第39話・作戦決行
次の週末、連れて来られたバーは、エンパイヤーインサイドホテルという場所の最上階であった。
「乾杯~♪」
久しぶりに皆で集まってグラスを合わせた。
冬馬どのと秋人どのは、それぞれ車とバイクで来たので、ウーロン茶で乾杯だ。そして、すぐに寝てしまう私もオレンジジュースで乾杯だ。
「松乃どのは酒に強いのか?」
「小梅ちゃんよりは強いみたいよ!小梅ちゃんってすぐに真っ赤になるんだよね~♪」
「本当だ。小梅どの、無理するでないぞ。」
「かぐやちゃん、ありがとう!ちょっとずつ飲むから大丈夫だよ!」
「春樹どのはどうなのだ?」
「私もあまり酔わないみたいですね。沢山飲みたいとは思いませんが、こんなに楽しいとついつい進んでしまいます。」
「そうか。今日は私がついておる故、好きなだけ飲んでくれ。」
「ふふ。頼りにしていますね。」
夜景が楽しめる雰囲気の良いバーで、食べ物も色々な国の料理があって興味深かった。早速珍しい料理を頼んでみた。
「うわっ!辛い!」
「かぐやちゃん!その赤いのって全部唐辛子じゃぁない?」
「何だと?失敗した…」
実は辛いものが苦手なのだ。辛いものが好きだと言っておった冬馬どのが笑っておった。
「はは!勿体無いし、俺が食ってやるよ。」
「すまないな、冬馬どの。」
冬馬どのに辛いスープを渡そうとしたら、横から手が伸びて皿を取られた。
「かぐやさん、ダメですよ。他の男を頼らないで下さいね。」
手の主は、にっこり笑う春樹どのであった。
「他の男って…」
冬馬どのは苦笑いだ。そして他の皆も呆れ気味だ。
「春樹どのは辛いものは大丈夫なのか?」
「飲み物と一緒なら何とか食べれます。」
そう言って汗を掻きながら完食した。何だか悪い事をしてしまったな。これからは辛いかどうか聞いてから注文するとしよう。
お腹も満たされて、春樹どのがお手洗いへ席を外した時だ。
秋人どのがボーイを呼んで何やら注文した。
「カルアミルク一つお願いします。」
「かしこまりました。」
ボーイが去った後、秋人どのに聞いてみた。
「カルアミルクとは何だ?」
「コーヒー牛乳みたいなものかな♪甘いカフェオレって感じ!かぐやちゃんにお勧めしようと思って、勝手に注文しちゃった♪」
「そうであったか。お勧めとあれば飲んでみよう。」
そして私の前にカルアミルクとやらが置かれた。
見た目、匂いはコーヒーのようだ。一口飲んでみた。
「お?少々甘いが、中々いけるぞ。」
「良かった♪他にもお勧めあるから、ぐっと飲んじゃって♪」
「ありがとう。」
そして一気に飲み干した時、すっとグラスを取り上げられた。
「ん?どうしたのだ?」
「いや、ちょっと証拠隠滅をね♪」
あれ?世界が回っておるぞ?遊園地のようだ!ふふ。皆の顔が歪んでおる♪
「ふふ。どうしたのだ?皆の顔が絵画の『叫び』のようになっておるぞ♪」
「これは成功か?」
「たぶんね♪」
そこへ春樹どのが帰ってきた。
「春樹どの~♪待っておったぞ~♪」
「え?かぐやさん…って、まさか!」
ここで私の記憶は途絶えた。
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今日はちょっと飲み過ぎたか…かぐやさんを屋敷まで送らないといけないし、この辺で止めておくか。
お手洗いで少し落ち着かせて、席へ戻った。
すると私を待っていたのは、酔っぱらったかぐやさんだった。
「春樹どの~♪待っておったぞ~♪」
そう言いながら席から立ち上がり、ギュ!っと抱きついてきた!
まさか!
みんなを見たら、しらっと目を逸らされた。
「かぐやちゃんどうしちゃったんだろうね~♪」
「秋人、今テーブルの下に持ってるグラスは何だ?」
「え?気のせいだよ♪お詫びにここのスイートを自由に使ってね♪」
そう言って、カードキーを渡された。
そういうことか…
「かぐやちゃんの家には、私の家に泊まるって連絡しとくね~♪」
「あ、松乃さん!待ってください!」
私の呼びかけを無視し、そそくさと、みんなは帰っていった。
「どうしたのだ~!皆帰ってしまったではないか。」
「そのようですね。」
「ふふ。春樹どのと二人であるな♪」
私がなけ無しの理性を総動員して、やっと抑えているというのに、人の気も知らないで…
「とりあえず部屋に行って休みましょうか。」
「分かった~♪」
垂れ掛るかぐやさんを半分抱えるようにして、やっとスイートルームに到着した。
かぐやさんをソファーへ座らせて、何気なくベッドに目をやった。枕元に置いてある箱は何だ?
って、避妊具じゃぁないか!しかもご丁寧に1ダースかよ!
いやいや!ここは一旦冷静になろう。深く深呼吸して、かぐやさんに向き直った。
「大丈夫ですか?今、お水を持って来ますね。」
「そんなもの良い、良い♪それより、春樹どのは最近焦り過ぎだぞ。」
やっぱりそう思うか…
「正直、かぐやさんの顔を見ていないと不安なんです。またいつ連れて行かれるかと思うだけで…」
少し俯くと、かぐやさんは目の前に来て、チュッ!と飛び上がるようなキスをした!
え?え?かぐやさんからって初めてじゃぁないか?!
「春樹どの~♪そんなに心配しなくても良いぞ!」
そして私の首に手を回し、うるうるとした目で見つめ始めた。
「私はそなたが大好きだ♪世界で一番愛おしいと思っておるぞ♪」
「…かぐやさんから好きだという言葉は初めて聞いた気がしますね。」
「そうか?ならもっと言おう!好きだぞ♪」
にっこり笑いながら、好きだという度にチュッ!と音を立てたキスをしてきた。
ふふ。何だか焦っていた自分が馬鹿らしくなってきたな。久しぶりにかぐやさんの本音を聞けた事、みんなに少しだけ感謝しておこう。
しかし、私も男だ。ここまでお膳立てされて我慢するのも限界に近いものがある。
かぐやさんの腰を、そっと引きよせた。
「かぐやさん、あと三日、婚約の儀を行うためにここへ泊まりますか?」
「婚約の儀?何故三日なのだ?」
「三晩続けて行わないといけないそうですよ。」
「そっか~♪三日も一緒におれるのか♪」
もう、駄目だ!
ガバッ!と頭を抱え込んで、荒々しく貪るようなキスをした。もう余裕なんて無かったが、かぐやさんもそれに答えてくれる。
無我夢中で求めてそっと唇を離すと、かぐやさんは、とろんとした目で私を見ていた。
「ベッドに行きましょうか。」