第8話・男性恐怖症克服同盟結成!
クラブでは一週間に一度、師範という大人が来て稽古を見てくれておる。
夏休み前の最後のクラブ、この日は初めて受ける昇段試験があった。
「始め!」
号令の元、覚えた型を披露した。
「竹野塚。」
「はい。」
「なかなか筋が良い。今回は飛び級で合格だ。」
「ありがとうございます!」
無事に合格できた。これで、一歩黒帯に近づいたな。
クラブの帰り、冬馬どのと門まで歩いている時のことであった。
「かぐやは何故そんなに強くなりたいんだ?確か好みの男はかぐやよりも強いヤツだったよな。あまり逞しくなると相手がいなくなるぞ。」
「大きなお世話だ。早く黒帯を取って冬馬どのに再戦を申し込む。」
「なぁ…再戦で俺が勝ったら俺と付き合うか?」
「ん?付き合うとはどういう意味だ?」
「い、いや、何でもない。忘れてくれ。」
「男性恐怖症を治すのが先だよな…」
「何か言ったか?」
「何でもない。気にしないでくれ。」
何だか変な冬馬どのであるな。
夏休みに入り、スマホのK.NETとやらで、皆で文字話をした。とは言え、私は皆ほど文字を入れるのが早くないので、ほとんど見ておるだけなのだ。
梅っち:「じゃあ、28日の14時に浦和邸集合ね!」
ハル:「了解!」
あきぴ~♪:「らじゃ~♪」
TOMA:「おっけい。」
おずおずと文字を入れてみる。
かぐや:「しょうちした。」
松っちゃん:「ぷぷ!かぐやちゃんが初登場♪」
TOMA:「慣れてないんだから、こんなもんだろ。」
あきぴ~♪:「春樹の家で早い打ち方、教えてあげるね♪」
皆と同じような速さで文字を入れるのは、鍛錬が必要なようだ。
話しも終わり一つため息をつくと、また呼び出し音が鳴った。先程とは違い、一人ずつの会話のようだ。
ハル:「28日だけど、やっぱり13時に集合です。」
かぐや:「しょうちした。」
あれ?いつの間にそんな話になっておったのだ?皆の速さには中々ついていけぬな…
28日13時、約束どおり春樹どのの邸宅前に着いた。
スマホで着いた旨を連絡すると、インターホン鳴らしてくれればいいのにと言われた。
門の横にあるこれか?ポチッと押してみた。
<ピンポーン>
ほう、この音で来客が分かるのか。
「かぐやさん、スマホで連絡頂いたので、もうインターホンは必要ありませんよ。」
笑いながら春樹どのが出てきた。
「珍しいので、押してみたかったのだ。」
「ふふ。本当にかぐやさんは面白いですね。」
部屋に通されると、他は誰もまだ来ていないようだ。
「他はまだ来ておらぬのか?」
「みんなは14時に来ますよ。」
「ん?13時というのは?」
「私がかぐやさんとお話ししたかっただけです。」
わざわざ時間をずらすという事は、何か重要な話であろう。正座して向き合った。
「ではお伺いしよう。」
春樹どのはキョトンとして、その後、笑い出した。
「ふふ!かぐやさん、真面目に話を聞いてくださるおつもりだったのですね!」
「違うのか?」
「すみません。普通の話で充分です。」
「では何故私なのだ?」
「私の父は会社を経営しています。ですからお金目当てで近づいてくる女の子も多いので、身構えてしまうことがよくあります。その点、かぐやさんはまったく興味なさそうなので、かえって話しやすいのです。」
元婚約者の顔だけ男も、上流貴族の地位目当てで私に近づいておったし、春樹どのも似たような感じなのであろうか。これが言いたくて早目に呼び出したのだな。
「そなたも色々と大変だな。」
「まぁ、慣れましたけどね。あっ、ちょっと動かないで下さい。」
うわっ!春樹どのがおなごのような柔らかな顔を近付けてきた!咄嗟に目を瞑り顔を背けたが、頬をかすかに触る気配がした。
「何をする!」
「驚かせてすみません。頬にまつ毛が付いていましたよ。」
指の先にあるまつ毛を見せてくれた。
何だ、そういう事か。勘違いも良いところだ…
「やはり、男性恐怖症を治すのが先か。」
「ん?何か言ったか?」
「いや、こっちの話です。気にしないで下さい。」
何だか変な春樹どのであるな。
14時になり、皆が到着した。秋人どのが午前中に雑誌の撮影があったらしく、その話で盛り上がっておった。
「え~!あの人気モデルのたまえちゃんに壁ドンしてきたんだ♪」
「でもあの子、整形だし馴れ馴れしくて苦手なんだよね~。」
壁ドンとは何だ?スマホで調べてみるか…
鞄の中からスマホを取りだして文字を入れておると、秋人どのが覗きこんできた。
「何を調べてるの?壁ドン?」
「初めて聞く言葉を調べておるのだ。」
「だったら実践してあげる♪ちょっと壁側に立ってくれる?」
言われたとおりに壁側に立ってみる。
「じゃぁいくよ♪」
うわっ!
秋人どのの近付いてきた大きな目に思わずぎゅっと目を瞑った!
ドン!
顔の横で何やらぶつかる音。
「ごめんごめん。そんなに怖がらないで。」
「びっくりしたぞ。」
「やっぱ男性恐怖症を先に治すか。」
「ん?何か言ったか?」
「何でもないよ~♪」
何だか変な秋人どのであるな。
私にはよく聞こえなかったが、春樹どのと冬馬どのには意味が通じたらしい。何やら三人で立ち上がり、それぞれの腕を交差させておる。
「奇遇だな!俺もそう思ってたところだ。」
「ああ。頑張って克服させよう。」
「お~♪」
不細工三人衆の行動は不可解である。小梅どのと松乃どのに聞いてみた。
「何だ?あの結束は。」
「男の子の思考はよくわからないね。」
「まぁ、仲良しってことでいいんじゃない♪」
良いことらしい…