第41話・予備知識
秋も深まったある満月の晩、久しぶりにやよい姉様に話し掛けた。
「やよい姉様。」
『もしや、かぐやか?無事であったのですね。心配しましたよ。』
「ご心配をお掛けし、大変申し訳ございません。」
『それで、今までどうされておったのですか?』
そこで、やよい姉様に瞬間移動の能力の事について話した。
『まぁ!そのような強大な能力は聞いたことありませんよ!素晴らしいではないですか!』
「ふふ。まだ一度しか成功していない故、次がどうなるかは分かりませんけどね。」
『無事に春樹どのとも再会されましたようで、安心いたしました。父上と母上には私から伝えておきますね。』
「ところで、祖父どのはその後、いかがですか?」
『いくら格下の貴族といえども、花嫁に逃げられるという醜態にはかなり攻め立てられたようです。元々、祖父どのが強引に進めた話でしたからね。』
流石に祖父どのも懲りたであろう。やよい姉様との話が終わった後、勝ち誇った気分で床に着いた。
天界では強大で珍しい私の能力について、話題になったそうだ。手のひらを返したように、沢山の求婚が舞い込んでおるらしい。
そして瞬間移動で幽閉から逃れた件は、祖父どのの耳にも入ったようだ。
「かぐや!何処までも私を愚弄しよって!絶対に許さん!」
表面上は私の無事を喜んでおったそうだが、攻め立てられた怒りの矛先が私に向けられたらしい。
それが分かるのは、また後の話…
下界では、クリスマスの飾り付けが街を賑わし始めてきた。久しぶりに松乃どのと小梅どのの三人でショッピングモールへ行くこととなり、カフェで落ちあっておった。
「かぐやちゃん♪クリスマスプレゼントはもう決めた?」
「何か身に付けるものと思っておるのだが、時計は高すぎると前に言われておるからな。松乃どのはもう決めたのか?」
「大体はね♪でも春樹相手なら値段も気にしなくて大丈夫じゃぁない?小梅ちゃんは決めた?」
「冬馬くんがマフラーを大事に使ってくれているんだけど、ちょっとほつれが出てきちゃってね。今年こそは自分で編もうかと思ってるんだ!」
まずは手芸店へ行き、小梅どのの買い物を済ませた。そして、時計店を探して歩いている時であった。
「そういえば、かぐやちゃんは、春樹とお泊りデートはしないの?」
「しないな。」
「冬休みはどうするの?」
「何処かへ旅行するらしいぞ。フィジーとかいう南の島と言っておったかな。」
ん?何やら松乃どのと小梅どのがニヤッと目を合わせておる。嫌な予感だ。一歩下がったら、ガシッ!と二人に両脇を抱えられた。
「ど、どうしたのだ?二人とも。」
「プレゼントはかぐやちゃん自身で決まりだね♪」
「松乃どの、それはどういう意味なのだ?」
「まぁそれは春樹くんに任せればいいよ!」
「いや、小梅どのも意味が分からぬぞ。」
何故か二人にランジェリーショップへ連れて行かれてしまった。
「さ!ここでプレゼントを選ぶんだよ!」
「ここは、おなご専門であろう。」
「それでいいんだって♪」
二人は私よりも熱心に私の下着を選び始めた。
「これどうかな?」
「いや、もうちょっとセクシーな方がいいんじゃぁない?」
「でもこれは際どすぎるよ!」
「このくらい攻めなくちゃ♪」
「あの…それは流石に隠す面積が少な…」
言いかけたところで、キッ!と睨まれた。
駄目だ。聞く耳を持ってはおらぬ…
「かぐやちゃん、何泊するの?」
「たぶん一週間と言っておったので、6泊かな。」
「機内泊を考えても5泊か…よしっ!」
何故か更に気合いを入れて、5着分の下着を選ばれてしまった。
ここは何を言っても聞き入れて貰えそうもないな…諦めて素直に従っておこう。
そして、良い買い物が出来たと言いながら、私よりもはしゃぐ二人と一緒に時計店にやって来た。店内を見渡した時、珍しい時計に目を奪われた。
「これは、鎖になっておるのか?」
「左様でございます。ブレスレッド感覚でご使用できるタイプのものとなります。時計盤は上下に2つございますので、海外の時間と日本時間に分けて合わせることも出来ます。」
何となくその時計から目が離せなくなった。
ふふ、きっと春樹どのに似合うであろうな。
その時計は殿方と姫君用のペアとなっておったので、両方とも購入し、殿方用だけ包んで貰い、私の物はそのまま付けて帰ることにした。
そのまま帰宅するのかと思えば、今度は本屋に連れて行かれた。
「かぐやちゃんはちょっと予備知識を入れた方がいいかもね♪」
「松乃どの、予備知識とは何のことだ?」
「いいから♪丁度良さそうなのをプレゼントするね!」
何やらよく分からぬが、漫画本が沢山並ぶコーナーへ連れていかれた。
「大人コミックは刺激が強すぎるから、少女漫画くらいでいいかな♪朝チュン程度のもので…」
色々と手に取っては、選んでおる。大人しく傍で青春空手漫画を見て時間を潰した。
選び終えたらしく、会計を済ませた後、漫画をプレゼントされた。
「私からのクリスマスプレゼント!旅行の前に必ず読んでね♪」
「分かった。ありがとう。」
屋敷に帰ってから、早速漫画を取り出してみた。
一組のカップルがすれ違いながらも想いを通わせ、最後は結ばれるという話であった。
「ふむふむ。クリスマスの夜に想いが通じるのか。良かったな。」
クリスマスツリーを背に、幸せそうに接吻を交わしておる。
そのまま読み進めていくと…
「な、何をしておるのだ?!」
布団の中で裸の二人が朝を迎えておるではないか!
これはもしや婚約の儀というものなのか?!
ど、どうしよう!
春樹どのと同じ寝所で裸になる…うわっ!無理無理!考えただけでも恥ずかしいではないか!どうすれば良いのだ?!
そんな動揺を抱えたまま、旅行へ出発する日となってしまった。