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第34話・強制送還

 突然現れた天界の使者達。しかも、義兄上の部隊のようだ。


「義兄上、どうされたのですか?」

「かぐやどの、元気そうで何寄りです。」

「そうですが、いきなりとは何か急用ですか?」

「まぁ…」


やけに言葉を濁すな…

義兄上は、春樹どのをチラッと見た。


「そなたが、浦和春樹どのか?」

「はい。そうです。」

「かぐやの義兄で、足利の弥蔵と申す。」

「はじめまして。よろしくお願いします。」

「あぁ、すまないな。私も尽力する故、しばしの我慢だ。」


ん?義兄上は何のことを言っておるのだ?

しかし、このような特殊な状況でも動揺せぬとは、春樹どのも中々のものであるな。


「義兄上、今日はいかがされました?」

「…帝の許しが出ました。」

「何のですか?」

「追放期間が終了しました。」


あ…

そうだ、父上は帝の許しが出たら、すぐに使者を寄こすと言っておったな。


「義兄上、もう少しこちらで過ごしたいと思います。そうお伝え頂けませぬか?」

「…それは、天界に帰ってから申し出て下さい。」

「では、後でやよい姉様と話をします。」

「それはなりません。」

「何故ですか?」

「連れて帰れとの、ご命令です。」

「何だって?」


さっと、春樹どのの背中が視界を遮った。


「いくら何でも、本人の意思を無視して帰れとは、少しやり過ぎなのではないですか?」


義兄上はじっと春樹どのを見つめた。


「そなたの話は、やよいからも聞いておる故、申し訳ないと思う。だが、これは命令なのだ。」

「そんな命令は聞けません!」

「聞くか聞かないかの問題ではない。すまないな。」


春樹どのは私の手を握り、反対方向へ走り始めた!


「かぐやさん、逃げましょう!」


だが、さっと、護衛部隊が行く手を塞いだ。


「え?何故…」


私を守るよう抱き締める春樹どのに、義兄上が手をかざした。


「…本当にすまない。」


義兄上の手がふわっと光ったかと思ったら、春樹どのは手をだらりと下げたまま、動かなくなってしまった。


「義兄上!春樹どのに何をした!」

「大丈夫です。我々が去った後、能力は解けます。」


これが義兄上の能力か!


「かぐやさん…」

「春樹どの!」

「すみません…一人で逃げてください…」


「ほう。この者は我の能力を持っても話せるのか。大したものだ。」


義兄上に手を掴まれそうになったが、さっと避け、動かぬ春樹どのを抱き締めた。


「義兄上もやよい姉様から聞いておられるのであれば、分かるであろう!私は春樹どのの傍に居たいのだ!」


義兄上は返事をする事なく、部隊に目で合図を出した。部隊の者に両腕を掴まれ、春樹どのから引き剥されてしまった。


「嫌だ!離せ!」

「ご命令です。」

「こんな命令など聞けぬわ!」

「暴れないでください!」


「かぐやさん!かぐやさん!」


「春樹どの!」


「かぐやさーん!」


もう手を伸ばしても春樹どのに触れられぬ…

何故、想い人とこのような別れをしなければならぬのだ!


「春樹どのー!」


「かぐやー!」


春樹どのの叫び声が聞こえた。姿は涙で見えなくなった。


----------


 かぐやさんが、連れ去られた…


急に身体が動かなくなり、何も出来なかった。私の名前を泣き叫びながら山の中へ連れて行かれるかぐやさんを、見送ることしか出来なかった…


すーっと山から月へ一筋の光が上がるのが見えると、急に身体が動くようになった。

ガクッと膝をつき、両手を見た。


さっきまで、かぐやさんをこの手で抱き締めていた筈だ。

何も出来ず、助けられず、目の前で奪われていく…


「うわぁー!!」


叫びながら泣き続けた。怒りをぶつけるよう、地面を何度も殴った。



どのくらい経っただろう。涙も枯れ果てた頃、やっと立ち上がり別荘へ戻った。

玄関を開けたら、秋人と松乃さんが見えた。私達を待っていたようだ。


「おかえり~!遅かったから心配したよ♪」

「って、春樹ボロボロじゃん!何があったの?」


黙って頭を横に振った。


「かぐやちゃんは?ケンカでもしたの?」


これにも黙って頭を横に振った。


そのまま寝室に上がり、ベッドに座り込んだ。部屋には、かぐやさんの荷物がそのまま置かれてある。

枯れ果てたはずの涙が、また溢れ出て来た。


「うっ、うっ…」


コン、コン。

控え目なノックが聞こえた。ドアを開けると、秋人が立っていた。


「今、大丈夫?」

「ああ。構わないよ…」


涙声のまま返事をして、再びベッドに座り込んで項垂れた。


「かぐやちゃんに何かあったの?」

「…」

「もしかして、テンカイの使者?」

「秋人、何故それを!」


思わず顔を上げて、秋人を見た。


「窓から見えた光に、見覚えがあったんだよね。ほら、かぐやちゃんが誘拐された時、僕だけテンカイの使者に会ってるからさ。」

「そうだったな…」

「こんな事言ったら酷かもしれないけど、異次元を操る民族かなぁと思ってるよ。非現実的だけどさ。」

「…」

「だから、きっと地図にも載ってない秘密の場所で…」


立ち上がり、言いかけた秋人の胸倉を掴んだ!


「それ以上言うな!」


「わ、分かったよ…でも、これだけは覚えておいて。何があっても春樹の味方だから。協力は惜しまないよ。」


胸倉を掴んだ手を離した。


「…ありがとう。すまなかったな。」

「大丈夫。春樹の気持ちは痛い程分かるしね。じゃぁ、おやすみ。」

「おやすみ…」


秋人がそっと扉を閉めると、ベッドに身体を横たえた。

泣いてばかりでは駄目だ。かぐやさんに逢える方法は必ずある筈だ。


必ず連れ戻す!

そう固く心に決めた。


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