第2話 サキュバスさんに焦らされた
「ねーメグーご飯まだー?」
「はいはい、今できるのですー」
さきゅちゃんが我が家にやって来てから1週間。結局初日に背中をぽりぽりして貰った以外にはなにもしてくれない。話相手にはなってくれるし、それが案外楽しかったりするのだけど、そろそろ出て行ってほしい。
あるいは出ていかないなら出ていかないで、なにかお仕事をしてほしいのだけど、自分からそれを言うと期待してるみたいに思われるから何も言えない。悔しい。
「メグのご飯は最高ねっ!この肉じゃがとかもうお店開けるレベルじゃない!?まったく、嫁に欲しいくらいだわ」
「べ、別にそこまで美味しくはないと思いますけど?」
「何言ってるの、この春巻きを見せたら世のオトコ共なんて骨抜きよ骨抜き!見た瞬間にあまりの美味しさに失明するわよ」
「見ただけで!?……ちょっと、今日はやけに褒めるですね、ちょっと恥ずかしいのです」
「褒められて気持ちよかったでしょ?これがサキュバスの技よ」
「ちょっと待って?」
これがサキュバスの技なの!?
「今更ですけど、聞いてもいいです?サキュバスってどういう存在なのです?」
「世のオトコやオンナを気持ちよくしてあげる存在よ?」
……やらしいことで気持ちよくするとは一言も言っていない……!
「な、なるほど?私は最初からわかってたですよ?」
「まあ、今のは軽いジョブよ」
「ジャブね」
「ジャブよ。次は今度こそあなたの期待に答えてあげるわ……♥明日の夜とか、どう?」
あ、明日の夜…!?
「し、ししし仕方ないですね。別に期待してるわけじゃないけど……まあ、住まわせてあげる対価ですからね。受け取ってあげるですよ?」
「動揺してるわよ?明日の夜までにムラムラして我慢できなくなっちゃいそうね♥」
「が、我慢!?する必要ないです!だって仕方なくですよ!?仕方なく!」
「そう?ならいいけど」
「……ちなみに、シャワーとか浴びておいたほうがいいです?」
「お風呂でするのよ?そんな準備いらないわよ」
「お風呂で……ごくり。わかったのです。明日は早めに帰ってくるですよ」
……日中は身が入らないかもしれない。
そして次の日。今日は同じ高校のお友達と一緒に遊ぶ約束をしていた。
私の通う学校は『KPS』という最近お国で採用された特殊な学習システムを採用している。だから基本的には授業も個人レッスンで登校日も少なく、基本的にはクラスメイトとも疎遠な関係だ。
けれどその子はネットでゲームを配信している実況プレイヤーで、同じゲーム内では知り合い同士だった。だからリアルでもすぐに意気投合して、今では一緒に色んな所に遊びに行く仲なのです。
今日は一緒にVRゲームの見本市に行くことになっている。いろんな新しいゲームのビッグタイトルがそこで公開されたり、あるいはこれからのゲームに使われるであろう最新の技術をそこで体験することができるらしい。
「楽しみですねー!ボクなんて昨日は期待で夜も眠れなかったです!」
「わ、私はちゃんと眠れたですよ?うん」
「?」
しまった、昨日の事を引きずって意味不明な弁明をしてしまった!私はごまかすようにこほんと咳払いをして、さあ行くですよ!と手を引っ張り強引に話を打ち切った。
「わあ、すごいのです!あっちにはフューチャーキング社の最新ゲーム!こっちには開発中のゲーム機が!夢みたいなのです!」
「その開発中のゲーム機ってまだネットにも情報出てないやつですよね?さっそく見に行きましょうよ!」
昨日はどきどきで身が入らないかも?なんて思ってたけれど、面白そうな最新製品がたくさんあって、むしろわくわくで身が入るのです。まずはさっそく新しいゲーム機を近くに見に行くことに。
「ドリームステーション、ですかー。どういうゲーム機なんですかね?」
「ふむふむ。パンフレットによると、夢に指向性を与えて寝ている時にゲームが楽しめる、とあるのです」
「凄い。寝ている時にゲームができたらもう1日中ゲーム漬けですよ!」
「発売が楽しみなのです!まあ遊べるゲームにもよるですけどね?発売予定のタイトルはっと、『イケない放課後』『さきゅばす★ばすたーず!』『ろりろりえくすたしー』……なんなのです?このゲーム機」
もしかして、いやらしいゲーム専用のハードなのです?普通の人が集まる見本市でこんなもの堂々と展示しないで欲しいのです……。
「『弊社の開発したドリームステーションは夢を誘発するだけであってあくまで想像するのはゲーム機を使用する本人。つまり、ゲーム機にもソフトウェアにも不適切な要素が一切含まれていないため合法です』ですって。最新技術が脱法にしか利用されてないですね」
「ま、まあ興味ないですし?あっちにある普通のゲームを見に行くのです」
「ですね」
明らかにターゲットとなる顧客は私達じゃない。ちょっと興味が惹かれなくなくなくなくなくないない事もないけれど、お友達の前でそんな素振りは見せられないのです。
そうしてゲーム機をスルーして遠くの方にある新作ゲームのブースに足を運ぼうとしたその時——。私はとある看板の存在に気づく。
『今ならドリームステーション無料体験可能!』
ぴたっ。
「? どうしたんですか?メグさん。早く行きましょうよ」
「ちょっと今から別行動にしないです?」
「あれ?もしかしてメグさん、興味が……」
「いや、いやいや!?無いのです!やっぱりあっちに行きましょう!うん」
お友達にむっつりスケベだなんて思われたらもう立ち直れない!後ろ髪を引かれる思いを強引に断ち切って、別のブースを見に行った。
けれど私の頭の中は既にやらしい事でいっぱい。新作ゲームの最新映像を見た時も、なぜか私はヒロインのふとももばかり凝視していたし、他のブースを見ているときもドリームステーションのあった方角が気になってちょこちょこチラ見していた。
なんだろう。もしかしてこれってさきゅちゃんの仕業……!?間違いないのです!私こんなにえっちじゃないし!
帰ったらお尻ぺんぺんしてやるのです!そう決心しながらもなんとかイベント終了までに全てのブースを見終え、今日は解散となった。
悶々とした思いを抑え込みながら駆け足で家まで帰り、勢い良く扉を開けて中に入る。そして、さきゅちゃんに苦情を申し立てる!
「ちょっと!さきゅちゃんのせいで——」
「あっ、おかえりー。じゃあさっそく気持ちいいことしよっか♥」
「はい」