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第9話・デートのお誘い

 夏休みの間もクラブがあったおかげで、退屈せずに済んだ。

今日も空手の新しい型を冬馬どのに教えてもらい、稽古に励んでおった。


クラブが終わり、門まで冬馬どのと歩いている時、植え込みに怪しい人の気配!

身構えようとすると、私の行く手に冬馬どのが、さっと身体を入れた。


「誰だ!そこにいるのは!」


ゴソゴソと音がして、出てきたのはいつぞやいじめから助けた殿方であった。


「す、すみません。かぐやさんとお話がしたくて…」

「ストーカーか?この前も手紙を渡してただろう!」


そういえば文化祭の劇の前、この殿方から手紙を貰っておったな…


「すまぬ。すっかり手紙のことを失念しておった。何か話があるのか?」

「は、はい!ぼ、僕とデートしてください!」

「デート?」


また初めて聞く言葉であるな。


「冬馬どの、デートとは何だ?」

「二人きりで会って、遊びに行ったりすることだ。これ以上かぐやに近づくな!」


天界では接吻したらすぐに婚姻となる為、その前に幾度となく会い、人となりを見極める必要がある。この殿方は見極めをして欲しいということなのか?

この吹き出物さえ無ければ美男子の殿方が誘ってくれておるのであれば、拒む必要もなかろう。


「分かった。いつ何処に行けば良いのだ?」


「かぐや、本気か?」

「別に会うくらい構わぬであろう。」


冬馬どのは信じられないような者を見る目をして私を見ておった。下界では見極めをせぬのか?


「ぼ、僕は、た、田端琢雄たばたたくおと申します!あ、明日は空いていますか?」

「明日は稽古があるので無理だ。」

「で、では明後日は?」

「明後日ならクラブも休み故、大丈夫だ。」

「で、では11時に、え、駅前でお待ちしています!」


さっと走り去っていった。琢雄どのも変わった殿方であるな…


----------


K.NET男三人のみのグループチャット


TOMA:「た、大変だ!」

ハル:「どうした?何かあったのか?」

TOMA:「ぶたおがかぐやにデートを申し込んだ!」

あきぴ~♪:「その手紙は握りつぶしておいたよ♪」

TOMA:「違う!今日の話だ!」

ハル:「またか。懲りないヤツだな。男性恐怖症だしほっといて大丈夫だろう。」

TOMA:「それが、明後日11時にデートすることになった!」



あきぴ~♪:「え~~~???」

ハル:「どういうことだ?」

TOMA:「かぐやが会うだけなら構わないだろうとOKを出したんだ!」

あきぴ~♪:「恐怖症を自分で克服しようとしてんの?」

ハル:「かもな。しかし可能なら阻止したいところだ。」

TOMA:「同感だな。」

あきぴ~♪:「上に同じく!って事で明後日11時に集合ね♪」

ハル:「了解!」

TOMA:「おっけい!」


----------


 デート当日、待ち合わせ場所まで爺やに送って貰った。


「では、帰りにスマホから連絡する。」

「かしこまりました。かぐや様。」


この時、爺やの目がキラリと光ったことに気付かなかった。

琢雄どのはすでに待っておった。


「待たせてすまぬ。」

「い、いえ、かぐやさん、お、お着物とても綺麗です!」

「…どうも。」


褒めるところが着物しか無いことくらい分かっておるが…少しため息をついた。



 まずはお昼御飯ということで、ファーストフードという種類の店に入った。

注文の仕方も珍しい。ハンバーガーも初めて口にしたが、何とも不思議な味だ。



 『おい、見えないじゃないか!』

 『ファーストフード店に着物!もの凄いミスマッチだ。』

 『お洒落なカフェくらい行けばいいのにね♪』



お金を払おうとしたが、琢雄どのに止められた。デートの時は殿方が払うものだと言うのだ。


「馳走になってすまぬな。」

「いえ、こ、これくらい奢らせてください!」

「次は何処へ行くのだ?」

「えっと…え、映画でも行きましょう!」



 『次は映画だ!』

 『暗闇で迫る作戦か?』

 『かぐやヤバいぞ!』



映画とやらに来たが、満席だったようだ。



 『ぶたお、予約してなかったんだ!』

 『満席で見れないとか笑えるな。』

 『ひとまず安心だな。』



「次はどこへ行くのか?」

「えっと…し、ショッピングモールでも、い、行きましょう!」


この前、水族館の前に寄ったショッピングモールへ行くことになった。

とはいえ、買い物もせず店を見る事もせず、ただ歩くだけで、話をすることも無い。どうしたものか…

やはり、私のような不細工とは話もできぬか…では何故デートとやらに誘われたのであろう?



