第31話・ナンパ撃退方法
「はぁ…今年のゴールデンウィークは全然黄金じゃぁないね!」
皆がため息をつきながら、スマホのカレンダーを見ておった。
「前半と後半で別れちゃうからね。旅行もゆっくり出来ないや。」
「ん?松乃どのは何処かへ行く予定だったのか?」
「毎年、秋人と旅行へ行ってたんだけど、今年は国内かなぁ…」
「国内でも松乃ちゃんと一緒なら幸せだよ♪何なら、別荘でゆっくり過ごす?」
「それもいいね~!何もしないでのんびりしよっか♪」
二人は予定が決まったようだ。
「小梅、夏になったら、二人でバイクに乗って出掛けような!」
「うん!楽しみにしてるね!」
「冬馬どの、ゴールデンウィークは予定があるのか?」
「いや、バイクの免許は取得してから1年経たないと、二人乗りが出来ないんだ。」
「へぇ。そういうものか。」
この二人は、街で映画を見ると約束できたようだ。
春樹どのを見ると、何やらまだ思案中であった。
「う~ん…最低でも三泊だよな…」
「何が三泊なのだ?」
「い、いえ。そのくらいゆっくり旅行したいなぁと思っただけです。」
「そうか。そのくらいの日程であるならば、夏休みでないと難しいであろうな。」
「夏までお預けか…」
そんなにも真剣に私との旅行を考えてくれておるのか。嬉しいものだな。三泊に別の意味があるとは知らず、夏になるのを楽しみにした。
そして、ゴールデンウィークは飛行機で、日帰りの旅へ行くこととなった。
飛行機で約1時間半、広島に着いた。
「ここにはどんなものがあるのだ?」
「色々ありますが、宮島には世界遺産に登録されている厳島神社があります。もし満潮に当たれば、かなり幻想的な風景が見られるそうですよ。」
「ほう。それは楽しみだ。」
春樹どのが手配したハイヤーという車で移動し、フェリーに乗り換えて宮島へ着いた。
歓迎してくれたのは、沢山の鹿達だった。
「おお!この鹿の群れは凄いな!」
「襲われないように気を付けて下さいね。」
「そんなに凶暴なのか?」
「何も無ければ大丈夫ですが、食べ物を持っていると寄ってくるようです。」
「これは面白い形の饅頭であるな。もみじの葉っぱのようだ。」
「広島の名物ですよ。見た目どおりもみじ饅頭というそうです。」
色々な店を覗きながら商店街を歩き、厳島神社へ着いた。幸運にも満潮であった。
「これは、美しい!回廊が海に浮かんでおるようだ!」
「鳥居も見てください。海の中に建っているように見えますよ。」
「本当だ!これは天界でも中々見れぬ風景であるぞ!」
「ふふ。きっと歴史的遺産の方がお好きだと思いました。今度はゆっくり京都や奈良にも行ってみましょうね。」
帰りもゆっくりと商店街を歩き、皆へのお土産を購入した。
そして、帰りのフェリーを待っておる時だった。
「ちょっとお手洗いに行ってきますね。」
「分かった。ここで待っておる。」
春樹どのが去った後、軽薄そうな輩達が近付いてきた。
「姉さん一人?」
「連れがおる。」
「え~!何処にも見えへんな!俺達、関西から観光に来てんねん。一緒に回ろうや!」
手を伸ばしてきた奴を、サッと払いのけた。
「無礼者!触るでない!」
「ぷぷ!姉さん喋るの、おもろいな♪」
二人か…武闘派でなければ余裕だな。次に何かあれば構える準備をせねばなるまい。
そう思っておった時、春樹どのの声が聞こえた。
「かぐやさん、お待たせ。」
声が聞こえた方へ振り向くと、目の前に春樹どのの顔が迫っており、チュッ!と音を立てて口付けられた!
「な、な!」
そして固まる私を後ろから抱き締めて、軽薄な輩に向き直った。
「私の彼女に何か用ですか?」
丁寧だが、圧力を感じる物言いだ。
「い、いや、ほんまに連れがおったんやな…」
「そないに見せつけんでも、ええやろ。」
軽薄な輩達は、そそくさと立ち去っていった。
「ふう…ゆっくりお手洗いにも行けませんね。」
「い、今の輩くらいなら、余裕で撃退できたぞ。」
「それでもです。他の男性には、指一本も触れさせたくありませんので。」
「そうか…」
何だか、大事にされておるようなくすぐったさを感じた。
しかし公衆の面前での接吻とは、恥ずかしいものであるな…
再びフェリーに乗り込み、降りた場所の近くで穴子飯というものを頂いた。
「これは鰻に似ておるな。」
「鰻は基本的に淡水ですが、穴子は海水で生活します。テンカイには海が無いとお聞きしていますし、珍しいかもしれませんね。」
「うむ。中々の美味であるぞ。」
「私もお寿司でしか食べた事が無かったので、新鮮な気分ですね。」
珍しい食べ物を頂き終わり、そろそろ空港へ戻るかという時、ハイヤーの運転手が店へ飛び込んできた。
「浦和様、飛行場の辺りは雷と大雨が凄いようで、今日の便はすべて欠航になるとのことです。」
「え?本当ですか?」
「欠航の影響で、新幹線も満席のようです。自由席で立って帰られるか、すぐに何処かで宿をお取りになる方が宜しいかと…」
どうやら、日帰りは難しい雲行きだ。