第一章1 『俺は勇者の装備を持っている』
焼き肉奢ってくれる神絵師募集中です。
「ここが異世界の街か!」
女神ミューズによって異世界に送られた俺が降り立ったのは『ナンセンブ』という人が激しく行き交う大都市だった。
魔王が支配する『シュミセン』を除いた四大都市の一つだそうで、ナーロウ世界の南大陸に位置するらしい。
何故異世界に降り立った直後なのにここまで情報を知っているのかというと、それは俺自慢のチート能力のおかげ……などではなく、ご丁寧にも目の前に観光案内の掲示板があるからだ。
要するにただの観光案内の受け売りである。
この世界に関する情報を少し仕入れた俺は、次の行動を考えることにした。
(俺が既に最強の勇者なのだとしたら、すぐシュミセンに向かって魔王を倒すのがいい)
(ただ、シュミセンが別の大陸にあるから船を探す必要があるな。……よし)
俺はナンセンブにある港から船でシュミセンまで行くことにした。
観光案内の掲示板に描かれた地図を見て、港までの行き方を確認した。
港はここから観光客向けのエリアの大通りを北に抜けて、海沿いを東に行くと着くらしい。
しかし、距離や人の少なさでいえばここから裏路地に入ってスラム街を北東に抜けた方が近道なようだ。
安全な大通りか、近道の裏路地か。
少し考えた結果、俺は裏路地に入ってスラム街を通ることにした。
(というのも、"もし"俺が最強ならスラム街を抜けることに危険はないからな)
ところで、さっきから何故か人目を感じる。
「ここが裏路地ねえ、当然ちゃ当然だけど活気がない」
裏路地は表の大通りと違って人が少なく、ろくに太陽の光も差しこんでこないので暗くてじめじめしている。
早く抜けて日の光を浴びたいところだ。
(……そういえば、さっき装備を確認していなかった)
ふと自分の装備を確認していなかったことを思い出し、俺は今のうちに軽く装備を確認しておくことにした。
まず、俺の服装は田舎の中高生が着てそうなジャージ。
「これが最強装備な訳ないやろ!!」
俺は大阪人の如く激しいツッコミを入れた。
「まさか、『本来異世界には存在しない一点物のレア装備です』とでも言うんじゃないだろうな……?」
ああ、異世界にないこの服装じゃそりゃ人目を感じる訳だ。
一通りキレたところで、俺は気を取り直すことにした。
(……まあいいや、よくないけど次は武器を確認しよう)
背中を確認すると、剣のようなものが入った鞘を背負っていた。
武器はちゃんとあるようだ。
背中の鞘から剣のようなものを抜こうとしたが、どうにも上手く抜けなかった。
(抜くの難しすぎるんだけど)
このとき、俺はアニメの主人公が軽々と背中の鞘から剣を抜いているのはフィクションであると確信した。
どうにか体制を変えながら頑張って剣を抜こうと試みたが、どうやっても抜けなかった。
俺は諦めて背中から鞘を外して剣を抜いた。
剣の外見を確認する。
「これは……ひのきのぼう!!」
どう考えてもこれが最強の武器のはずがない……のだが、見た目に反して強い武器であることを信じることにした。
ちなみにおなべのフタも背中に背負っていただが、これが使い物になるとは到底思えない。
「他に何かないのか……」
ジャージのポケット漁ってみる。
左ポケットにアディダスの財布が入っていた。何だこれダサい。
俺が財布の中身を見ると、財布の中に居る百人の福澤諭吉がこちらを覗き返してきた。
「……マジで?」
一瞬俺は財布の中の百万円に驚いたが、よく考えたら異世界で円が使えるはずがない。
ぬか喜びだった。
右ポケットには紙切れが入っていた。
紙切れには何かが書いてある。
「えーっと、なになに……」
xxxxx Lv99
職業:勇者
右手:勇者の剣
左手:勇者の盾
頭:勇者の兜
身体:勇者の衣
装飾:アディダスの財布
装飾:紙切れ
見たところ俺のステータスのようだが、まさか、ひのきのぼうやおなべのフタ、ただのジャージを勇者の装備と宣うつもりなのか。
というか、俺は兜なんか装備してない……と思いけや、阪神タイガースのキャップを被っていた。
まさか、これが本当に最強装備なのか……?
そうこうしている内に、俺は裏路地を抜けた。
裏路地を抜けると、俺はスラム街に出た。
そして、俺の目の前では不良三人組が美少女に絡んでいた。
「グへへ、姉ちゃんいい体してんじゃねえか……」
「何ですかあなた達は、やめてください」
「いいじゃねえか、少しくらい俺たちに付き合えよ」
「そうだそうだ!」
頭の悪そうな連中だ。
これは美少女を助けるしかないな。
「おい、お姉さん嫌がっているだろ」
「あなたは……」
「あぁん!? お前喧嘩売ってんのか!?」
「そうだそうだ!」
「ぶっ飛ばしてやる!!」
口々にそう言いながら、不良の一人が先手を打って右の拳で攻撃してきた。
肩慣らしに全員退治してやるか。
次回、「勇者死す」。