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80.クレイジーデイズ・クレイジーナイト

「どういうつもりだ?」

 ローザの瞳に青い炎が揺らめいた。

 静かなもの言いとは裏腹に、その体が何倍もの大きさに見えはじめ、死世界の魔神の能力を持つ沖田達でさえ、その圧に押せれ一瞬たじろいだ。

 状況はもとよりそのローザの様子に、マユミ達は更に青ざめ見守っている。

 ローザが沖田達に示した作戦は細部は違えど、彼らが事前に話し合っていたものとほぼ同内容だった。

 その作戦説明が終わるやいなや、何を思ったのか、沖田が異能力を使ってローザに襲いかかったのだ。

 騒然とするムサノメンバーとローザの連れてきた部下の兵士とフレデリック達。

 しかし、当のローザは落ち着いたものだ。

 その右腕をとって後ろ手にきめたまま、ローザのこめかみにベレッタの銃口を押し当てた沖田の額から、つと汗が流れる。

「おいおい落ち着けって。何が気にくわなかったんだよ」

 両手を出して、落ち着かせるように吉川が沖田を諭す。

 フレデリックは両手で愛用のSIGザウエルを沖田の眉間にしっかりとポイントしていた。ローザの連れてきた二名の兵士は、M4カービンを沖田に向かって構えている。

 小坂は腰を落とし、井上真改に右手をかけて、目線鋭く双方の動きを見守った。

「司令官を押さえても、戦争は終わらない。新しい奴が来てエメトリアへの攻撃が続くだけだ…」

 意外と冷静な沖田の声が響いた。

「それに、司令部はフレデリックと大佐のところの元SAS隊員達でも制圧可能だろ?」

 面倒くさそうにローザーが大きく膨らんだ胸元のポケットから、片手でゆっくりと葉巻を取り出すと、口で端を引きちぎった。

「フレデリック、火だ」

 右手にザウエルを構えつつ、フレデリックが片手でバーナータイプのライターに火を付けると、ローザに差し出した。

 数度口でふかして葉巻に火を付けたローザが旨そうに煙を楽しみだした。

「この私にそこまでするとは、よほどの覚悟のようだな」

 ゆっくりと煙を吐き出す。

「お前の案を聞いてやる。話してみろ」

 後にいる沖田を横目でギラリと睨んだ。

「まあ、作戦もクソもないんだけどさ…」

 沖田が自分の考えを話出す。

 簡単な説明ではあったが、聞き終えたローザが真っ先に笑い出した。

「くっくっくっ。そんなことが可能だと思うのか?」

「あんたら昨年、同じような事、俺らに実施させようとしたよな?」

 沖田が少し声を荒げる。

「まあいい、離せ」

 言うが早いか、ローザが常人では決して外すことができない、異能力で固められた左手を軽々と外すと、くるりと沖田に振り返った。

 瞬間、どこをどうしたものか、沖田が二回ほど空中で回転して、頭から床に落ちて目を回した。

 それみたことかと、吉川が顔を手に当てて天井を振り仰ぐ。

「心意気は買ってやる。おまえらもそれで良いんだな?」

 ローザが吉川と小坂に聞いた。

「こいつだけ行かせると、向こうでも新たな戦争が始まりそうだしな」

 吉川が両手を呆れたように挙げ、小坂が頷いた。

「私たちはPKOの人達と、イギリス海軍の停泊地まで、この資料を届けるわ」

 大江が言うと、まゆみ、智子といった非異能力メンバーが頷く。

「三方面作戦か。マムからはなるべく被害を押さえてと言われているが…」

 ローザの青い瞳に一瞬だけくぐもったが、葉巻の煙がそれを隠した。


 もうもうと上がる炎と黒煙の下、人の肉の焦げる臭いがあたりにたちこめ、息をすることさえままならなかった。

 住宅街にある小児科病棟に直撃した焼夷榴弾は、その辺り一帯を火の海に変えていた。

 数台の消防車とパトカー、救急車が駆けつけていたが、付近に次々と着弾する榴弾のせいで、生存者の救出や消火作業もままならない。

 泣き叫ぶ母親と絶望に瞳を染めた父親達。救助活動をしようにも、炎の勢いが激しく、完全装備の消防士でさえ近づくのが困難だった。

 ソビエト軍とエメトリア革命軍の連合軍からの一方的な通告で始まった、エメトリア市内への攻撃。

 エメトリア女王派国民軍の軍事施設を対象に実施されるという名目の元、一般市民の、それも、女性、子ども、老人、病人といった弱者を対象として、執拗な対地攻撃が開始された。

 軍事目標はもとより、社会的な弱者、非戦闘員に対して徹底した一方的な攻撃を行うことで、圧倒的な恐怖と畏怖を植え付けていくことを目的としているその苛烈な攻撃。

 市内の各地が対地攻撃にさらされ、一般市民の死傷者は、革命中に死んでいった数を遙かに超えた。

 エメトリア城からは、市内に燃えて黒煙の出ていないところを探すのが難しいくらい、全域が赤々と燃え染まったような景色だけが見える。

 空は夜だというのに、炎を照り返して赤く光り、まるで昼間のようだった。

 カーテンを握り、その様子をじっと見つめるエリサの顔もまた赤く染まっていた。

「姫様、そろそろご準備を」

 エリサは全身を白い僧侶服で身を包んでいた。

 同じ格好をした侍女らしき中年女性に振り返るとエリサが頷いた。

「沖田達からの連絡は?」

 ソビエト軍の妨害電波の間隙を縫って、PKO部隊のまでたどり着いたとの連絡はあったものの、その後連絡がつかなくなっていた。

 侍女が力なく首を振った。

 エメトリア国民軍の、子ども、女性を含む、一般市民を巻き込んだ、苛烈な反攻作戦が開始されてようとしていた。

 数時間後には、死して尚戦い続ける狂戦士と化して、普段は家庭で使われる工作バサミや果物ナイフ、バットや鉄パイプを武器として、最新鋭の装備のソビエト軍と革命軍に襲いかかる市民の群れで市内は溢れかえるだろう。

 人だけではなく、対象地域の動物たちまでも、その牙や爪を武器として、敵に襲いかかる。

 術者の脳は限界を超え、何人もの廃人を作り出す。

 短かったが、武蔵野大学附属高校での寮生活を、一瞬だけ思い出して、エリサが唇を噛みしめ、眼を閉じた。

 術式が終われば、自分はそんな感情すらなくなってしまうだろう。

 自分とエメトリア国民全員の未来を思い、エリサは静かに城を進んでいった。


To be continued.

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