第46話・お酒の力
昼過ぎにコテージを出て、現地のカフェで遅めのランチを頂いた。夜は予約をしておるとの事であったので、軽くサンドイッチとハンバーガーで済ました。の筈だったのだが、あまりのボリュームに食べきれぬ程であった。
「凄いな。この国の人はあんなに食べれるものか?」
「男の私でも難しい量でしたね。」
「フレンチポテトの量が半端なかったぞ。」
「ふふ。ハンバーガーも顔が隠れそうでしたね。」
そんな話をしながら、免税店へ行って、買い物を楽しんだ。
春樹どのは、冬馬どのと秋人どの、私は、松乃どのと小梅どのにそれぞれお土産を購入した。他には爺やと婆や、それに天界の皆にも珍しい異国の物を買ってみた。
気が付くと、買い物カートが山のようになっておった。
「すぐに渡すものは自分達で持って帰って、大学が始まった後の冬馬達は航空便で送りましょう。」
「そうでないと、持って帰れぬな。少々買い過ぎたようだ。」
「海外旅行はこんなものですよ。」
「本当は旅行へ来て、クリスマスプレゼントと旅行の思い出を兼ねて、かぐやさんとペアウォッチを買おうと思っていたのですが、先を越されてしまいましたね。」
「ふふ。すまないな。」
「以心伝心していたみたいで、嬉しいですよ。」
春樹どのは、ペアウォッチと重ね付け出来るプラチナのブレスレッドをお揃いで買ってくれた。
年を越してしまったが、良いクリスマスプレゼントを頂いた。
夜は、現地文化のショーを見ながらの食事であった。火渡りの儀式や軽快なリズムに合わせたダンスなど、楽しみながらあっという間に時間が過ぎた。
コテージに帰ってシャワーを浴び、春樹どのはソファーでビールを飲み始めた。
そして、私は何故か春樹どのの膝の上に横向きで座らされており、腰をずっと抱えられておる状態だ。
「春樹どの…」
「ん?何ですか?」
「何故私はこのように座っておるのだ?」
「私がいつでもかぐやさんにキス出来るからですよ。」
そう言いながらチュッ!と口付けられると、ふんわりビールと思われる香りがした。
「この香りはビールか?」
「かもしれませんね。飲んだこと無いのであれば、飲んでみますか?」
「いつも止められておるが、今日は良いのか?」
「ビールはアルコール度が低いですから、一口なら大丈夫だと思いますよ。」
では早速頂こうか、と思いビールに手を伸ばしたら、春樹どのに取られた。
「あれ?」
「ふふ。一口だけだと言いましたよね。」
そう言ってビールを一口含み、私に口付けをしながら流し込んできた。
「ん…」
苦いビールが口の中いっぱいに広がり、漏れたビールが首筋を伝った。春樹どのはそれを舐め取るように、私の首に舌を這わせた。
「ちょ、春樹…」
くすぐったさに思わず身震いした。
「かぐや…」
艶めかしい春樹どのの口付けが鎖骨に落とされた。
この雰囲気はマズい!
「ま、待て!」
「どうしました?」
「いや、明日は出発が早朝であろう。このまま寝るぞ。」
立ち上がろうとすると、クルッと身体の向きを変えられ、気付けばソファーに押し倒されておった。
「い、いつの間に?」
「かぐやさん、知っていますか?婚約の儀は三晩連続なのですよ。」
「そうなのか?っていうか、何故私よりも春樹どのの方が天界の事情に詳しいのだ!」
「何故でしょうね。ですが婚約の儀とは関係なく、かぐやさんが欲しい…」
「…」
「ずっと欲しくてたまらなかった…」
春樹どのは誘うような深い口付けを落としながら、部屋着のボタンを外していった。
あれ?
ピタッ!と春樹どのの動きが止まった。
気になってそっと目線を向けてみた。って、じっと私の下着を見ておるではないか!
「ちょっ、ちょっと!そんなに見るでない!」
「…こんなセクシーな下着を付けて、私を誘ってくれているのですか?」
「い、いや、これは、松乃どのに買わされたものだ!」
「ふふ。それは帰国したらお礼を言わないといけませんね。」
「何のお礼だ!」
その先の言葉は、春樹どのの口付けによって塞がれ、代わりにお互いの名前を呼ぶ甘い声と、ソファーの軋む音が部屋に響いた。
お酒のせいなのか、熱にうかされたように火照った身体を一晩中重ね、結局その晩は明け方までたっぷりと愛されてしまった。
「かぐやさん、急いで下さい!飛行機に乗り遅れますよ!」
「一体誰のせいだと…」
「ふふ。私のせいでしたね。」
悪びれもせずに空港内を走る春樹どのの後ろを、小走りに追いかけ、帰りの飛行機へ何とか時間内に飛び乗った。
「ふう…まったく焦ったぞ。」
「仕方ないですよ。昨夜のかぐやさんがいつもより大胆で…」
「わぁ~!」
急いで春樹どのの口を塞いだ!
「公衆の面前で何てことを言い出すのだ!」
「すみません。たまにはお酒もいいかなぁと思いまして。」
「二度と御免だ…」
ぷいっと横を向いてふて寝をした。
「ふふ。飛行機の中では何もしませんから、ゆっくり休んで下さい。」
私の耳元で囁きながら、手を繋いできた。
拗ねておってもこの手を振りほどけぬのは、私がそう望むからであろう。行きとは違う幸せを噛み締めながら温かい手を握り返し、夢の世界へ入っていった。