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32.電気椅子

 戦場と化した街の廃墟から、皆で本を集めて作った地下図書館。

 脱出のための過酷な訓練の合間を縫って、沖田達も崩れかけた廃墟から、平和な生活の臭いの残る本達を集めては図書館へと運んだ。

 毎日爆撃が行われる戦場のまっただ中にある、平和と文明の小さな象徴。

 普段は子ども達の笑い声、そして、静かに読書にふける老人や女性達で賑わうこの図書館も、今は暗く、ほこりっぽい空気で満たされている。

 避難してきた多くの女性と子ども、老人が膝を抱えてひしめき合い、異様に白く光った眼だけが、不安そうにお互いの姿を確認する。

 イラク軍から落とされる樽爆弾の衝撃は、経験した者でしか分からない物理的にも精神的にも、激しい衝撃がある。

 落下音の後に続く、絶対的な破壊音。その都度、生産される沢山の死傷者。

 爆発音は音の前にまず、壮絶な圧力が周辺を威圧する。

「オキタ。お前達は早く脱出しろ。やつらがこの街に攻め込んでくるのも、もはや時間の問題だ」

 年上のアラブ人女性。ベールに覆われたその顔から覗く、強い光のこもった眼が、沖田達を見つめた。

「だけど、アイーシャ達を置いていくわけには…」

 年上の女性に対する憧憬と憧れ。死の危険が常に伴うこの街で、沖田達に生きる術を教えてくれた母親のような存在。

 理系の強い大学の附属高校として、年に一度ほど、希望者は海外での研究見学や実験に参加出来るプログラム。

 沖田達も1年のごとに、クエートが主催で実施された、「化石燃料に頼らない、新たな燃料システムの構築」という、世界中の研究者や学生が参加するイベントに日本から参加していた。

 世界各国から集まってきた研究者や学生達。

 コミュニケーションをとるだけでも数日が瞬く間に過ぎていった。

 そして、突然の侵攻。

 イラク軍がクエートへと侵略を開始し、平和だった街は突如として戦場と化した。

 沖田達の滞在していた街は、イラク国境に近かったため、脱出する間もなく包囲された。

 街の道路には急遽バリケードが組まれ、国境沿いだったためクエート軍と民間の自衛組織が手を組み、イラク軍の侵攻を阻む。

 イラク軍自体は首都の制圧を先行するため、この街を部隊の一部で包囲させて、主力部隊は先へと進んでいった。

 街からの脱出を試みるも、イラク軍の陣容は厚く、素人同然の沖田達学生は爆撃にやられて死ぬか、イラク軍に投降するか、もはや時間の問題だった。

「血の海で訓練した上、あの忌まわしい呪いまで受けいれたんだ。さっさとこの街から離れるのが賢明だぞ」

 わざとそうしているのか、冷たく言い放つアイーシャ。

「だからさ、呪いを受けた俺たちなら、みんなの脱出路を開くことも…」

 これまで何度となく提案してきたその案を、アイーシャはその度に否定してきた。

 なおも食い下がる沖田達に、

「わかった。そこまで言ってくれるなら、作戦を考えてみよう。皆で脱出できるようにな」

 AK47を肩に担ぎ直して、アイーシャが微笑んだ。

 その微笑みを、今だ忘れることが出来ない。

 勇敢な戦士であり、リーダーであり、そして、憧れの以上の憧憬に近い母性の存在。

 この後、この言葉を信じてどれだけ後悔したことか。

 涙が流れたかと慌てて眼をこすろうとして、ふいに自分の状況に気がつく。

 ここは、平和な日本の武蔵野大付属高校男子寮の一室ではないはずだ。

 腰と背中に固い椅子の感触が伝わり、手を動かそうとして何かに固定されていることに気がつく。

「気がついたか」

 竹藤の声に振り向くと、椅子に座る姿がぼやけて見えた。

 周りを見回すと、堅いコンクリートの部屋で吉川、小坂も椅子に座らされているようだ。

 そこは、コンクリートの壁に囲まれ、鉄製の机と椅子だけが置かれた殺風景な部屋だった。

「頭と首が痛ぇ」

 頭が重く、今だに意識が朦朧とする。急性の催眠ガスを使われたことは明らかだった。

 女王と別れ、フォーク少佐に案内された別室に沖田達が入って暫く待つ間に急速に意識を失ったことを思い出す。

 痛む頭でなんとか周囲を見回すと、同じような状態で吉川と小坂が眠りこけている。

 二人を起こそうと立ち上がったところで、ガチャンッという音共に椅子にしっかりと拘束されていることに気がついた。

 重い頭を持ち上げ自分の体を見てみると、両手足首、腿、腰、そして肩までも、錆の浮いた鉄製の拘束具で固定されていた。

 嫌な予感がして目だけで頭の上にかぶせてある物を見上げると、電極の様なものが繋がった鉄製の冠が被されていた。

「ま、まじかよ!」

 沖田がガチャガチャやり出した音に反応して、吉川と小坂ようやく眼を覚ます。

「な、なんだこれ?!」

 二人も椅子の上で暴れ出した。

 しかし、固い椅子の上に鉄製の枷で全身を固定されているため、どうなるものでもなかった。

「こ、これ…あれだよな」

 吉川が冷や汗を浮かべ、目を見開いて二人を見つめる。

「あれってなんだよ」

 とこれは小坂。

「だぁーっ!言うな!絶対言うなよ」

 なんとか拘束を外そうと沖田がさらに暴れ出す。

「で、電気椅子、だよな」

 言って吉川が息を飲んだ。

「言うなって言ったのに!」

 三人がまた椅子の上で暴れ出すが、かなり頑丈な作りらしくびくともしない。

「まずったな」

 沖田がぼやいた。

「だぁからぁ、目立つなって言ったのに」

 吉川がガチャガチャやりなが怒鳴った。

「お目覚めのようだな」

 設置されたスピーカーからコンクリートの室内に、甲高いフォーク少佐の声が響く。

 壁の一部がマジックミラーになっており、フォークはそこから見ているようだった。

「兵達を一瞬にして虐殺した連中にしては、簡単に捕まるものだな」

「!?」

 三人は一瞬、目を見交わすもすぐに、

「日本の高校生相手に、何言ってんだ?おっさん」

「俺はルパンじゃなーい!」

「弁護士を呼べー!弁護士を!」

 一斉に暴れ出す。

「難民キャンプで君たちに襲われた兵達から既に報告があってな。まさかと思うが」

 フォークの甲高い声がスピーカーを通してコンクリートの壁に当たってひび割れ、余計に不快感を増長する。

「トラディッチ大佐は君たちに興味をもっているようだ。もし君たちが我々に協力するのであれば、連れてくるように言われているがどうするかね?」

「条件によるな」

 何か言おうとした沖田を制して、吉川が答える。

「俺たちと、エメトリア女王とその家族、関係者の安全をまず保証してもらおう」

 フォークの甲高い笑い声がコンクリートの部屋に響いた。

「バカなのか?たかが、日本のハイスクールにそこまでの価値があると?」

「あんたの上司、モンチッチだっけ?やつはそう思ってるかもよ?」

「黙れ。あのような噂話を誰が信じると?どんなからくりだったか知りたかっただけだ」

 天井に張り巡ぐらされた太めの配線から通電を開始する鈍い振動音が伝わり始めた。

「女王派の軍事顧問が特殊部隊を派遣したという情報もある。兵達はそれと混同したのだろうよ」

 徐々に配線からの振動が高まってくるのを感じて、沖田達が慌てて拘束具を外そうとガチャガチャとやり出した。


To be continued.

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