雪女(もうひとつの昔話 27)
北国に木こりの親子が住んでおりました。
ある冬の日。
猟に出かけた親子は吹雪で道に迷っているうち、雪山の中で運よく一軒の小屋にたどり着きました。
二人は囲炉裏の火にあたっていましたが、歩き疲れていたこともあり、いつかしら深い眠りに落ちたのでした。
バタンッ!
小屋の戸が開き、風とともに雪が舞いこみます。
寒さで目を覚ました息子は、戸口に人影らしきものが立っているのを見ました。
「だれだ、そこにおるのは?」
入ってきたのは美しい女で、口から霧のような息を父親に向かって吐きました。
父親は眠ったまま真っ白になりました。
女が息子の方へと近づきます。
「た、助けてくれ!」
「よろしいでしょう。でも今夜のことは、だれにも話してはなりませんよ」
女は雪の降る闇に消えてゆきました。
翌朝。
目をさました息子は、父親が凍え死んでいるのを知りました。
一年が過ぎました。
この日は朝から雨が降っていました。
そんな雨の中、若者の家の軒下に若い女がたたずんでいました。
「雨でこまっているのだな」
若者は女に声をかけ、袖を引くようにして家の中に入れてやりました。
女はお雪といいいました。
若者とお雪はやがて夫婦になり、かわいい子供にも恵まれ、幸せに暮らすようになりました。
ただひとつ、お雪には心配ごとがありました。
なぜか暑い日、お雪は体が弱って動けなくなってしまうのです。
ある晩。
針仕事をしているお雪の横顔を見て、若者はふっと遠い日のことを思い出しました。
「なあ、お雪。わしは山で吹雪にあったとき、美しい女を見たことがあってな。その女は、おまえにそっくりだった」
「あなた、とうとう話してしまいましたね」
お雪の姿はいつかしら白く変わっていました。
「どうしたんだ、お雪!」
「あの夜のことを話されてしまったので、わたしはもう人でいることがかないません。さようなら……」
バタンッ!
冷たい風が吹きこんできて、お雪はとけるように消えました。
若者はやがて我に返りました。
――お雪、やっとわかったよ。どうしておまえが風呂に一度も入らなかったのか。湯につかれば、さっきのようにとけてしまうもんな。
そしてつぶやきます。
「それでお雪、すごく臭かったもんな。いつもウンコのにおいがしてたもんな」
バタンッ!
戸が開いて、冷たい風が吹きこんできます。
そこにはお雪の姿がありました。
「あなた、それだけは、そのことだけは言ってはなりませんでした」
お雪は若者に向かって、口から霧のような息を吐いたのでした。