 『これはウインドウショッピングのつもりか?』

 『何処の店も覗いてないよ。ただの散歩じゃない?』

 『かぐやが気の毒になってきた…』



一通りショッピングモールの中を歩き回った後、琢雄どのが別の場所へ行こうと言い出した。


「こ、公園に行って休みませんか?ぼ、ボートに乗ってゆっくりしましょう。」

「よく分からぬが、そこへ行こう。」


公園の池には沢山の小舟が浮かんでおり、早速乗り込んで漕ぎ出た。



 『マズい!ボートに乗るつもりだ!』

 『俺達も借りるぞ!』

 『いや、追跡がバレる。暫く様子を見よう。』



「あ、あの、かぐやさん、ぼ、僕は…」


この怯えたような雰囲気がいじめられる原因なのであろうな。


「琢雄どの。」

「は、はい!」

「そなたは美男子の部類なのだから、もう少し堂々としてはいかがかな。」


「…あ、あの…か、かぐやさんと一緒にいると、自分に自信が持てます!ぼ、僕とお付き合いしてください!」


ん?自分に自信が持てる?この者は、自分の引き立て役にする為に私を誘ったのか。

ふぅ、と大きくため息をついた。やはり見極は重要なのだな…


「すまぬが…」


断ろうと目線を上げると、琢雄どのが目を閉じ、口を尖らせて目の前まで迫っておった!


「ま、まて!私にその気は無い!」


顔を押しのけようと力を入れてみるものの、体重をかけてきておるのか、押してくる力が強いではないか!


「こんなお天道様が見ているところで接吻など、破廉恥きわまりないわ!」



 『やばい!ぶたおが暴走した!』

 『あぶないっ!』

 『やっぱ借りて行くぞ!』



「いいかげんにしろ!」


思いっきりバン!と押しのけた時、小舟がぐらぐらと揺れ、ひっくり返った!


「きゃ~!」

「わ~!」


バッシャーン!!


「ぼ、僕泳げないんです!誰か助けて~!」


小舟に捕まった琢雄どのが叫んでおる。

投げ出された私は、水を含んだ着物が手や足にまとわりつき、動こうにも動けぬ。


し、沈む…


溺れかかったところ、急に誰かに引っ張りあげられた。


「ゴホッ!ゴホッ!と、冬馬どのではないか!」

「かぐや、しっかりしろ!」


すぐ近くの小舟には、春樹どのと秋人どのが乗っておる。


「かぐやちゃん大丈夫?」

「無事で良かった。災難でしたね。」

「何故皆がここに?」

「たまたま遊んでいたんだよ。冬馬がいきなり飛び込むからびっくりしちゃったよ!」


秋人どのと春樹どのが、小舟に引っ張り上げてくれた。


「君たち!助けてくれ!僕泳げないんだ!」


転覆した小舟に捕まっている琢雄どのが叫んでおる。


「ぶたお、どうする?」

「ほっとけばいいんじゃない?そのうち係員が来るよ。」


「かぐやさん!助けてください!」


カチン!と来た。


「そこで頭を冷やして反省しろ!そして二度と近づくな!」


 岸に上がって三人に支えてもらい、水を含んで重たくなった着物を引きずりながら、何とかベンチに座った。


「大丈夫か?水飲んでないか?」

「着替え買ってきましょうか?」

「寒くはない?」


「三人ともすまぬ。丁度良い時に遊んでおってくれて助かったぞ。」

「…」


ん?三人衆の時が一瞬止まったか?


「い、いや~、ホント良かったよね♪」

「天気のいい日はボートに限るしな!」

「そそ!時間あったら今度みんなで遊びに来るかな。」


これまた丁度良く爺やがリムジンを乗り付けて、やってきた。


「爺やも来てくれた故、ここで失礼する。今日は世話になったな。」


不細工三人衆に礼を言い、公園を後にした。


----------


「あの爺さん、絶対後をつけてたな。」

「まったく気配がわからなかったよ。」

「さすが、かぐやさんに仕えるだけはあるな…」


----------


 数日後の満月の夜、やよい姉様に事の顛末を報告した。


「…と言う訳で、私に言い寄ってくる美男子には落とし穴があるようです。」

『ふふ♪爺やからも報告を受けております。かぐやの周りには良い殿方が沢山おいでですね。』


ん?誰の事を言っておるのであろうか?


やよい姉様の言うことは、たまに分からぬことがある。だが、当分の間は誰に誘われても大人しく断っておこう…


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