04:鳴り響くのはサイレン
突然、室内に鳴り響いたサイレンに、一同慌てる。
このサイレンは―――警報なのか……!?
僕が周囲を見ていると、茶髪男のカンバヤシが花沢に呟く。
「おいおい。こんなタイミングで襲撃だってよ。どーすんだ?」
「どうすんだも、こうすんだも何もないわ。総員配置について!」
花沢の言葉に三人が、ハッキリと返事をして持ち場に移動する。
その姿は、巨大怪獣と戦う組織や、5色くらいのチームで編成された者たちのバックアップなど、特撮などで見る動きそのものだった。
インカムを装着した魔法少女ミナミが言う。
「敵の数は―――おそらく2体です!」
アニメでも見た事がある。
実にそれっぽい、真剣なトーンで喋っている。
だが、見た目の魔法少女感が強いので、まるでヒーローショーのおねぇさんかとも思える様子だった。
どこかのタイミングで、『がんばれー』と強要されそうな予感すらする。
「2体っすかぁ。エースは不在だし……どうするっすか?」
「あいつら、まさかコッチの状況知ってて攻めてきたんじゃねーだろうな」
「いや、それは………」
花沢が言葉を詰まらせて僕の方を見る。
「いや、こっち見ないでくださいよ!疑う方がおかしいでしょ!」
「やはり、直ぐに判断しておくべきだったわね」
「そっちが勝手に間違えて、僕を連れてきた事実はお忘れなくっ!」
「……手の込んだ罠ね」
「絶対に認めないタイプなんですね!!」
「花沢さん!!!集中してください!!まもなく―――敵、射程圏内に入ります!どうしますか!?花沢さん!!」
「くっ!!………カンバヤシっ!やれる!?」
花沢の言葉にカンバヤシは立ち上がり、腕を捲り上げる。
「エース不在じゃ、やっぱ俺かよ!―――そりゃそうだよな……くそったれ!心の準備はできてたよ!やってやんよ!!!」
カンバヤシは、巨大モニターの前に移動し、席に座り何度か深呼吸をする。
ここからでも、縛られている今の状態でも、カンバヤシの緊張感が伝わってくるようだった。
「カンバヤシ。……カウントするよ」
「あぁ。きやがれってんだ!」
「……3……2……1!―――来ます!!」
ミナミのカウントダウンと同時に、目の前の巨大モニターに映像が表示された。
……画面全体は薄暗く、所々に光が見えるところから察するに、『宇宙空間』なのだろうか。
画面の上部には、緑色の物体が2体。
そして、その物体は右に左にゆっくりと移動をしながら、徐々に近づいてきている。
画面の下部には、『凸』の様なものが1つ、そして、赤色の水泳のビート板の様な形状のモノが4つ横並びに配置されている。
カンバヤシは指をパキポキと鳴らした後に言う。
「アイツら、本当に2体だけだ、舐めやがって!」
「カンバヤシさん!シールドは4枚展開してます!落ち着いてください」
「ミナミ!言われるまでもねぇぜ!俺は最初から落ち着いてるぜ!」
その言葉とは裏腹に、カンバヤシの貧乏ゆすりが、落ち着きのなさを物語っていた。
そして、緊迫した空気とは真逆に、どうしても聞きたい事が、脳内を過る。
いや、聞きたいと言うか、どうしても言いたい言葉があった。
「あのぉ……これって―――」
「ウルサイ!スパイ野郎は黙ってなさい!!!スパイ野郎!」
花沢のワードセンスが低いのに、心に響く強烈な暴言が炸裂した。
言い返したかったが、カンバヤシが想像以上にウルサイ。
「はぁ?くっそっ!アイツら上手く避けやがる!」
「落ち着くっす!!」
巨大モニターでは、緑色の物体が、一定間隔でビームの様なモノを画面下部に向かって吐き出していた。
ビームは『ビート板』の様なものにヒットすると、『ビート板』は少し削られていく。
そして、緑色の物体は、徐々に画面下部へと降りてくる。
その様子に、カンバヤシは一層、貧乏ゆすりが激しくなり、もはや聞き取る事が不可能なくらいの意味不明の言葉を吐き出していた。
もうそろそろ、良いだろう……言わせろ。
そう思って、僕は口を開く。
「これって『スペースインベーダー』っすよね?……昔のゲームの―――」
「なっ!何故、アンタがその名前を知ってるの!?やはりスパイだったか!スパイ野郎!」
ワードセンスの無い花沢に、襟首を掴まれ、乱暴に身体を揺さぶられる。
「あわっ!!っとっと、待って待って!みんな知ってるでしょーよ!」
「えぇぇい!スパイ野郎め!何をわけのわからぬ事をっ!」
「わかるでしょーよ!有名なゲームじゃないですかぁぁああ!」
そんな中、カンバヤシの大きな声が響く。
「うるせぇぇ!!集中できねーだろうが!」
「この茶髪!お前っ!たった2体に、てこずるな!良く見ろよ!ほら、そこで撃てって!」
「はぁ!?簡単に言ってくれるじゃねーかよ!」
「こっち向くな!撃てよ!撃てって!」
「しっ……シールド1枚が完全に破壊されました!!」
「はぁぁぁ?さっさと撃てっての!」
「うるせー!!……こんにゃろう……狙い撃つぜっ!!!」
カンバヤシが放つ一撃に、インベーダーは吸い込まれるように当たり、大きな撃破音が室内に鳴り響いた。
「確認しました!1機撃破です!!カンバヤシ!ナイス!!!」
「見やがれ!一撃だ!バカヤロー!そして、もう一機も―――これで!!!」
再び、撃破音が室内に鳴り響く。
心なしか、床も揺れている様に感じた。
何だろうか、基本一撃で倒せる事を知らないのだろうか、いや、この言葉を、この人達に伝えても、まったく伝わらない気がした。
「敵影ゼロです。防衛成功!カンバヤシさん!やりましたね!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
カンバヤシの雄叫び、みんなの拍手。
やはり、僕の言葉は、きっと彼らには伝わらない。
超巨大なモニターで『スペースインベーダー』を、椅子に縛り付けられた状態で見るという、普通じゃ考えられないほど意味不明な状況、これは一体、何なのだろうか…。
僕はただ、喜ぶ彼らを見つめるしかなかった。
つづく