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44.狂気の渦へ

 この数日間、朝が来る度、監禁されている部屋のドアが開けられる度に、次は自分の番だという恐怖に心から怯えた。

 逃げ出したい思いとは裏腹に情けなく思うのは、王族の血を引くプライドからなのであろうか。

 朝、隣の部屋から泣き叫びながら連れて行かれる少女の声が聞こえ、一日の終わりには無言で部屋に投げ込まれる音を聞くと、狂気に犯されそうになる自分がいる。

 壁の向こうに話しかけても声が届くことは無かった。

 およそ、人が人に行えるような行為とは考えられない、実験と称された魔女達に加えられる拷問の数々。

 隣の少女が遂に戻らなかった次の日、早朝に部屋のドアが開き、重武装の兵士と共に現れたニコライは、狂気と喜びに満ちていた。

「ようやく、時間ができましてね。ついに、姫様のお相手ができるようになりましたよ」

 恭しく一礼すると、エリサの手を取った。

 その手を払いのけ、睨みつけるエリサ。

「いつまで、そうしていられるか見物ですな」

 そのエリサの態度すら楽しみの一つであるように、ニコライが笑う。

「では、参りましょうか」

 異能力を奪われた状態では何もできないエリサの腕と足に、心理的な効果だけを目的とした鉄製の枷をはめさせて、兵士が両脇から抱え上げた。

 その間、体の震えを抑えることができない自分をなんとか抑えようとする。一度目にしたら忘れられない狂気の光景を思い出してしまう。

 連行されるエリサの後から歩くニコライに、兵士が一人近づいて耳打ちした。

「なんだと?!」

 頷く兵士とともに足早に廊下を歩き出す。

「まさか、フォークの奴が…」

 エリサ達とは反対方向に遠ざかるニコライの声は聞こえなくなった。

 目出し帽をかぶった屈強な兵士に両脇から吊されるようにして エリサが鉄製のエレーベーターに運び込まれる。

 そのドアがこの世との繋がりを絶つようにゆっくりと閉じていった。


「俺ら陽気な殺人マシン♪ニッコリ笑顔で両手にナイフ~っと♫」

 タクティカルライトで照らされる地下道を、レジスタンス達が滑るようにして進んでいく。

 先行するカミラに続く沖田が腰のグルカナイフに手をかけて陽気にリズムをとって走り抜ける。

「静かにしろ。なんだその歌は」

 カミラが振り返り、沖田を睨んだ。

「こんなカタコンベ(地下墓地)みたいな陰気くさいところ、歌でも歌わんとやってられんじゃん」

 沖田が言い返すと、

「貴様らはあのニコライの恐ろしさを知らないからな」

 憤然とするカミラ。

「しかし、今のあの研究所の内情を見れば…」

 カミラが言いよどむ。その様子を見た沖田が、

「もし、エリサに何かあって」

 沖田が一度言葉を切った。

「俺が返事をしなくなったら、迷わず逃げろ。できるだけ遠くに離れるんだ」

 カミラの目を見つめる。その深淵を覗き込むような眼の闇を見て、カミラの背筋に冷たい物が走る。処刑場での彼らの壮絶な戦いぶりが脳裏に蘇る。

「どの程度離れれば良いんだ?」

「できるだけ遠くに。出来れば3km以上」

 沖田のその声を聞くと人外の何かと話しているような恐怖に捕らわれる。

「何を言っている?戦術核でも持ってるというのか?」

 沖田が気味悪く笑った。

「放射能はでねーから安心しな。ただ俺らは相当に呪われてるからな。深淵にたどり着いた魂を犠牲にすれば、この程度の国土は吹き飛ばせるらしいぜ」

 暗い声でおどけてみせる沖田。

 意味がわからないとカミラは思う。しかし、この一見、平和な日本の高校生達に異常な能力があることも確かだった。

 聞けば昨年の湾岸戦争時、イラク軍の包囲網から彼らは高校生だけで抜け出してきたという。

 イラク軍が誇る精鋭の戦車部隊をも撃破した実力があるとの情報も入っていた。

「姫は人質として、我々との交渉に利用されるはずだ。簡単にニコライのおもちゃになるようなことはないはずだ」

 しかし、カミラはニコライの尋常ではない欲望の満たし方を知っていた。

 もしかしたら間に合わないかも。その時、女王になんと報告すればいいのか。姫があのニコライの手にかったときいたら、どんな親でも気が狂うほどの苦しみを味わうだろう。

「いいか、忠告はしたからな」

 沖田が念を押すように言い放つ。カミラが無言で頷いた。

「着いたぞ」

 隊員の一人がタクティカルライトで右の壁についた鉄製のドアを照らしてみせる。

 内通者の方でドアの施錠は壊されているはずだった。

「さて…」

 沖田がブツブツと何を口ずさむ。今度は歌では無かった。アラビア語の一種に聞こえる。

「我、魔神の戒めをすべて解き放ち、深淵へと赴かん」

 最後は日本語で言い終える。その目が一瞬赤く光った。

「先にいくぜ」

「あ、待て」

 カミラが停める間もなく、姿勢を低くした沖田が、1キロ近くあるサイレンサー付きのベレッタを軽々と左手でフォールドして、ドアを右手でそっと開けて中に滑り込む。

「邪魔する奴は全員、あちら側に道連れにしてやる」

 地の底から響くような声に、カミラの背筋が凍り付いた。


To be continued.

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