03:言うなれば簡単に済んだ話
周囲のウルサイ声に目覚めると、直ぐに自身の後頭部に痛みを感じた。
……まさか……殴打されたのか……。
本当に気絶ってするんだ……。って事は置いといて、更なる異変に直ぐに気が付いた。
どうやら、椅子に縛り付けられている。
まるで、お笑い芸人の誘拐コントの様に、分かりやすく、グルグル巻きで椅子に縛り付けられていた。
そして、目の前では、魔法少女が大きな声で、僕をここに連れてきた女性に向けて声を上げていた。
「だーかーら!花沢さん!その、初の薬を試しますみたいな実験的な発想は良くない!」
「でもね。ミナミちゃん。私たちの存在が公になるのもダーメ……でしょ」
「ダメかもだけど!……ちょっと、カンバヤシも、何か言ってよ!」
「はぁ……まぁ、その……アレよ。実験はヤバイっしょ。花沢さん」
「ならば!いっそ、ひと思いにっっ!!!!」
そんな言葉と共に、僕の方に振り返るからバッチリと目が合った。
「きゃぁぁぁぁぁあ!!!」
「うわぁぁ!!!」
「なに!?起きてたの!?起きてたのに黙ってたの!?何てヤツ。起きてるなら、一声かけなさい!!」
「いや!そんな冷静になれないですって!!」
「……このまま眠ってくれていれば、簡単に済んだものをっ!」
「簡単にって……」
「佐藤くんだったけ?アナタはね。知ってしまったのよ。私たちの大切なヒミツを」
「いや……」
「諦めなさい。これは、ヒミツを知った人間の運命なのよ。ヒミツを知るというのは、それ相応のリスクがあるの……わかるわね」
「……そっちが勝手に喋っただけですよね?」
僕の言葉を聞いて、眼鏡男子のモモタ、茶髪男子のカンバヤシ、魔法少女のミナミは、目線をそらす。
しかし、目の前の女性だけは変わる事なく、目線をそらす事はなかった。
「それでも、知った事には変わらないわ」
吐き捨てる様なセリフとでも言うのだろうか。
感情も何もない様な……いや、正常な思考が働いてないんじゃないかとすら思える状況だ。
そして、女の手を良く見ると、注射器を持っていた。
『薬』『実験』……そう言う事か。これの事を言ってたのか。
……とか、思ってる場合じゃない!!マズイ!マズイ!!!
僕は、必死に椅子に縛り付けられた身体を動かした。
だが、こんなに雑に縛られているのに、一向に解ける気配はない。
「大丈夫よ。暴れないで。ちょっと、針のチクっとした痛みがあるだけよ」
「嫌だ!!なんだ!それ!!!止めろ!!」
「安心しなさい。この薬で記憶を消去するだけよ」
発言が、漫画とかドラマとかの世界だった。
信じられるか……そんな……。
などと思っていると、眼鏡男子のモモタが口を開いた。
「あ。それ、そーゆー薬だったんっすね」
「そうよ」
「てっきり、殺っちゃうタイプのかと思ったっす」
「さすがに、正義の味方が殺人はあり得ないわ」
「一般人を縛ってるって状況も『あり得ない』っすけど」
「私は本気なの!!!」
そんな会話をしながら、茶髪男子のカンバヤシが口を開く。
「ってかさ。花沢さんが、機械系が天才的なのは、分かってたんだけど、薬系にも詳しいのは意外っつーか、なんつーか……それって、本当に記憶だけ、都合よく消せんの?」
「それは、とりあえず、試してみて―――」
「あぁ……試すってのは、ミナミも良くないって言ってるわけだし―――」
「みんなも知ってるでしょ!!私たちはエースを失ったばかりなのよ!これ以上の問題は抱えきれないわ!!!」
「そ、そりゃ……そうですけど」
なんだろう、この重い空気。
それに、『エースを失った???』まさか……頭の中に過った言葉は、思わず声に出していた。
「あの……エースを失ったって、まさか……戦死……とかですか?」
「あー。……ちげーよ。夜逃げだ。夜逃げ」
「へ?」
そんな話の中、モモタが割って入る。
「突然、来なくなったんすよ。まぁ、ウチは給料安いっすからね。それか、花沢さんのキャラにストレス感じたんすかね~」
「なによ。モモタくん。さっきから、噛みつくじゃない」
「まぁまぁ、アッチにも、コッチにも、様々な事情があるって事っす。なので、この縄を解いて―――」
せっかくのモモタの優しさ溢れる言葉を遮るように、とてつもない轟音のサイレンが室内に鳴り響いた。
つづく