咲村莚という男
咲村莚には気をつけろ―――そんな言葉を、僕はここに入って何度も聞いた。
その言葉の存在を教えてくれたのは、他でもない嵩原先輩であった。
犯罪者達にも、密かに階級というものが付けられている。犯罪取り締まりの優先度、重大さを確実に区分するためのシステムだが、それらは財力であったり、人脈の広さで決まることもあるのけだれど――――
情報にどれだけ通じているか、そこに重きが置かれる。いくら金があり、使える人材を保有していたとしても、情報という地図が無ければ宝の持ち腐れだ。自分がどこにいるかも理解せずに徘徊すれば、野垂れ死ぬことは火を見るよりも明らかである。
それほど、この世界では情報こそが生命線となり得ている。
そして、情報という情報を統べ、階級をアップさせ、僕達から危険視されても尚、悪事を働き続ける彼らが決して忘れないキーワード、それこそが、『咲村莚には気を付けろ。』
彼はその手腕でもって、幾度となく彼らをその深淵にも等しき場から引き摺り出してきた。
彼らは決して恐怖を知らぬわけではない。恐怖すべきものに恐怖しているからこそ、この国の暗闇に溶け込めるのだ。
少し短めの話でありました。
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