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49.パトリック・グランド

 武蔵野大学附属高校を中心とした、学生メディアでのエメトリア革命軍の圧政への非難と、政府のエメトリアへの経済制裁、平和維持軍派遣を促す強い論調は、その中心となる発信者が日本の高校生ということもあって、テレビ、新聞、雑誌といったマスメディアを巻き込んで盛り上がりをみせていた。

 しかし、日本政府の反応は鈍く、対応の検討も野党を中心として提案はされていたが具体的で有効な実施策が行われることはなかった。

 革命軍による厳しい情報統制により、エメトリア国内からの情報も日本に入ってくることが少なく、ニュースメディアも次第にこの話題を取り上げることが少なくなってきていた。

 80年代から90年代前半のインターネットのなかった時代、ネット回線を通じて世界中に一瞬にして情報をとどけることはできなかった。

 人が現地で情報収集を行い、それをアナログ的に記事や画像、映像にして国外に持ち出すか、電波や電話回線を使って特定の受信者に送信するしか方法がない。

 ちなみに、昭和はデータを音声信号に変換して電話回線メタルケーブルで送っていた。Faxはその典型で、パソコン(当時はマイコン)で作成したデータをテープレコーダーに保存していた。沖田達の時代には3.5や5インチのフロッピーディスクが主流で容量は1メガバイト程度なので、解像度の高い写真等はもちろん保存できないし、また解像度の高いカメラも一般には存在しなかった。

「やっぱ、俺らで乗り込むしかねぇかな」

 自動車部のガレージで次のレース用のバイクをいじりながら藤木が言った。

 エメトリア近郊の国まで成田から国際線で飛び、その後レンタカーなどで国境付近まで行き、革命軍が守る検問を突破する必要がある。

 旅費だけでもかなりの額になるため、男子部のメンバーでも色々と金策に走ってみたものの、足りるわけもなく、集まっただけの金を持って渋谷の場外馬券場に行こうとした藤木達を見つけた大江とマユミ達が彼らをぶっとばして止めたりしていた。

 昨年、ムサノ生を含む学生達をイラク軍から救出するのに一役買ったマルコ大佐とその娘のローザにも、決められた周波数でコールしているが反応がなかった。

 ムサノメンバーが悶々としている中、イギリス大手放送局CBTとAFPが配信するニュースが日本国内で流される。

 日本の大学で学び、その後エメトリアの大学や企業で働く知識人や会社員とその家族の多くがエメトリア革命軍に拉致され、行方不明となっているという内容だった。

 そしてエメトリア国外に脱出した一部の一般人から、反革命派が収容されている強制収容所について衝撃的な内容が伝えられる。

 国外の協力者、それは限りなく諜報機関寄りの勢力によって助け出された、エメトリア大学の教授の発言と持ち出された映像は、ワイドショーを始め各チャンネルのニュースで取り上げられた。

