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第29話・すれ違う二人

 春樹どののお見合いを目撃してしまったその夜、秋人どのから電話が掛ってきた。


『は~い!かぐやちゃん♪今回の誕生パーティー会場は決まった?』

「今回は無しだ。」

『え?』

「だから、祝いなどしないのだ!」

『ちょ、ちょっと待って!かぐやちゃん何があ…』


話の途中だが、ピッ!と電話を切らせてもらった。これ以上、春樹どのの話はしたくなかった。



 週明け、講義が終わって急いで学食へ行った。春樹どのと顔を合わせないようにする為だ。

経済学部は学食から一番遠い故、いつも遅れて来るのだ。早く食べれるうどんを頼み、速攻で飲み込んだ。


「ごちそうさま!」

「え?かぐやちゃん、もう食べたの?」

「急ぐので、失礼する!」


急いで出ようとしたが、学食の入り口で春樹どのと出会ってしまった。


「あれ?かぐやさ…」


言葉の途中で、その場を走り去った。

何だかこの生活は胃に悪い気がするな…翌日から婆やに頼み、弁当を持参することにしよう。


空き講義室で一人で食べる事が続いたある日、小梅どのと松乃どのがやって来た。


「かぐやちゃん、一人で食べてるの?」

「たまには一人もいいかと思ってな。」


「…ねぇ。春樹くんと何かあったの?」

「春樹どのなんて、どうでもいいのだ!その話はしないでくれ!」


まだ食べ掛けだったが、さっさと弁当を片付けて、講義室を後にした。


はぁ…講義室を出て盛大なため息をついた。二人は何も悪くないのに、当たってしまった。自己嫌悪に陥りそうだ。

講義が終わった後も、誰にも合わぬよう走って爺やのリムジンに乗り込んだ。屋敷に帰っても、気分は落ち込んだまま、机に伏せた。


私はいつも春樹どのの幸せを願っておったではないか…ならば春樹どのの婚姻も祝ってやるべきであろう。でも、嫌なのだ。何故だか祝えぬのだ。


春樹どのは私に『他の男のものに、ならないでください。』と言っておったが、他の姫君との婚姻を考えておるということは、何の意味も無かったのだな…


あ~!もう、知らぬ!勝手に他の姫君と幸せになればいいのだ!春樹どのの顔なんて見たくもない!



 こうして、春樹どのを避ける日々が続いておったある日、廊下でばったりと春樹どのに遭遇してしまった。


「かぐやさん、お話があるのですが。」

「私には話など無い。」


春樹どのの横をすり抜けた時、ガシッ!と腕を掴まれた。


「私には沢山あります。」

「離せ!春樹どのの顔など見たくもないわ!」


一瞬、傷ついた顔に怯んでしまったが、腕を振りほどき走って逃げた。春樹どのは追いかけて来なかった。


その後も、一人で弁当を食べる日が続いた。


「はぁ…今日は春樹どのの誕生日か…」


誰にも見つからぬよう校舎の裏で弁当を広げた。しかし、箸を付ける気になれず、ぼーっと弁当を見つめておった。


あれ?

勝手に涙が溢れ出し、こぼれ落ちてきた。


「何で、涙なんて…」


慌てて手で顔を拭き、箸もつけておらぬ弁当を片付け、その場を後にした。


----------


『松乃から秋人へ報告!』

「何かあった?」

『校舎裏で、かぐやちゃんが泣いてる姿を発見!』

「了解!すぐに春樹に報告する!」


秋人が学食でお昼御飯を食べていた私のところへ走ってきた。


「春樹!大変!」

「秋人どうした?」

「かぐやちゃんが校舎裏で泣いてるって!」

「えっ?」


すぐに走り出して校舎裏に行ったが、かぐやさんの姿はもう無かった。


「はぁ、はぁ…一体何があったんだ…」


傷つけた覚えは無い。だが、みんなが言うには、私のことは話題にもしたくないそうだ。

私を避けるためにみんなからも離れ、一人で寂しくお弁当を食べ、一人で泣いているかぐやさんを思うと、キュッと胸が締め付けられそうだった。


もう、私のことは受け入れて貰えないかもしれない。

最悪な誕生日になるかもしれないが、それでも今日こそはかぐやさんに話を聞こう!


講義の後、屋敷へ行ってみたが、まだかぐやさんは帰ってないと言われた。爺やさんの迎えもいらないと連絡があったそうだ。長期戦も覚悟して、屋敷の門の前で待つ事にした。


----------


講義をサボってしまった…

お昼から何をする気にもなれず、爺やの迎えも断り、一人で街の中をぼんやり歩いた。


はぁ…ため息しか出ぬな…


時間を潰すように映画館へ入った。何の映画を見たかは覚えておらぬ。とにかく時間を潰したかったのだ。


映画館を出た時には、空が暗くなっておった。

爺やと婆やも心配しておるであろう。そろそろ帰らねばなるまい。

重い足を引きずるよう、ぼんやり歩きながら屋敷に着いた。


え?


門の前に人影が見えた。春樹どのが立っていたのだ。


「かぐやさん、おかえりなさい。心配しま…」


春樹どのが言いかけた言葉を遮るよう、走って逃げた!


「待ってください!」


後ろから聞こえる声を振り切るように全速力で走ったが、人気のない公園へ入ったところで、腕を掴まれた。




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