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27.彼女たちの戦い2

 武蔵野大学附属中高新聞部が総力を上げて、学内で発生した外国人工作員による襲撃事件と強制捜査、そして、警察を始めとした政府機関からの脅迫について掲載された記事と資料が、連絡の取れるすべてのメディアのしかるべき窓口に、部員自らの手で持ち込まれた。

 卒業後はマスメディアで活躍する先輩の多い新聞部だけあって、内容的にはそのままニュース原稿にも新聞、雑誌記事にも使用できそうなクオリティの写真とテキスト原稿が同封されている。

 そのセンセーショナルな内容に、日本だけで無く海外メディアを含むマスコミは、その日のニュースや番組、紙面や誌面に取り上げるかどうか、局長クラスを含めて悩むことになった。

「とりあえず、裏取りだ。武蔵野大附属に行くぞ」

 左派で現政権批判の強い東京帝国新聞の外報部デスク安藤が記者に指示を出し、武蔵野大学附属高校へのアポを入れさせる。

 相手が渋っても、今日中にインタビューを強行して、近県にも配布される11版の社会面、可能なら一面には間に合わせるつもりだった。

 学校側の広報部は当日の取材には応じないだろうと踏んでいると、意外にもすぐにインタビューに応じると回答があった。ただし、他のメディアからの問い合わせも殺到しているため、安藤達のチームは5番目、30分の時間制限付きだ。

 広報部の教員や事務員を抱き込み、半ば強引に対応できる体制を、新聞部を含む学生で行えるようにしたのは、新聞部部長の大江弘子と副部長の高梨だ。

 足りない部分は、学校外で学生達を捕まえてインタビューを行い、事後承諾を得れば良い。

 急ぎ準備を進める安藤のところに、サブデスクの伊藤がやってきた。

 こういう事件にすぐに首を突っ込んでくる伊藤は、自らも取材に行くと言ってきていた。

「安藤さん、主筆が呼んでる」

 若干青ざめた伊藤の顔を見て、安藤もピンとくる。

 急ぎ主筆室に行って聞かされた話は、武蔵野大学附属高校への取材延期の話だった。

 安藤は、長年この業界で働いてきており、海外特派員を経て外報部デスクになって3年経つ。

 東京帝国新聞は他の政府方針追随型の大手新聞社と違い、大手の扱わない巨大な暗部に常に先んじて切り込んでいく方針を貫いている。

 その方針の一番の推進者である主筆がこのような決定をすることは珍しいことだった。

 地方紙とはいえ、東京を代表する新聞社であり、バックに付いているスポーツ系新聞社である中京新聞の力も大きい。

 珍しく詰め寄ろうとする安藤に、

「首相から直接電話があった。米ロ双方からの圧力らしい」

 これはよほどの事だと思う。事態を理解した安藤が、

「何が行われているんです?」

「わからん。ただ、防衛庁のかなり上の方も動いているらしい。テレビの連中が、あの学校近辺で陸幕調査部のスタッフを見たとも言っている」

 向かいのソファーで手を組み一点を見つめる主筆。こうなると恐いと言うことを安藤は嫌と言うほど知っている。

「私から言えるのは以上だ。分かっていると思うが、俺たちは今のところは何もするなよ?」

 わかりましたとだけ応えて主筆室を後にする。

 最後の”俺たちは今のところは何もするなよ”が妙に引っかかる。これまで政治家の汚職、官僚の不正にするどく切り込み、批判も圧力もものともしなかった人物だ。

「なるほどね」

 妙に納得した顔をして外報部のデスクに戻ってくる。

「安藤さん、どうだった?」

 伊藤が早速やってくる。

 ニヤリと笑って見せ、

「伊藤、取材はキャンセルだ。サブデスクにいてくれ。それと斎藤君!」

 編集補助のアルバイトである大学3年の斎藤がチッカー切りの作業を中断してやってくる。

 ちなみにチッカーとは、幅30センチくらいのロール紙の入った電信用の印刷機のことだ。ロイター、AFP、時事、共同等々のチッカーから常に情報が配信されており、チッカーは常にそれを印刷し続ける。多い時は数十メートル分のチーカー紙を内容を見て、定規でビリリと切って整理してデスクに持って行く。インターネットが無かった時代はそんな装置で各国の情報を受信していた。

