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0.終わらない戦争

 俺達の戦争はそこで終わったはずだった。


 地平線の先まで続く広大な砂漠地帯。一個大隊分の戦車が黒煙を上げて赤く燃え上がり、日中の砂漠の気温をさらに上昇させていた。


 呪いが解けた少年が赤い涙を滴らせながら、砂の丘陵に呆然と立ち尽くす。


 ほんの数ヶ月前まで、ただの日本の男子校生だった俺達は、今や大量殺戮者だった。

 泣き叫び、車両から転げ出てくる兵達ですら、俺達は容赦なく殺していった。

 それが、アビダリの子ども達と、なによりアイーシャ達のためになると信じて。


 陽炎の向こうから、ユニオンジャックのマークを付けたイギリス軍機がフォーメーションを組みながら、こちらに向かって来るのが見える。

 クウェートに来たのは高一の夏休みだった。

 すでに学校は二学期の期末試験前だろう。

 イラク軍の精鋭部隊に包囲された国境の町からの脱出に数ヶ月。

 俺達の長い夏休みがようやく終わろうとしていた。


 帰国後は、肉体的、PTSD等の精神的な検査やケアも行われたが、そんなことで俺達の見てきた地獄を消すことは、不可能だった。

 誰が化学兵器で焼けただれて死ぬ年端のいかない子ども達のことを忘れられるのか。

 誰が母のように慕ったアイーシャの、あの姿を忘れることができるのか。


 平和ボケした日本の精神科医や、まして騒ぎ立てる政治家、官僚ども、マスコミに、俺達の地獄が理解できるわけがない。

 日本に帰ったところで、俺達の戦争はまだ続いている。

 今日、今この時も、戦いが終わるなんてことはない。


 数ヶ月が経ち、高二の夏休みが終わる頃、夜中に叫び声を上げて目が覚めることが、ようやく少なくなってきた。


 新たな戦いが、大切な人を守るための戦いが、また始まる。

 好むと好まざると関わらず、降りかかる火の粉は自分の手で払いのける。

 バカな大人達に、俺達の戦い方を見せつけてやるんだ。


Start your own combat.

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