002
メリッサ様は俺に紙束を渡す。
「その中から一つだけ、アナタに何者にも負けない特別な力を授けることができます」
これから貰えるチートの種類が記されている。最強の魔剣や最上級魔法、魔法反射の盾といったものまで、実に様々なチートが書かれている。
大まかに区分すると、スキル、魔法、装備の三種類に分けられている。今後の人生がかかっているので慎重に選ぶ。
「決まりましたか?」
「大変申し訳ないんだが二つ欲しい」
「いけませんね。天界の規則上、転生者には、一つだけしかチートを与えることができません」
メリッサ様は片頬をふくらませて怒る。怒った顔もかわいい。結婚したい。
「そこをなんとか。二つのうち一つはチートというより、ただの頼みなんだ」
「と、言いますと?」
「俺は、これから見ず知らずの土地に行かなければならない。正直不安なんだ。だから俺が自立できるまで女神様と連絡を取りたいんだ。この際、チートよりも女神様との連絡を優先してもいい。メリッサ様とこれからも連絡を取れるならチートなんていらない」
「ふむふむ、チートより私との連絡を優先ですか。アナタのような面白い答えを出す人は初めてみました。正直とても驚いています。」
メリッサ様に感心される。自分よりもすごい人に感心されるなんて初めてだ。それが美人ならなおさらだ。というか、さっきから俺の語彙力しょぼいな。美人とか、綺麗とかそんなのばっか。でも仕方ない、俺は高校生なんだ。
「わかりました。アキト様のお願いを聞き入れましょう。アナタは私と念話ができるようにしておきましょう。」
「ありがとうメリッサ様!」
「ア、アキトさま!?」
嬉しくなった俺は、思わずメリッサ様に抱きついてしまった。メリッサ様は顔を真っ赤にしてあたふたとなる。俺は慌てて離れる。
「し、失礼しました」
「い、いえ。人間に抱きつかれるなんて初めての経験でしたので。私もびっくりしてしまっただけです。今度から気をつけてもらえれば結構です」
カンカンに怒られるかもと思ったけど、そんなことなかった。メリッサ様は咳払いする。
「話を戻しますが、アナタは私を驚かせたので、他の方々には決して渡さない、特別なチートを差し上げます」
メリッサ様は真面目な表情に変わる。キリッとしたような本気の顔。
「特別なチート?」
「はい。アナタは他の方々とは違い、少し変わった回答をしました。私自身もアナタにとても興味を持ちました。ですが、異世界はとてもシビアです。弱肉強食です。ですので、アナタが絶対に死なないように特別なチートを授けようと考えています」
「どんなチートをくれるんですか?」
「経験値増加、スキルの創造です」
「ファ!?」
雑に強いを体現したかのようなチート。でも、正直強すぎて受け取りにくい。
「あっ、せっかくですから何でも入るアイテムボックスも添えておきますね。そうそう、ステータス画面も見れないといけませんよね。最強の鑑定眼であるステータスオープンもアナタにプレゼントしましょう。
それから…………」
「ま、待ってください!」
しかもメリッサ様は、こちらから何も言っていないのにどんどん新しいチートを渡そうとしている。まるでキャバ嬢に貢いでいる男みたいだ。
「どうかしましたか?」
「俺みたいな普通の高校生が、そんな強い力を受け取っていいのか迷っているんだ」
強すぎる力を貰うと力に支配されてしまうかもしれない。
「ご安心なく。アナタが力に支配されないように、私がサポートするんですよ」
メリッサ様はいじわるな笑みを浮かべた。
「さてと、そろそろチートを渡す儀式をしましょうか」
メリッサ様は咳払いする。よく見ると少し頬が赤い。メリッサ様が目の前まで歩いてきて、俺の頬に手を触れる。そして、ゆっくりと顔を近づける。唇に柔らかいものが当たった。
キスだった。
生まれて初めてのキス。しかも相手は女神様だ。さらに超絶美人!とても幸せだ。
メリッサ様は俯いている。恥ずかしさのあまり耳が真っ赤になっている。
「で、では……異世界へどうぞ」
「うん。行ってくるよ」
まだ冒険も始まってないのにラブコメの波動が流れている。最高に頭の悪い展開だ。
俺の足元に紫色の魔法陣が浮かび上がる。
「きっと生き残ってください、アキト様!」
メリッサ様の優しい声に見送られながら、俺の新しい人生が始まった。
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