第1話 サキュバスさんがおうちにやってきた
「もうっ、なんなのですー!?」
玄関の扉を開けようとしたら、扉の前に何か物が置かれてるようで全然開かない。誰なのです?私の家に荷物を置いた人は!
それでもなんとかぐぐーっと力を込めて荷物ごと扉を押し開いて外に出て。さあ何が置いてあったのか?と地面に目を向けると、そこには女性が倒れていた。
「えっ!?大丈夫ですか!?」
しかもその女性は肌の露出面積がやけに多い。黒色の下着を着けてはいるけれど、こんな格好で街中を出歩く人は間違いなくいない。もしかして、何か犯罪に巻き込まれてしまった人なのでは……!?
とにかくこのままでは人目についてしまう。警察や救急車を呼ぶにしてもこのまま外に放り出したままというのは酷だ。なんとか女性を家の中まで運んで、状態を確認することに。
「お腹減ったぁ……」
「よかった!意識はあるのです!お腹が減ったんですか?」
それなら何か食べ物を食べさせてあげないと。おかゆとかの方がいいのかな?
さっそく冷凍してあるごはんを解凍して、スプーンで食べさせてあげる。
それからすこし体力が回復したのか、なんとか起き上がって椅子に座った彼女は、私に感謝の言葉を伝えてくれた。
「ありがとう……。ここ1週間くらい感情を吸えなくて、倒れてたところだったの……」
「いえいえ、困ったときはお互い様なのです……感情?」
「あぁ、実はね。あたし、人間じゃないの」
「またまたー。じゃあなんなのです?吸血鬼とか?」
「サキュバスよ」
「サキュバス!?」
確かにサキュバス映えしそうなスタイル抜群の容姿なのです。胸もすっごく大きくて、あのまま放置してたら襲われてたかもしれないけど。
「じみーに説得力はありますけど……もしかしてまだ混乱してるかもしれないのです。病院に行ってみるですか?」
非常に失礼ながらそう聞いてみると、彼女はニヤリと笑って、
「信じてくれないのね……。じゃあ、証明してあげましょうか?ご飯のお礼に気持ちよくしてあげるわよ……?」
手をわきわきといやらしく動かしながらそう言った。
「きっ、気持ち良く……!?いや、私は女性なのです!サキュバスと言えば男性担当じゃないです?」
「最近はLGBTに配慮してサキュバス学校ではどちらの性別にも対応できるように訓練してるのよ」
「……な、なるほど」
確かに最近ならそういう事もあるかも知れない。
「納得していただけたようなので、さっそく気持ちよくなりましょうか!ささ、こっちに来て……?」
「ちょ、ちょっとまって、私はあくまでノーマルでっ……」
そう拒否しようとするも、ふりふりと手招きする自称サキュバスさんから目が離せない。き、気持ち良く……ごくり。ちょっとくらいいいんじゃないです……?
心の中で長い長い葛藤を続けた末に(3秒くらい)、おもむろにサキュバスさんに近づいていく。
「ふふっ、もう堕ちちゃったのね。さあ、背中をこっちに向けて……」
まるで自分の身体じゃないみたいに、サキュバスさんの指示に従って背中を向けてしまう私。そういう能力みたいなのを使われてる……!?
なーんて言い訳してるけど、実際には私が勝手に期待しちゃってるだけ。これから訪れるであろう未知の体験に心臓のどきどきが止まらない。あぁ、私の初めてが女の子とだなんて……。
そして緊張と期待で硬直している私の背中に、彼女の手がゆっくりと伸びて……。
ぽりぽり。
「どう?気持ちいいでしよ」
「あっ、もうちょっと上をお願いするのです」
「りょーかーいっ」
「って、ちっがーう!」
「あら?違った?」
確かにいま緊張してちょっと背中痒かったけど!?
「気持ち良くするって、お背中掻くことなんです!?」
「あら、身体を掻くと麻薬に類似した物質が分泌されるのよ。気持ちいいでしょ?」
「たしかに掻くと気持ちいいですよね?うん。でもちょっと期待と違うかなー?」
「期待してたの?」
「いや、ぜんぜん期待してないのです。うん」
「サキュバスは人間が気持ちいいと感じた時にエネルギーがチャージされるの。今のお背中ぽりぽりで1週間分は溜まったわ」
「ずいぶんコスパいいですね!?」
「あなたと一緒にいればエネルギーの補給には困らなそうね。これからはあなたの家に住むわ!」
「いやいやいや、だめですだめです。元気になったなら帰ってください!」
「でも気持ちいいわよ?」
「いや、背中くらい自分で掻けますって!」
「もっと気持ちいいコトがあるのに?」
「えっ?」
もっと気持ちいいコト……?もしかして、私の期待、もとい想像していたサキュバスとしての職務では……?
「さっきはエネルギーが溜まってなかったら使えなかったのよ。でも、これからは……♥わかるわよね?」
「…………別に期待してるわけじゃないですよ?でも下着姿のままお外に放り出すのも可愛そうですし、ちょっとだけ?ちょっとだけ住ませてあげるのです」
「この子、チョロいわね」
チョロくないのです!
というわけで、私の家に自称サキュバスの女の子が暮らすことになった。
「我が家に住むとなったら一応自己紹介はしておきますね。私は快堕めぐです」
「あたしはサッキュ・フォン・ラスト。さきゅちゃんとよんでちょうだい」
「わかったのです。さきゅちゃん。……で、でも、ちょっとだけですからね!?早めに出ていってくださいね!」
「気持ちよくなれたら用済みだから捨てるってコト?」
「そんなこと言ってないです!?」