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第36話・能力の目覚め

 次の日、義兄上が私の部屋へ来た。


「昨日の話ですが、一度だけ会い、その後は向こうから断るよう伝えておきました。」

「ありがとうございます。」


義兄上の話だと、中流貴族の出身だが能力を見出され、義兄上の部隊に入ったそうだ。

三日後に会う手筈を整えられた。


そして、求婚してきた殿方と会う日となった。場所は何故か、貧困層の居住地に近い茶店であった。


「かぐや様。お待ちしておりました。私、柳本の雅義まさよしと申します。以後お見知りおきを。」

「竹野塚かぐやと申す。」


柳本どのは、下界で言えば小さな目の部類であるが、ふくよかさはあまり無いようだ。その者を見ても不細工だと思わなくなってきたな。


「この度は身分違いの上に、想い人がいるとも知らず求婚してしまい、大変申し訳ございませんでした。」

「いや、こちらこそ申し訳無い。だが身分を抜きにしても、何故私のような容姿が劣る者に求婚などしたのだ?」


柳本どのはふっと笑って、こちらへと私を促し、歩きながら話し出した。


「足利様より、かぐや様のお話を聞きました。何でも貧困層の子供達に武道を教えたいという夢を持っていらっしゃると。」

「貧困層の子供達はそれだけで心無い貴族達のいじめに合っておる故、少しでもそのような者達を無くしたいと思ったのだ。」

「その考えに大変感銘を受けまして、求婚させて頂きました。あ、ここです。」


柳本どのは、一軒の骨組みだけの建物の前で止まった。


「かぐや様の為に建てておる、道場にございます。」

「これがか?一体誰が…」

「足利様が中心になっております。我が部隊では能力だけに頼らぬよう鍛錬が必要だと足利様は考えておいでです。そこで、かぐや様にご指導頂きたいと帝に進言されておるようです。」

「そうなのか?」

「はい。そして私は武道を教える程の腕は持ち合わせておらぬ故、かぐや様がご不在の時に読み書きを教えられればと思いました。」


義兄上の働きかけに胸がいっぱいになった。


「かぐや様、今回は私から求婚を断るようにと聞いております。ですが、子供達の道場はお手伝いさせて頂けないでしょうか。」

「それは私からもお願いする。よろしく頼む。」

「ありがとうございます。どうか、想い人と幸せになることを願っております。」

「柳本どの、ありがとう。」


思った以上に良き殿方であったな。柳本どのならば、すぐに婚姻相手が見つかるであろう。

これで祖父どのも諦めてくれれば良いが…



 だが、事態は好転しなかった。祖父どのが、中流貴族ごときが上流貴族の婚姻を断るとは何事だ!と事を荒げ、柳本どのは求婚の断りを撤回させられたのだ。


「格下の貴族にまで馬鹿にされるとは、何処まで私の顔に泥を塗れば気が済むのだ!婚姻は二十日後と決めてきた。それまでに準備せい!」


駄目だ…このままでは本当に婚姻となってしまう…他人になりすまして下界へ帰ろう!

だが、満月の夜に屋敷を抜け出そうとした時、祖父どのの使いの者に捕まえられてしまい、祖父どのの屋敷に幽閉され、婚姻の儀まで一歩も外へは出られぬようになってしまった。


「もう二度と、春樹どのの顔を見る事さえも許されぬのであろうか…」


必ず逢えると信じ、泣かぬと決めたのに…

この満月の夜ばかりは、溢れる涙を止めることが出来なかった。


「春樹どのに逢いたい…」


右手の薬指に光る指輪にそっと触れ、涙を溢しながら春樹どのの笑顔を思い浮かべた。



 婚姻を明日に控えた夜、祖父どのが私の元へやって来た。


「かぐや、明日は大人しくするのだぞ。」

「…」

「嫌なら弥蔵に頼んで動けぬようにするまでだ。」


義兄上にそのようなことをさせてまで、自分の思い通りにしたいのか!

思わず、キッ!と祖父どのを睨んだ。


「何だ、その目つきは!まだ私に逆らう気か!」

「私が婚姻するのはただ一人だけです!」

「汚れた虫けら下界人との婚姻など許さぬわ!恥を知れ!」


「私が傍に居たいと思うのは、春樹どのだけだ!」


そう叫んだ瞬間、ふわっと光の粒が私の周りに集まり始めた。


「こ、これは…」


光の粒が私を包み込むと、祖父どのの姿が見えなくなっていった。


「か、かぐやが消えた!」


----------


 かぐやさんが連れ去られてから、可能な限り屋敷へ行った。もはや手がかりはここしか残っていなかった。


「お願いします!テンカイへの行き方を教えて下さい!」

「何度来られても教えられぬ。」

「お願いです!一目だけでもいいのです!会わせて下さい!」

「次の満月には何かの知らせが届くであろう。それまで待つのじゃ。」


はぁ…今日も収穫無しか…

いや、ここで諦めては駄目だ!明日もまた来よう!


夏休みに入り、毎日のように屋敷へ通う日々が続いた。


「春樹、今日も行くのか?」

「もちろんだ。手掛かりはあそこしか無いしな。」

「俺も手伝える事があったら言ってくれ。」

「ありがとう、冬馬。その時には頼むよ。」


秋人から事情を聞いていたようだ。心強い味方の援護を胸に、屋敷へ通った。


そして満月の夜になった。今日こそは何かの手がかりが見つかるかもしれない。

暗くなると同時に、かぐやさんの屋敷へ行った。空には綺麗な満月が輝いている。


緊張しながら、門の前に立った。



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