02:これが噂のコンセプトカフェ?
三人は何やら、小さい声で相談の様な事をしているが、薄っすら寝ぐせ眼鏡の声が聞こえてきたので、思わず口を挟んでしまった。
「いやいや、これはマズイっすよ」
「えっと、その、何がマズイんでしょうか?」
「え、あ、いや、その、あの……マズイっす。とにかくマズイっす」
「『地球防衛軍』ってのが?」
僕の言葉に座ってた寝ぐせ眼鏡と茶髪が、勢いよく立ち上がり、
先ほどの魔法少女の時と同様に、椅子は盛大に後ろに倒れる。
「あ―――!あ――――!!!言ってないっす!!」
「いや、言いましたよね」
「……あ、ボク!いま初めて喋りました。はい!ってか、ここ数年、喋り方を忘れていた気がします!良かったです!喋り方を思い出したようです!助かりました!」
「えっ……あ、うん!うん。うわ~。久しぶりにモモタくんの声を聞いた気がする~」
「いや、絶対にウソですよね。じゃぁ、『地球防衛軍』って言ったのは、茶髪のアナタですか?」
「はぁぁぁぁ!?何でそうなるんだよ!モモタが最初に言ってただろーが!記憶喪失か?」
「ちょっと!カンバヤシ!それは―――」
「あぁ?……あ。そ、そうだな!ミナミ!!よし!言ってねーし!誰も言ってねーんだ!」
この三人は何を焦りながら、絶対に誤魔化しきれない事を必死になってやってるのだろう。
それと、寝ぐせ眼鏡が『モモタ』、茶髪男子が『カンバヤシ』、魔法少女が『ミナミ』と言うらしい。
……何だこれ?
そんな風に悩んでると、魔法少女ミナミが物凄い笑顔で俺を見ている。
「いっ……いらっしゃませ~。ご主人様ぁ。ここは『喫茶 地球防衛軍』ですにゃ~」
「で、ですにゃぁ……ですか」
「あまり、大きな声で、『地球防衛軍』と申されますと、悪い宇宙人に居場所が特定されてしまいますので、初めてでわからにゃい事も多いかと思いますが、どうかここは穏便にしてくれますと助かるにゃん」
「あぁ!なるほど!コンセプトカフェってヤツですよね。都会にあるってウワサだけは聴いてたんですよ」
「いやぁ~。初見のお客さんが来ると、毎回焦るっすよね~」
「あぁ。それな」
「あ、みなさんは従業員さんなんですか?」
「はぁ?従業員?俺は~。アレだよ。あの、客的なアレだよ。アレ」
「え、カンバヤシさん、客っすか、じゃあ、ボクは従業員っす!」
「……じゃぁって……」
言葉を続けようとした所で、電話で外に出ていた女性が戻ってきた。
「ほんと、ゴメンナサイ。電話って、ついつい長話になっちゃうのよねぇ。……それじゃ、さっそく、地球防衛軍の説明をし―――」
「あ―――!あ―――――!あぁ――――!!」
女性の言葉を魔法少女が、とてもつもなく大きな声と激しい身振り手振りで遮る。
「ミナミ~。五月蠅いわよ。突然騒いでどうしたの?情緒不安定なの?」
「ちがーう!ほら!そんな秘密を喋ったら―――」
「あぁ。それね。彼は我らが地球防衛軍の待望の新メンバーよ。しかも、超エース!みんなも名前くらいは聞いた事あるんじゃない?」
「え……超エースって……もしかして……」
「そう!二階堂よ!」
「うぉおお!マヂでか!」
「なーんだ。やっぱり、関係者だったじゃん。従業員の芝居とか意味なし~。『にゃぁ』とか言っちゃったし」
「焦ったっす。ほんと、焦ったっすよ」
この人たちは、本当に何なのだろう。
とても、安堵している様に見える。と言うか、しっかりと安心している。
でも重要な事だし勘違いさせてるのも何か違うし、ちゃんと言わねば。
―――よし!
「あの……僕。佐藤です」
凄まじい沈黙だった。
苗字を言って、こんなに文字で表現できそうなレベルで『し―――ん』と、なる事があるだろうか。
少なくとも『佐藤』という苗字のパワーでは、絶対にあり得ない状態だ。
「えっと……にかいどぉ―――」
「佐藤です」
「佐藤堂くん?」
「いえ、『堂』は付きません。ってか、これって、何なんですか?それに――――――うぅッ……」
後頭部にガツンという衝撃を感じると共に僕の意識は途絶えた……。
つづく