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春の国スプリグ:フラシーの町―焦がれる華―(3)

 薄暗く、ジメジメした部屋。

 クモの巣がいたるところに張り巡らされ、部屋の隅にキノコやカビが生えている。

 窓もないこの部屋の唯一の扉の前に立ち、彼女はつぶやく。


「すいません〜、晩御飯はまだですか〜?」

「お前……この状況でそんなことよくそんなこと言えるんヤ」


 バレッティアとヤーニャは捕まっていた。

 なぜ捕まったかというと、オウカを盗んだ罪で。


「大丈夫大丈夫。濡れ衣だしね〜」

「濡れ衣でも、それを証明するのは、この村では絶対に無理ヤ。それこそ、犯人を見つけない限りヤ」


 この町には魔術師がいない。

 それはつまり、魔術や魔法に関しての知識は全くないということだ。

 世間一般の人々にしてみれば、魔術師が使う魔術は万能の術という認識しかない。

 そして、伐採や掘り起こした後の一切無い状況で森一番の大樹であるオウカをその場から消し去った、ということから、この町にただ1人いた魔法使いであるバレッティアが疑われるのは当然だった。


「まあ、ミアが捕まってないし、スキを見て逃げ出せばいいよ〜」

「まあ、そうヤね……」

「なんでまた、ミアだけ捕まらなかったのかは、気になるけどね〜」


 森でヤーニャが花見をせずにさっさと戻ろうというセリフに、説教をしていた。

 そうしていたら森にいた木こりに見つかり捕まったのだが、村に連れていかれた後、ミアだけは魔術師ではないからということで見逃された。

 ヤーニャは使い魔だから。ということで一緒に捕まったが。


「まあ、それはいいや。深夜になったらここから出て、ミアを見つけてこの町からでるよ〜」

「…………」

「どうしたの〜?急に黙りこくってさ〜」


 思いつめたようにヤーニャはうつむく。


「逃げたところで、どうするんヤ?やっぱり、犯人を探した方が、後々この国の軍に追われるヤないか?」


 ヤーニャはこの国の象徴とも言えるクホウのオウカを盗んだ、という罪をかけられたまま逃げれば、この国から追われることになるのでは。

 そうなれば、今までのように旅を続けることは困難になる。

 そう考えていた。


「軍くらいなら、まだいいよ〜」

「ヤ……?軍くらいって、どういうことヤ? 」

「あの森の木には、全て木霊が宿っていたからね〜。オウカの木霊となれば、相当な力を持ってると思うよ〜?」


 木霊とは木に宿る妖精で、森の中でしかその力をだせない。

 しかし宿る木が樹齢を重ね、巨木へとなればなるほど、知識と力を得ていく。

 樹齢が千年、二千年の単位になれば、竜巻を起こすまでなる。


「あれだけの更地にオウカがあったなら、かなりの巨木だと思うよ〜。なら、相当な力を持つ木霊がいたはず〜。なのに、抵抗した後すらないなんて、化け物みたいな力の魔術か魔法を使ったってことだよね〜?」

「!!」


 ヤーニャはヒゲがピン、と張り詰めるのを感じた。

 その予想が当たっているとするなら、その犯人を捕まえるのには死の危険すら有り得る。


「わかったら、この話はおしまい〜」

「……そうヤね」

 そう言うとバレッティアは床に座ったまま、すぐさま眠りについた。



────────



「おーい、お嬢ちゃん、猫さん。夕飯にパンを持ってきたよ」

 

 そろそろ深夜になろうというところで、聞き覚えのある声が、部屋に響く。

ヤーニャとバレッティアは扉に近づき格子窓を見ると、そこには、雑貨屋の婦人がパンを籠にいれて、にこやかに立っていた。


「……てっきり、餓死させられるかと思ったヤ」

「あー……悪いね、あんたらにパンでも届けようと思ったんだけどね?町のやつらは、飯なんてやるな、なんて言うから、なかなか来れなかったんだよ」


 格子窓の隙間からパンを渡しながら、苦笑いをする。

 バレッティアは受け取るなりパンをもっしもっし、とかじり始めた。


「でも、反対されたのなんでわざわざ持ってきてくれたんヤ?」

「そりゃ、あんた。長いこと店で働いてりゃ、人を見る目はつくもんさ。妹を大事にするいいお嬢ちゃんに悪い人はいないさ」


 口角をあげて、ニッと笑いながら婦人は自信満々に言う。

 年の功を感じさせる、そんな笑顔だ。


「ところで、聞きたいんヤ。ミア嬢はどうしてるかしらないヤ?」

「ミア?ああ、あの子なら町長が預かっているよ?」

「町長ヤ?」

「ほら、あんたらが捕まった時あの子だけは捕まえないって、決めてた人だよ」


 町に連れてこられてから、弁明を聞いてもらえるというからついて来たが町につくなり、その町長とやらが弁明の機会すらなくミア以外を捕まえることを決めた。

 その事から、その町長とやらの顔をヤーニャは覚えていた。


「なんだって、俺達だけ捕まえたんヤ……?しかもあんなにいきなり」

「さあねえ?町長は特別オウカに思い入れがあるみたいだし、少しでも怪しけりゃ逃がしたくなかったんじゃないかい?」


 バツの悪そうな顔をして、頬を掻きながらぼやく。


「ヤ?この町の人間なら、誰もが同じように思い入れがあるんヤないか?」

「ああ、町の外から来たあんたらは、知らないか、これ、読んで見なよ」


 そう言うとエプロンのポケットから、小さな本を取り出し、ヤーニャの手元へ落とす。

 ヤーニャは、受け取った本をパラパラとめくり読んでいく。

 パンをヤーニャの分までかじりながら、バレッティアものぞき込むようにしてその本を読む。

 内容はオウカに関する昔話といった内容だった。


「これが、どうしたんヤ?」

「その本、実話なんだよねぇ?で、その本に出てくる男がいるだろ?それ、町長の御先祖さんらしいよ?」

「なるほどヤ……」


 本をまじまじとヤーニャが見つめていると『ぶふぉっ』と、バレッティアがいきなりパンを吹き出した。


「ヤ!?なにするんヤ!!頭にかかったんヤ!!」

「ああ、ごめんごめん〜。ちょっとすごいこと気づいちゃって」

「すごいことって……。頭の惨事よりすごいことなんヤ」


 半目になってあたまをくしくしと掻きながら、バレッティアを見つめる。


「うん、すごいよ〜。だから、犯人捕まえに行こうか?」

「ヤヤヤヤヤヤヤヤヤ!?」


 先程の意見とは手のひら返しにニヤニヤと、不敵な笑みをこぼしながら魔法使いは言う。

 その笑いに不安しか覚えないのは、ヤーニャだけではないだろう……。

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