「この武蔵野大付属から送られてきた資料、一式コピーして内幸町のBBCデスク行ってくれ」

 武蔵野高校から投函された資料一式を渡す。

 驚いた伊藤が、

「いいんですか?こんな特ダネ。イギリスのメディアに渡しちゃって」

 CBTは二次大戦末期に設立された英国の公共放送で、24時間世界のニュースとドキュメンタリーを放送している専門チャンネルを持つ。東京帝国新聞とは提携関係にあった。

「黒船は常に海の向こうから向こうからやってくんのさ」

 自分でも例えが悪いなと思いながら安藤が言い、すぐに出発するように斎藤に指示を出す。

「なるほどね」

 今度は伊藤がニヤリと笑い、安藤の肩を叩いた。

 内容を見ながらコピーを開始した斎藤に、

「そういえば、斎藤君も武蔵野大だったよな?」

 安藤が声をかける。

「ええ、中高もムサノです。僕もこの新聞部のOBですよ」

「そうか!そうだったな」

 外報部のアルバイトは大学を卒業する際に、次の新人を紹介するのが慣例となっている。武蔵野の昨年卒業の先輩から斎藤も紹介されていた。

「資料を持って行く前に、ちょっと相談があるんだが」

 安藤がコピーを取る斎藤の横で、マイルドセブンに火を付けた。


「なんですってぇっ!!!」

 18時を過ぎた武蔵野大学附属高校新聞部、部室。

 学校広報部から連絡が入り、これまで入っていた取材がすべてキャンセルになったと聞いて、大江部長が部長席から立ち上がった。

 手伝いに来ていた、マユミと智子がびっくりして大江を見つめる。

 電話をしていた副部長の高梨が受話器を抑え、

「大学部から連絡ありました。やっぱ、圧力かかってるみたいですよ」

 高梨の方をひと睨みした大江が、

「やってくれるわね」

 一言言って、席を立つ。

 慣れっこなのか、他のスタッフは今週発行の新聞が緊急特別号となり明朝発刊のため、徹夜覚悟で作業を進めている。

「デモでもします?」

 聞く高梨に、

「そんな非効率なことやらないわ。けど、似たようなものかもね」

 大江が凄みのある笑顔を向け、高梨を震え上がらせる。

「今回、部数二桁増やすわよ」

 さすがに、スタッフが全員が大江の方に振り返った。

「悪いんだけど、明日は朝から都内、近県のターミナル駅で新聞手配りするわよ!」

 一斉にブーイングと非難の声が上がる。徹夜の上、手配りするとは正気の沙汰ではない。

「シャーラップ!これは、エリサの自由を奪う連中に対する正義の戦いよ!私たちを甘く見たことを後悔させてやるわ!」

 ジャンヌ・ダルクさながらに立ち上がり熱弁を振るう。

「私たちもやってやるわ!バカにしやがって、許さない!」

 マユミと智子が立ち上がり、他のスタッフも女生徒を中心に賛同し始めた。

 折り悪く様子を見に来た長島と長谷川、藤木が部室のドアから覗き込んで、そのまま出て行こうとする。

「待ちなさいよ!」

 大江に三人ともとっ捕まってしまう。

「な、なんですか、大江先輩」

 慌てる三人に、

「学内FM局構想、あったわよね?」

 と大江が詰め寄る。

 学内FM局構想とはアマチュア無線部の機材を使用して、電波法に抵触しない範囲という建前で、ミニアマチュアFM局を武蔵野中校内に設立する計画だった。

 昨年の学祭の打ち上げ時に、酔っ払った長島が言い出し、機材やらなんやらは新年度の部費で調達していたが、パーソナリティのなり手がいないということでペンディングになっていた。

「この事、ミニFMでも流すわよ。リアルタイムでね。開局準備よろしく」

 言うだけ言って、明日に配布する新聞の一面を記事の差し替えを指示し出しだす。

「か、開局しろって言ったって」

 戸惑う三人に、

「すぐやった方がいいと思うよ。マジで」

 真顔の高梨が長島、長谷川、藤木を見つめ、うんうんと頷いた。


To be continued.

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