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ホラー・サスペンス・パニック

トラワレ

作者: 村上ガラ

中二にありがちな私だけ家族と違うという感じ方を、少し角度を変えて考えてみました。

 弟が帰ってきたようだ。リビングに両親といた砂羽はそう思った。玄関の開く音がして、ランドセルを放り投げる、ドサっという音がした。そして二階へと階段を上る音がした。また、ただいまも言わないで、と砂羽は思い、二階へ向けて「直樹、ただいまは?」と大きな声で言った。ただいま、と返事が聞こえた。何かに夢中になるといつもこうだ、と砂羽は思った。先日工事が終わって、小学5年生の直樹は念願の自分の個室を手に入れていた。田島家は平屋建てで部屋数が少なく、姉の砂羽が中学生になったころから、建て増しの必要性を感じていたが、砂羽が中二になった今やっと工事が終わり、姉弟それぞれの個室が出来上がっていた。砂羽の部屋は一階にあった。きっと自分の部屋がもらえたので直樹は部屋でやりたいことがあるのだろう。両親のほうを見ると、母はお茶を入れ父は新聞を読んでいた。特に直樹の様子を気に留めている風もなかった。甘いんだから、あいさつはちゃんとするようにしつけないと、と砂羽は思ったが、何も言わなかった。

 二階からは直樹の部屋を歩く音がとん、とん、とん、とん、とんと聞こえていた。建て増しをしてから分かったのだが、案外木造住宅というのは二階の音が階下に響く。家族だから気にならないが、自分の部屋が直樹の部屋の真下でなくてよかったと砂羽は思っていた。とん、とん・・・、という足音は続いていた。部屋の中を壁に沿ってぐるっと歩き回っているように聞こえた。・・・何をしているのだろう?と砂羽は思った。二階でウォーキング?とん、とん、とん・・・・。少し音の調子が変わってきた。ととと・・・。「直樹!二階で走り回らないでよ!」両親を見ると相変わらず母はお茶を入れ、父は新聞に目を落としていた。まるで音など聞こえてないように。「直樹、二階で何やってるの!」返事はない。しかしやがて、ととと・・・と走っているようだった足音八ちきちきちきと床だけでなく柱や梁のきしむ音に代わった。それもしばらくするとちちちち・・・・ともっと速度を上げた音が聞こえてきた。ちちち・・ちちち・・・。それは、ぐるっと、部屋の壁伝いに一周、もはや人間の出せるスピードを超えた速さで。「直樹!」二階へ向けて叫んだ。両親は気にも留めていない。ちちちち・・はやがてもっとスピードを上げウィーンウィーンと唸るような音に代わった。どれくらい続いただろう。やがてその音はピタッと止まった。静寂がリビングを包んだ。

 まだ母はお茶を入れ、父は新聞を読んでいる。やがて、とん、とん、とん、と階段を下りる音がして直樹がリビングに入ってきた。両親は初めて口をきいた。「できたのかい?」「うん。」その時初めて砂羽は恐怖を感じた。何か変だ。今目の前にいる弟の直樹は小学生には見えなかったし、母はいつも忙しく、こんなに時間をかけお茶なんて淹れない、それに父は仕事がばかりでこんな時間に家にいるのはおかしかった。お父さん、今日は仕事は?と聞こうとして、両親の顔を見た砂羽は、こんなにもよく似た夫婦ってあるかしらと思った。二人ともつるりとした皮膚に、のっぺりとした目鼻を持ち、美術の教科書に載っているアルカイックスマイルのような笑みを浮かべていた。両親の横に立った直樹も両親にそっくりな顔であった。そっくりな親子三人。初めて見る顔のようだ。この人たちは泥棒?私は催眠術でも掛けられていたのか?いったいいつから私はこの人たちと一緒にいたんだろう。「気づいたのかな?」「やっと?」三人で何か相談している。私だけが異質。私だけが部外者。

 三人はハロウィンのかぼちゃのようなくそっくりな顔を寄せニタニタ笑っていた。窓の外には母が毎年作っていた干し柿が干からびてカチカチになりながら風になびいていた。

 三人は、「そろそろ行こうか。」と言ってソファから立ち上がった。

 砂羽は動くことができなかった。母が手に小さなジャッコーランタンのようなものを持っている。身体が動かないのは恐怖のせいではないような気がしてきた。だって、近づいてきた三人の黄色い瞳の中に、父と母と直樹が一人に一つずつ入っていて、向こう側から必死にたたき、手を振り聞こえないが声を枯らして「砂羽逃げろ!」「お姉ちゃん、逃げて!」と言っている。あのちいさなジャッコーランタンに閉じ込められたに違いない!逃げないと。私も捕まる。逃げないと。でも、動けない動けないウゴケナイ・・・。そして。



 母を目の中にいれた母型が砂羽の頭に「はい。」と言って静かにランタンを置いた。

 

 砂羽は何かの音で目を覚ました。砂羽は自分がリビングにいるのがわかった。転寝うたたねをしてしまったようだった。母がお茶を入れ父が新聞に目を落としていた。玄関の開く音がして、弟の直樹が、・・・・ 



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― 新着の感想 ―
[良い点] こわいー。 足音の描写シーンから背筋が「ぞぞぞー!」としてきました。 家族を閉じ込めてしまった奴らは、何者だったのか? 目的は? (こわー!) そしてこの手のお話のより怖いところは、「夢で…
2019/02/06 12:51 退会済み
管理
[良い点] 足音のところがさりげなく怖かったです。 日常にひそむ違和感が感じられ、面白い作品だと思いました。
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