最終話 サキュバスさんと
「ま、まままっまままま待っててたって待って、たわよ、メグ?」
「すごく緊張してるみたいなのです」
ベッドの上で正座待機しているさきゅちゃん。それとは裏腹に、既に恥をかききった私に怖いものはない。とことこと歩み寄って、彼女の隣にぽふんと座る。
「当たり前じゃない!突然お友達に迫られた時の事、考えたことある?」
「私は初対面から迫られてたですけど」
「それは俗に言うミスリード的な奴で……」
「じゃあ勘違いさせちゃうさきゅちゃんが悪いのです」
もたれかかるようにしてさきゅちゃんへ倒れ込むと、彼女は私を優しく抱きとめてくれた。むぎゅう。
「……まったく、欲求不満なのかしら」
その手の指摘は全部さきゅちゃんのせいと言うことで自己完結してるので言われても何も効かない。
「さきゅちゃんがやらしすぎるのが悪いのです」
「前にメグはノーマルだって言ってなかったっけ?」
「ノーマルな女の子も虜にしちゃうさきゅちゃんが悪いのです」
「あたし、悪すぎじゃない?」
「さきゅちゃんが悪いのです」
「メグが壊れた」
そんな問答を延々と繰り返し数十分間。そろそろ冷静な思考がちょびっとだけ戻ってきて、ようやく自分が色々と恥ずかしい事をしている事に気づく。
控えめに言って変態なのでは?
「さ、さーて。そろそろ冗談はこれくらいにしてもう一眠りするです。おやすみー」
途端に冷静さを取り戻した私はぱーふぇくとな演技によってこれまでの言動を全て冗談だった事にする作戦に出る。余りにも完璧な演技力、きっとさきゅちゃんも騙されてくれるに違いない。
「あれ?どしたのかなー?もしかして、恥ずかしくなっちゃった?さっきまであんなに欲しがりさんだったのに」
しかし残念ながら動揺した状態で演技なんて成立するわけがない。様子が変わった事を感じ取ったのか、さきゅちゃんの煽りが炸裂する。
「そっちこそ、こちらが引いた途端に攻勢に出ないでもらえるです!?」
もしかして、実はここまで全部彼女の掌なのでは?なんて思った瞬間、さきゅちゃんが私をガバっと抱きしめてベッドに倒れ込んだ。
「わわっ」
「それじゃあ今日は、あたしがメグを抱き枕にするわね?」
ぎゅむーっと私を抱きしめるさきゅちゃん。彼女のぷにもちボディが私を包み込んでくれる。それと一緒になんだか安心感のある心地よさが感じられる。
「……うん、今日はこれで許してあげるのです」
やっぱり抱きしめるより抱きしめられる方が心地良い。個人の感性によるのかも知れないけど、私はそう思った。
「いいのー?これからもっと気持ちいいことをしてあげようと思ったんだけどな」
「もうさきゅちゃんに期待しても仕方ないのです」
そう言い残して、ゆっくりと目を瞑る。ふわふわとした暖かさが早くも私に眠気を誘ってくる。幸せなその感覚に身を任せようとしたその時、さきゅちゃんが呟いた。
「ごめんねメグ、あたしがムラムラさせちゃったんだよね」
地味に恥ずかしい言い方だけど、事実なので言い返せない。
「ふふ、大丈夫なのです。きっとさきゅちゃんの催眠魔法かなにかで暴走しちゃっただけなのです」
「いや、そう言う事は別にやってないんだけどね?……実はあたし、サキュバス大学院を出たばかりだから実務経験年数無くてさ、それらしい事はまだよくわからないの」
「ツッコミどころ増やさないで貰えます?」
サキュバス学校があるって話は前に聞いたけど、大学院まであるのです??
「茶々を入れない!……とにかく。今はまだ難しいけれど、メグの期待に応えるから。だから、今日はこれで許してね?」
そんなさきゅちゃんの言葉と共に、ほっぺたに柔らかい感触。
「さ、さささきゅちゃん!?」
「どうしたのー?寝るんじゃなかったのー?」
ほっぺたなんて普段は触られてもなんとも無いのに、顔が真っ赤になっていく。
なんなら抱きしめられているこのカラダの感触も急に気になってきて。
「ひゃっ、さきゅちゃん……っ!」
「えっ、ちょっと待って!エネルギーが凄いことに!嘘!ほっぺたちゅーだけで!?」
「あっ、動かないでっ!擦れると……いや、やっぱりもっと動いてなのですっ」
「一体どっち!?」
「ひゃんっ!もう駄目なのですー!!」
「お、おはようなのです」
「お、おはようメグ」
夜に何があったかはお互い忘れることにした。欲求不満も結果的に解消できてしまったし、しばらくは大丈夫だろう。そのほうが精神衛生的にも優しいと思う。
「ねぇメグ……。ちゅーだけであそこまで乱れるのって、普通なの?」
「忘れてって言ったですよね!?……まあ、好きな人のちゅーなら無理もない事じゃないです?」
「えー、それって本当に好きってことなのかな?やらしい欲求とごっちゃになってない?」
「もうっ、さきゅちゃんが悪いのですっ!」
「あー!すっとぼけた!」
仕方ない。さきゅちゃんがやらしすぎるのが悪い。もしかしたらやらしすぎるのは私なのではという気がしなくもないけれど、相手はサキュバス。責任を押し付けても問題ない筈だ。
「ちなみにね、昨日のエネルギーだけどね。サキュバスが一族末代まで暮らせるレベルの量が溜まったのよ。たった1日で」
「えっ……ってことはさきゅちゃん、もしかしてもう気持ちいいことする必要無いのです?」
「ふふ、そんな宝くじ当たった人みたいな事はしないわよ。メグはあたしがいなくちゃムラムラして生きていけないみたいだし♥」
「……あの、さきゅちゃん。できれば今夜も」
「……貴女、サキュバスに向いてるんじゃない?」