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45.人工体の魔女

「礼拝堂に保護していた負傷者達は、屋外か地下に避難させました」

 報告に来たミハイルも左肩を負傷していた。

 クラリスが傷口に手を当て細胞を活性化させることで一旦傷口を塞いでいく。

「礼拝堂で持ちこたえることはできませんか?」

 額に汗を浮かべ治療を行うクラリスが聞いた。

「革命軍の装甲兵です。ここの戦力では地下司令室への侵入を防ぐのが限界かと。それに…」

「それに?」

 更に厳しい顔をするミハイルが絞り出すように言った。

「どうやら奴ら、人工体を使用しています」

「人工体?!」

 クラリスが驚きで目を見張った。

 反革命組織であるレジスタンスを指揮する基地として利用されている、国境付近にある教会。

 その教会地下にある、非常時に使用するために用意された基地機能は、女王と一部の側近しか知られておらず、近年は使用されていなかった。

 エメトリア軍の最高指揮権を持つラトム・トラディッチ国軍大佐が起こしたクーデター後、女王派はこの基地と連携して、エメトリア国内のレジスタンス側勢力地域に拠点や、市内に潜伏する女王派と連携をとっていた。

 この教会基地は第二次大戦中、隣国からのドイツ軍侵攻を早期警戒するために、中世期の教会を改造して作られた物だった。

 トラディッチは、海外留学中だった王女エリサがエメトリアに戻ったという情報をつかみ、エリサを先に確保して人質として女王側と折衝、所在地を掴む計画を進めていた。しかし、国内での目撃情報を最後にエリサの消息が掴めていなかった。

 そこで民間学生達の密告によりこの基地と女王の存在を知ると、すぐさま配下の精鋭部隊で急襲させたのだった。

「前衛に布陣していた兵の多くが、突然窒息して倒れました」

 人間の脳の使用領域を拡大することにより、任意の空間の三次元内物質変換を行う能力は、魔女と呼ばれる彼女たち異能力者にとっては初歩となる技術だった。

 通常の人間の認識能力を超えた、一次元から五次元といった多次元操作は、脳の使用領域の拡大と高度な認識力、そしてコントロールが必要になってくる。

 三次元内の物質変換能力により、空間内の物質構造を変換する。対象の周りの空気を二酸化炭素や窒素だけに変換して気を失わせるのは、魔女達の護身術の基礎とされていた。

「人工体の研究はすべて禁止していたはずですが…」

 女王はそこまで言って言葉を切った。

 ニコライが政府に隠れて非人道的な実験を続けていた可能性が高い。そのデータを元に革命後に一気に研究を進めた可能性もある。極めて非人道的な行為の代償として。

 人口体とは、魔女を人為的に作り出すことを意味する。

 エメトリア地域に中世から多く出現した魔女。その多くは遺伝によって脳の使用領域を操ることができる能力のことだった。遺伝子上では確認できず、どのようなことがきっかけで発現するかわからないその能力を、人工的に可能とする実験を、自分の趣味と実益のために行っていた元情報局局長のニコライ。

 その一部が露見して局長を解任されて以降も、地下でおぞましい実験を行っていたのか。

 考えるだけで身の毛もよだつその行為を想像して、クラリスの顔が青ざめていく。

 一方で市内に潜伏するレジスタンス達との連絡も途絶えていた。近々予定されていた反攻作戦。しかし、それを察知したかのようなトラディッチの先制攻撃で彼らとの連携も不可能になってしまった。

「隔壁を閉鎖します!下がってください!」

 こちらに駆けつけてきた兵士達が、女王とミハイルをかばうようにして後退を開始する。

「上の階の者達は?」

「残念ですが既に…シェルターの中で援軍を待ちましょう」

 司令室の地下は、核攻撃にも耐えられるよう、シェルターになっていた。

 厚さが1メートル近くある重い鉄製の扉を、兵士が数人がかりで動かし始める。

 隔壁の向こうの通路奥には、既に革命軍の装甲達が押し寄せていた。

「?!」

 その戦闘に立つ少女の姿を見てクラリスが眼を見張った。

 頭に包帯を巻き、ところどころ血の跡の残る白のワンピースを着たその少女は、床を這いずるようにしてこちらに進んでくる。

 兵達から撃ち込まれる弾丸は少女の目前で勢いを失い、バラバラと床へと落下していった。

 前髪の間から見える赤く染まる眼がこちらを見た。

 瞬間、レジスタンス側の兵達がバタバタと、糸の切れた人形の様に倒れ込む。

 人工体に対抗しようと前に出るクラリス。それを兵達が押さえ込むようにして後に下がらせた。

 その間にも、レジスタンスの兵達が次々と倒されていく。

 重い扉が閉まると同時に、激しい戦闘音がやみ、あたりに静寂が訪れる。

「援軍といっても当てはあるのですか?」

 ミハイルに続いて司令室へと歩き出したクラリスが聞いた。

「先ほど軍事顧問から連絡が入りました。『先遣隊は既に送った。後続も向かわせる』とのことでした」

「先遣隊?そんなものが到着していたのですか?」

「いえ、我々も確認出来ていません。しかし、暗号文の内容は確かに」

 エメトリア周辺は、革命軍のジャミングと盗聴によって、国外との通信がほとんど出来ない状態となっていた。暗号文はその間隙を縫って送られてきた物だった。

「いったい、どこに…まさか、すでにやられたのでは?」

 問う女王にミハイルが無言で首を振った。


To be continued. 

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