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第37話・奇跡

 門の前に立つと、すぐにギィ、っと木の門が開き、中へ入るよう促された。


「度々すみません。浦和です。」

「入りなされ。」


中には爺やさんと婆やさんが揃っていた。緊張して次の言葉を待った。


「先程、天界より文が届いた。かぐや様はご祖父様の命により、天界人との婚姻が決まったそうだ。」

「え?どういう事ですか?」

「文によると、抜けだそうとしたかぐや様は、ご祖父様の御屋敷にて二週間後の婚姻の儀まで幽閉されるとの…」


爺やさんの言葉を遮るように、詰め寄った!


「今すぐ、テンカイへ行って婚姻を止めてきます!行き方を教えて下さい!」

「無理だ。私達でも簡単に行き来はできぬ。諦めなさい。」

「諦められません!」


「そなたが、かぐや様を大事に想っておられる事は、よう知っておる。私達も何とかしてやりたいのは山々だが、一族の長であるご祖父様の命とあらば、誰にも逆らえぬのだ。」

「そんな…」


あまりのショックに、無言のまま屋敷を後にした。

かぐやさんが抜けだそうとしたと言うことは、結婚は本意では無いのだろう。


気付けば、かぐやさんと両想いになれた公園へ来ていた。

ここで、初めて想いが重なったキスをしたんだよな…


もう、どうしようも無いのだろうか。気付けばまた涙が溢れていた。


「泣かないと決めたのに…」


この日ばかりは、こぼれ落ちる涙を止めることが出来なかった。ただ黙って輝く満月を見上げた。



 満月の日から屋敷ではなく、公園へ足を運ぶようになった。


「明日には、かぐやさんも結婚してしまうのか…」


空には綺麗な三日月が輝いている。

かぐやさんと逢えなくなってもう1ヶ月半程が経った。まさかこんな事態になるとは思ってもみなかったな…


ブランコの柵に軽く腰掛け、はぁ…とため息を付いた。


あれ?

突然、光の粒が公園の入り口に集まり出した。


「え?」


またたく間に光の粒の中から人影がぼんやりと写しだされ、段々と輪郭がはっきりとしてきた。


「まさか…」


「あれ?私は一体、どうしたのだ?」


間違いない!かぐやさんだ!すぐに走り出した。


----------


「かぐやさん!」


呼ばれて振り向いた。何と、春樹どのが走ってこちらへ向かっておるではないか!


「春樹どの!」


二人で走り出し、固く抱きあった。


「かぐやさん!本物のかぐやさんですね!」

「春樹どの!逢いたかったぞ!」

「どうか、顔を見せて下さい。」


両頬を挟まれて顔を見上げた。うっすらと涙ぐんだ春樹どのの顔があった。


「春樹どの…」

「かぐやさんを感じさせてください。」


春樹どのの顔が傾いた。


ん…


久々の口付けであった。

触れるだけの軽い口付けは、やがて春樹どのの熱を感じる深いものへと変わっていった。頭の後ろと腰を抱え込まれ、初めての深く濃厚な接吻であった。


「かぐや…かぐや…」


幾度となく角度を変え、唇の合間から漏れ出す私の名前を呼ぶ声が、逢えぬ期間の切なさを感じさせた。

気が付けば春樹どのの首に手を回し、お互いの熱を夢中で求めあった。

傍に居ることを、実感出来るように…


そっと唇を離し、お互いの額を付けて微笑みあった。間近で見る久しぶりの春樹どのの笑顔だ。


「かぐやさん、おかえりなさい。」

「春樹どの、ただいま。」

「ふふ。座って話をしましょうか。」

「そうだな。」


ベンチに座り、今までの出来事を話し始めた。春樹どのはその間ずっと私を離さぬよう抱き締めながら聞いておった。


「…という訳で、気付けばここへ立っておったのだ。私にもよく分かってはおらぬ。」

「本当に心配しました。二度と逢えないかと思いました。」


抱き締める腕に、少し力が入った。


「逢えぬ間、春樹どのに貰った指輪だけが、心の拠り所であった。これが無ければ耐えられなかったかもしれぬ。」

「それは、丁度良いタイミングで渡せました。」

「ふふ。そうだな。」


そして屋敷まで送って貰った。本当は離れたくないと言っておったが、天界の引きずるような着物では目立ち過ぎる故、諦めたようだ。


「夏休みが終わるまで、毎日会いに来ていいですか。」

「勿論だ。」


にこっと笑いながら小指を絡ませて、約束をした。


屋敷に戻った私の姿を見た爺やと婆やはびっくりしておったが、恐らく私の能力であろうと説明してくれた。

本当に天界と下界の瞬間移動が出来るようになったのか…これで満月を問わず自由に天界と下界を行き来出来るな。


きっと、今頃天界は大騒ぎであろう。しかし、暫くは黙っておいた方が祖父どのに灸を据えることにもなるであろうな。



 長いようで短かった夏休みが終わり、いつものように学食で皆が集まった時であった。


「ホント、春樹は死人のような顔をしてたよ!」

「無精ひげを生やして、髪の毛もボサボサだったよな!」


秋人どのと冬馬どのが、私のいなかった間の春樹どのの様子を教えてくれた。

ふふ。それほど心配してくれたのだな。

春樹どのの顔を見ると、照れてほんのり赤くなっておった。


「お?顔が赤くなっておるぞ!いつもの逆であるな!」

「…かぐやさん、それは私への挑戦状ですか?」

「挑戦状?い、いや、そんなつもりは…」


まずい!春樹どのの意地悪スイッチを押してしまったようだ。


「かぐやさんの顔を赤くするなんて容易いことですよ。」


そう言いながら皆の前で首の後ろに手を回され、チュッ!と口付けられた。

な、な!

瞬時に顔が熱くなってきた!


「ほらね。」


勝ち誇ったように、にっこりと笑う春樹どのであった。

恐らく、一生、春樹どのには勝てぬであろうな…



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