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第30話・二人の想い

 はぁ、はぁ…息が切れて、もう走れそうもなかった。


「はぁ、はぁ…かぐやさん、相変わらず足が早いですね。」

「そんなことどうでも良い!腕を離せ!」

「嫌です。絶対に離しません。」

「離せと言っておるだろ!」


「何故、私を避けるのですか?何か傷つけるようなことをしましたか?」

「覚えが無いのなら、別に良いであろう!」

「良くありません。何かあるのなら言って下さい。」

「言う必要も無い!離せ!」


「かぐやさん!!」


ビクッ!とした。声を荒げる春樹どのは初めてだ。


「お願いです…何があったのか話して下さい。」


何故、春樹どのの方が傷ついた顔をしておるのだ…無性に悔しく、悲しい気分になった。


「そんなもの、話せるか!私のことなど構わず、とっとと婚姻する姫君のところへ行けばよかろう!」

「婚姻?誰がですか?」

「見合いをしていたではないか!」


春樹どのは、ふぅ、と深く息を吐き出した。


「見合いをしたのが原因ですか?」

「そうだ!悪いか!」

「ですが、いつも私の幸せを願ってくれていましたよね?」

「願っておったが、嫌なのだ!」

「それは、私が他の女性と幸せになることが、嫌だということですか?」

「そう言っておるであろう!」


突然、春樹どのは、ふふっと笑いはじめた。


「何が可笑しいのだ!」

「いえ、かぐやさんが私に愛の告白をしてくれているように聞こえて、嬉しいのです。」

「な、な、何でそうなるのだ!」


一瞬で顔が、かぁっ!と熱くなった。


「では、かぐやさんが私を幸せにして下さい。」


そう言いながら、春樹どのは私の腰を抱き寄せた。


「な、何故私が!」

「他の女性と私が幸せになるのは嫌なのですよね?私もかぐやさん以外の女性と幸せになるつもりはありませんよ。」


春樹どのは、見たこともないような優しい笑みを浮かべた顔を少し傾け、そっと寄せてきた。


はっ!このままではマズい!


「ま、待て!接吻しては、すぐに婚姻となってしまうぞ!」

「それは大丈夫です。」

「何が大丈夫なのだ?」

「だって今、かぐやさんと私は結婚していないでしょ?」

「え?…」


続きの言葉は遮られた。春樹どのの唇が私の唇を塞いだのだ。


あ…


自然と瞼が下りて、目を閉じた。永遠と思われる程の長い間、口付けられた後、静かに唇が離された。


「ふふ。三度目の正直です。」

「…」

「これでやっと、かぐやさんに触れることが出来ます。」


もう一度、そっと口付けられた。


…何だか頭が追いつかぬ。これは、今、婚姻の相手を決めたってことだよな。しかも私は嫌がらなかった…


「そ、その…春樹どのは、私のことが好きなのか?」

「はい。大好きです。かぐやさんは私のことが好きですか?」

「…」

「かぐやさん?」

「…分からぬ。」

「分からないですか?」

「でも、春樹どのの傍に居たいと思う。これが好きということなのか?」


春樹どのはにこっと笑って、私をふんわり包み込んだ。


「今はそれで充分です。幸せ過ぎて、胸がいっぱいです。」


もう一度優しく口付けられた。


「かぐやさん、愛しています。」



 翌日、久しぶりに学食へ行った。春樹どのから、皆に誤解が解けたと連絡したそうだ。


「もう、かぐやちゃん、心配したよ!」

「小梅どの、心配を掛けたな。」


「ホント!かぐやちゃんの動向を探るの、大変だったんだから!」

「松乃どのは、そのようなことをしておったのか?」

「そうだよ♪中々いい働きしたんだから♪」


「道場にも顔を出さないから、師匠も心配してたぞ。」

「冬馬どのにも迷惑を掛けたな。今度行った時、詫びを入れておく。」


「でも、何の誤解をしてたの?」

「あ、秋人どの、それは…」


言葉に詰まっておったら、後ろから肩に手を掛けられた。


「かぐやさん、見つけました。」


その言葉が聞こえるや否や、頬にチュッ!と音がした。


「な、な、な!何をする!」


振り向くとにこやかな春樹どのが立っておった。


「何って、みんなに見せつけてるだけですよ。」


「え?もしかして?」

「はい。最高の誕生日でした。」

「やったじゃん!おめでと~♪」

「ありがとう。」


「って、かぐやちゃん、顔真っ赤!」

「ゆでダコみたい!かわいい~♪」


接吻された頬に手を当てたまま、動けなくなってしまった。

こんな心臓に悪い日が、これから先ずっと続くのか…



 帰りは講義が4コマ目まである私に合わせて、早く終わった春樹どのが迎えに来てくれた。

爺やに迎えの断りを連絡し、春樹どのの車に乗り込み、いつもの高台の公園へ来た。


「ふう、今日はからかわれ過ぎて疲れたぞ。」

「すみません。どうしてもみんなに見せつけたくなってしまいました。」


「そういえば、見合いの相手というのは…」

「その場でお断りしましたよ。」

「そうか。」

「でも、かぐやさんにヤキモチを焼いて貰えるのなら、お見合いも悪くなかったですね。」

「や、ヤキモチなど焼いておらぬわ!からかうでない!」


振り上げた手を、パシッと掴まれた。


「からかっていません。愛おしいと思っただけです。」


微笑んだ春樹どのの顔が傾き、そのまま優しく口付けられた。



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