カンバヤシは、いったい、どんな気持ちであんなセリフを言っているのだろうか、いろんな意味で不安になってきた。
そして、二階堂が『大丈夫だ今のキミなら撃てば必ず撃破できる!』と、励ましている。
そうなのだ。
今なら撃てば、きっとどれかには当たるハズなんだ。
撃て!
撃てよ!カンバヤシ!!
カンバヤシの放つ弾は、何発かインベーダーに着弾し、数体の撃破に成功した。
わりと、調子は良さそうに見えるが、魔法少女のミナミと、眼鏡男子のモモタから、とんでもないセリフが飛び出した。
「ミナミ、残弾数はどうっすか?」
「まだ大丈夫よ」
なんだ?そのルール。
雰囲気を出すためなのだろうか。
そうだ。雰囲気だ。この茶番は終始徹底されている。
時折、本当にすら感じる。
でも、理由は分からないが絶対に茶番なのだ。
そんな事を一人で考えていると、二階堂が言う。
「こうなったら…イチかバチかだな。……いいか、カンバヤシ君。私の言う事を良く聞くんだ」
「は、はい」
「―――今から一切の攻撃を禁じる」
「ちょ、マジで言って―――」
「あぁ。マジだね~」
そのやり取りを聞いて、遂に花沢が口を開いた。
「二階堂!あなた。本気で言ってるの?」
「あぁ。これは本気だよ」
「アナタを信じていいの?」
「そうだね。だから、一切攻撃はするな」
「……そんな事、認めるわけには―――」
会話を続ける二人に、カンバヤシの声が割って入る。
「言い合いしてるヒマなんてねーから!敵がどんどん近づいてきやがる!!」
「ウルサイ!いま、二階堂と話してるの!待ちなさい!」
「待てないっての!」
「待てるわよ!」
その言葉と同時に、花沢が自席の机を叩くと、巨大モニターが停止する。
そして、モニターの中央には、見慣れた文字が現れる。
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― ポーズ ―
▶ [ゲームに戻る]
[ボタン配置変更]
[ステージのやりなおし]
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これには僕も、自分の目を疑った。
あんなに、徹底されていた茶番が、もう完全に『茶番』だった。
一時停止もするし、何ならステージのやり直しも可能な様だ。
なのに、彼らは今も真面目に話している。
「二階堂……攻撃しないなんて……それは、私たち。いえ、全人類に死ねと言っているの?」
「いや、違うさ。私には秘策がある。それにカンバヤシ君なら、きっとやってくれる」
「……信じても―――」
「信じるしかない」
「今は―――それしか……」
「あぁ。」
どんな気持ちで、会話を続けてるんだ。
もう『やり直し』って項目があるなら、割と気楽なんじゃないだろうか。
だが、僕の考えが間違ってるかの如く、平然と物語は進んで行く。
「では、カンバヤシ君。ココからはキミの勇気が試される~。私が許可をするまで、敵の攻撃を避ける事だけに集中するんだ。いいな。全集中だ!」
「は、はい……」
「―――私を信じてくれ」
「はい!」
ダメだ。
会話が入ってこない。
これは、映画やドラマで言うならクライマックスなのだろうか、しかし茶番がすぎる。
何から伝えれば良いのか、分からないまま、本当に時が流れていく。
そして、花沢の『じゃぁ、再開!』の言葉と共に画面は動き出す。
敵の攻撃を避け続けるカンバヤシ。
その目は真剣そのものだった。
どんどん近づく敵に、次々と破壊されるシールド。
「ヤツらにはシールドすら無意味なんっすか……」
「ねぇ。もう、人類は無力なの?ねぇ、ねぇ!!誰か答えてよ!」
モモタとミナミの言葉も、もう僕の中には入ってこない。
いったい、どんな気持ちで、そんな言葉を言っているんだろうか。
そして、またシールドは破壊され続ける。
敵の進行を、黙って見守る中、二階堂の『まだだ……まだ引きつけろ』の言葉だけが、鮮明に聞こえる。
遂に全てのシールドが破壊された時、二階堂が声をあげた。
「カンバヤシ!機体を一番左に!目標地点の到着と同時に撃て!」
「了解しました!!うぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「よし、そしてまた引き付けろ!!」
「了解!!」
『名古屋撃ち』だった。
なんでもない、ハッキリとした『名古屋撃ち』だ。
二階堂は、腕をがっしりと組み、仁王立ちしている。
今にも『どうだ!二階堂撃ちだ!』とでも言いそうで、恐怖すら感じている。
頼むから、絶対にそんなしょーもない事は言わないでくれ。
頼む。
頼むぞ、二階堂!
そう願っていたら、インベーダーとの戦いに決着がついていた。
つづく