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47.炎の魔人とニコライの恐怖

 エメトリア国立脳科学研究所。

 東スラブ人を起源にもつ種族の中でエメトリア人の特に女性に多く発生する謎の超能力の研究と、彼女たちの人権保護のために設立された研究所。

 その名とは対照的に極めて人道的、平和的な研究が行われてきた研究施設は、革命後、軍の方針と諜報部門トップ、ニコライの嗜好によって極めて非人道的な施設へと変貌を遂げていた。

 昨年、中東での研修旅行中に湾岸戦争に巻き込まれ、人類が行えうる大抵の残虐行為は目にしてきた沖田だったが、その研究所内のあまりの惨状に、眼を背けずにはいられなかった。

「人間の残虐性ってやつは底がしれねぇな」

 むしろあざ笑うかのように言うその言葉は、沖田の言葉か、それとも奈落の悪魔達の言葉か。冥府から得られる能力の発現、極度の興奮状態にある精神状態をもってしても、理性に直接訴えかけてくるすさまじい光景の数々。

 それでも、革命軍の精鋭部隊で構成される重武装の警備兵達を子ども扱いにして倒し、先に進む沖田。

 消音機能を維持するために、熱くなったベレッタのサイレンサーを素早く新しい物に交換すると、次の標的へと音もなく移動していく。

 レジスタンス達は、沖田の後を追従する形で進んでいたが、自分とそう年齢の変わらない沖田のすさまじい戦闘能力に驚きを隠せない。

「マルコの爺さんとローザに鍛えられってからな」

 沖田らが昨年経験した状況について聞いてはいたが、まさかこれほどのものとは思わなかった。

 ほとんどの武装警備兵を沖田一人で倒しながら、地下施設から地上フロアへと侵入。研究所内に残存する内通者達と合流するため、エントランスフロアを確保する。

 まだ警報は鳴っていない。革命軍の駐留兵達が騒ぎ出すのはもう少し後になるはずだ。

 フロアを警戒していると、一機のエレベーターが下へと降りてきた。

 沖田が素早く受付のカウンターをバリケード代わりにして、ドアに向けてベレッタを構える。

 光が漏れるようにして開いたエレベータードアの中から、装甲服を身につけた兵士達を両側に連れた小男が現れた。

 はげ上がった頭、幼児の顔をそのまま成人サイズにした様な顔の大きく黒々とした眼が見開かれている。小太りの体ではあるが、その歩き方は固い軍靴を履いているにもかかわらず音がしなかった。