 ナチスドイツのアウシュビッツを現代に復活させたようなその内容に、コメンテーターは息を飲み、映像を見た視聴者の衝撃も相当なものだった。

 しかし1週間も経つとその衝撃は日々の生活や身近で自分たちにとって緊急性の高いニュースによって埋め尽くされていってしまう。

 そこに壮絶な苦しみを被っている人達がいたとしてもだ。

「まゆみちゃんがいないってどういうことよ?」

 夜中、新聞部編集室で深夜の編集追い込みに入っていた大江の所に、まゆみと同室の智子がかけこんできた。

「あのニュースを見てから様子がおかしかったのよ」

 身近にいた智子ですら気がつかないうちに、まゆみは姿をくらましていた。

 ハンドトーキーでアマチュア無線部と自動車部に連絡を入れた大江が、新聞部のメンバーと共に学内を一通りさがしてみるも見つからない。

 すると、編集部の1年生から、

「大きめのボストンバッグを持ったマユミ先輩がバスに乗るのを見た」

 という情報が入ってきた。

 学内の監視と、深夜のラジオ放送を続けているクラブハウス屋上アマチュア無線部とハイテク部の部室にメンバーが集まった。

「吉川のこと、追いかけてったんだな」

 藤木が断定的に言い、長島が

「健気やねぇ。吉川にはもったいない」

 とため息をつく。

「追いかけるったって、どうやってよ?!」

「夏休みのバイト代全部突っ込んだんじゃないの?」

「ってことは、成田からか」

 長谷川が世界地図を出して、東欧の首都と空港を検索し出す。

「この辺りは今やどこも政情不安だからなぁ。ドイツ経由、あとは、オーストリア辺りか」

「で、どうするのよ?!」

 大江と智子が男子連中に詰め寄る。

「どうするったって、なけなしの軍資金も競馬で…」

 結局、地方レースの万馬券に突っ込めるだけ突っ込んで玉砕した長谷川が口を滑らす。

「なんですってぇっ!」

 大江が長谷川につかみかかり、長谷川が部室内を逃げ回る。

 その時、部室のドアがまたしても思い切り開き、男子連中はすぐさまソファーや所狭しと置かれた機材の影に一瞬で隠れた。

 またしてもローザが来たと思い、物陰からドアの方を伺う。

「ヨカッタ、ミンナオキテタネ!」

 そこには、完璧なブリティッシュスーツスタイルの青年が片言の日本語で飛び込んできた。

「だ、だれ?!」

 びっくりした大江と智子が飛び退く。

「ヒサシブリダネェ、Are you all right?」

 ビックリして立ち尽くす女子達の手をとって握手をしていく。

 ドアの向こうには日本人ではあり得ないがたいでかいシークレットサービスが三人控えているのが見えた。

「パトリック?!」

 英国紳士を気取ったとっつあん坊やといった感じの青年に、男子連中が驚く。

「なんだって急にこんなところに?!」

 物陰に潜んでいた男子連中がどやどやと出てきた。

「ミンナツメタイネ。コマッタトキ、ヨベッテイッタヨ」

 日本人が真似する中国人のような日本語で話すパトリックを見て、智子が長島をつついた。

「誰、この人?」

「パトリック・グランド。昨年、イラク軍の包囲から一緒に脱出したメンバーの一人だよ」

 懐かしげに皆と挨拶するパトリックは、英国のどこぞの貴族の子息のようにも見える。

「どうやって来たんだよ?」

 長谷川がパトリックにソファーに座るように促し、皆もそれぞれに座るところを見つけた。

「おばあちゃんの命令ね。今、海軍士官学校の訓練に参加よ。クィーンエリザベスが横須賀に寄港予定だったね。僕だけヘリで先にきたあるよ」

 相変わらず変な片言日本語で話すパトリックを不思議そうに見つめる智子達をみて長島が人の悪い笑みを浮かべる。

「いやいや、俺たちの教えた日本語、うまくなったねぇ」

 昨年、行動を共にしていたときに、お互いの母国語を教え合っていたのだが、長島達はふざけてパトリックに、日本人がものまねする中国人のような日本語を教えたのだった。

 何かを察したのか、大江が長島を白い目で見る。

「おばあちゃんって?」

 今度は大江が高梨をつついた。

「ああ、エリザベス女王のことでしょ」

 高梨がさらっと答える。

「エリザベス女王?!」

 智子、大江が驚く。

「確か、王位継承権がぎり10位くらいだったかな」

「今は違うね。おじさんに子どもが生まれて成人したから、11位に格下げよ」

 長島が出した緑茶を上手そうにすすりながらパトリックが答える。

「それで、みんなおこまりね?マルコ大佐から聞いたあるよ。エメトリアで沖達が戦争してるって」

「沖田が恋人を助けに行ってるだけだよ」

 と長谷川が答え、

「今、その話をしていたことろなんだよ。なんとかみんなでエメトリアに行く方法がないかってね」

 長島が続ける。

「もっとはやくいってほしかったあるね」

 話を聞いたパトリックが英語で外に控えるシークレットサービスを呼んだ。手早く何かを指示すると、当時ではまだ珍しいドデカいバッグの様な携帯電話で何かを話し出す。

「みんな、明日出発するあるよ。Are you ready?」

 電話を終えたパトリックが皆を見回してウィンクして見せた。


To be continued.

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