「諸君、よく来てくれたね」

 容姿からは想像できない、テノール歌手のバスを効かせた声音を聞いて沖田が吹き出した。

「おっさん。何者だ?」

 銃を構え直した沖田が聞く。

「人に名を尋ねるときは、まず自分からと言われなかったかい?」

 重低音の聞いた声で小男が沖田の方を見た。

「カミラ、こいつが内通者か?」

 聞いた沖田にカミラが振り向き、無言で銃口を沖田に向けた。

「オキタ。ごめんなさい」

 無造作に引かれた引き金。消音された発射音と共に、沖田の太ももに赤い穴が穿たれる。

 無言でその様を見つめていた沖田だったが、動じることもない。

 弾丸は黒いスラックスに穴を空けただけだった。

 溶けた弾丸が固い音と共に床に落ちる。

「なるほどね」

 何かを悟ったかのように、沖田が立ち上がった。

「おっさんが、例のニコライってやつか」

 ベレッタを両手でフォールドしたまま沖田がニコライへと近づいていく。

 その様子をニコライが手を叩いて喜びだした。

「すばらしい!噂には聞いていたが、それが君の超常能力か!」

 舌なめずりせんばかりにして沖田を見つめる。

「さあ、この日本人を渡して、君たちは撤退してもらおうか。姫と君たちのパパやママの所在は追って連絡しよう」

「ここで引き渡す約束では?!」

 大声に聞くカミラに、

「バカを言ってはいけない。こんな黄色い猿一匹と、姫様と貴重な捕虜を交換すると思ったのか?」

「貴様!」

 怒鳴るカミラを馬鹿にしたように見つめるニコライ。

 沖田に向いていたレジスタンの銃口が一斉にニコライに向けられる。

 と同時に、エレベーターをはじめフロアの各所からライアットシールドを構えた重武装の革命軍兵士達が一斉に現れ、カミラ達レジスタンスを取り囲んだ。

「さあ、ミスターオキタ。一緒に来てもらおうか」

 二名の装甲兵に守られるようにして、ニコライが近づいてくる。

 沖田がわざとらしく、くるりと首を回すと、腰のグルカナイフのグリップとベレッタのグリップを両手で握り混んで構え直した。

 身長180センチの沖田でも、ベレッタM93Rの銃身長とグルカナイフはバランス的に大きく見えるが、沖田は軽々と扱ってみせる。

「おっさん。エリサは無事なのか?」

「どの状態が無事というのかによるな」

 沖田の質問に、悍ましい笑顔で答えるニコライ。

 沖田がこの世のものとは思えぬ、すごい笑みを浮かべた。

「選ばせてやる。今死ぬか、すぐ死ぬか。どっちにする?」

 ニコライが首をかしげた。一瞬、この日本の高校生が下手くそなエメトリア語を間違えたのかと思う。

「何を言って…」

 ニコライが言い終わる前に、赤い口角を空けた沖田が近づいた。

 危険を察知した装甲兵がすかさず前にでてくる。

 カミラが見た沖田の動きはむしろ緩慢にだったが、それも一瞬のことだ。

 無造作に振り上げたグルカナイフ。チタン製の装甲服を全身に着込み、頭部は固いヘルメットに守られた兵士の頭部で、その刃先は弾かれるかにみえた。

 振り下ろされたグルカナイフの刀身は柔らかな粘土でも切り裂くようにして、装甲兵を頭から膝まで真っ二つに切り裂いた。

 血しぶきを上げて倒れる装甲兵。

 すかさず放たれた沖田の回し蹴りに、もう一人の装甲兵が数メートルを吹き飛ばされる。装甲の間から炎と煙があふれ出し、生きたまま焼き殺される人間の叫びがこだまする。

「カァアアアアア…」

 沖田の口から炎が溢れ、異様な燃焼音が響いた。

「我が能力を解放しようぞ」

「ああ、約束のお前らのエサだ。好きにしろ」

「御意」

 沖田の開いた口から女の声がした。

 その瞬間、全身からあふれ出す炎。

 革命軍から一斉に、狂ったように放たれる銃弾の嵐。

 今や沖田の全身を包んだ灼熱の炎は、その銃弾全てを溶解して地面に落とした。

 あまりの熱気に、カミラ達レジスタンスも後ずさり、物陰に身を隠す。

 危険を察知したニコライが、意外と敏捷な動きでエレベーターにむかって逃げ出した。

 装甲服を着た兵士達が一斉に襲い来る中を、スタスタと歩きながらニコライを追う沖田。

 その間にも、向かってきた革命軍の兵士はことごとく焼かれ、或いは、ベレッタの銃弾とグルカナイフで肉塊と化していく。

 ニコライを乗せ閉じられるエレベーターの扉。その隙間から沖田のこの世の物とは思えない形相が垣間見えた。

 扉が閉じ、エレベーターが上へと向かうと、全身に冷や汗を搔いたニコライが額の汗を手でぬぐい捨てた。

 ニコライが逃げ込んだエレベーターボックスが上に向かうのと同時にドアが炎で吹き飛ばされる。

 エレベーターシャフトを見上げる沖田の顔は、既に人の物ではない。

「いいぞぉ、ここはぁ!苦痛と恐怖と死の臭いがたくさんするぞぉぉお!」

 沖田が口を真横に裂いて赤く叫ぶと、手足を蜘蛛のように張り付かせてエレベーターシャフト上り始めた。

 

To be continued.

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