第26話・パートナーはフィアンセ
バレンタインデー以降、クロードどのが、私と常に一緒にいるようになった。
「カグヤサン!ランチヘ行キマショウ!」
「あぁ。」
何故か講義の後も、走って私の講義室まで迎えに来る状態だ。
「クロードどの、そんなに走って来なくても、学食で会えるぞ。」
「大丈夫デス!私ガ、ソウシタイノデス!」
「そうか。」
クロードどのが日本に居るのも、あと一カ月足らずだ。寂しいのであろう。
「トコロデ、カグヤサン、春休ミハ、予定アリマスカ?」
「いや、今のところ何も無い。」
「私ノ国ヘ来マセンカ?」
「ユーリシア王国へか?」
「ハイ。沢山案内シマス!」
「すまぬが、初めて行くところは…」
「ハルガ、一緒ガ良イデスカ?」
「そうだな。英語も話せぬ故、春樹どのが一緒だと心強い。」
クロードどのは少し考えて、また話し始めた。
「デハ、ハルモ誘イマスネ。」
「分かった。」
「デスガ、ハルニハ内緒デ、オ願イシマス!」
「それは何故だ?」
「ハルヘノ、サプライズデス!カグヤサン来ルコトヲ、内緒ニシマスネ!」
「ふふ。それは驚く顔も楽しみであるな。」
春樹どのも一緒に旅行か。初めての海外旅行であるし、楽しみだ。
学食に着き、クロードどのが席を外した時、春樹どのが心配そうに尋ねてきた。
「かぐやさん、クロードが迷惑を掛けていませんか?」
「今のところ大丈夫だ。」
「そうですか。何かあったらすぐに言って下さいね。」
「ありがとう。」
クロードどのが席へ戻り、パーティーの話となった。
「ワタシノ、送別パーティーガ、アリマス。皆サンニ来テ欲シイデス!」
「もちろん行くよ!クロードが居なくなると、ちょっと寂しいね!」
「オウ!松乃サン、アリガトウゴザイマス!イツカ、遊ビニ来テ下サイネ!」
「もちろん秋人と一緒に行くよ♪」
皆もパーティーへ行くようだ。
「カグヤサンハ、モチロン私ノパートナーデスネ!」
え?そうなのか?
思わず春樹どのを見ると、仕方なさそうに肩をすくめておった。
まぁ最後だし、付き合うとするか。
「分かった。最後の日本を一緒に楽しもう。」
「オウ!カグヤサン!愛シテマス!」
「ふふ。クロードどのはいつも大げさであるな。」
後日、春樹どのから旅行のお誘いがあった。
「かぐやさん、春休みに海外へ行きませんか?」
お?これはクロードどのが言っておった話だな。
「すまぬが既に予定が入っておる。春樹どのだけで楽しんでくれ。」
「…そうですか。残念ですが、日が合いましたら一緒に行きましょうね。」
ふふ。実は春休みが一緒だと分かると、驚くであろうな。
後期の試験が終わり、クロードどのの送別パーティーの日となった。ドレスはクロードどのから送られてきた、光沢のある白地に装飾が施された少し丈の短いドレスだ。
まぁ、前回のピンクよりはマシか…
クロードどのにエスコートされながら、会場へ入ると皆の姿が見えた。前回は知り合いがほとんど居なかった故、少々不安であったが、見知った顔が沢山おる今回は安心するな。
皆と軽く挨拶をすると、小梅どのが寄ってきた。
「かぐやちゃん、どうしたの?まるで花嫁さんみたい!」
「これがクロードどのから送られてきたのだが、花嫁とはどういう意味なのだ?」
「ウエディングドレスっぽいなぁって思っただけ。」
「ウエディングドレス?」
「そそ。結婚の時に着るものね。」
「婚姻の時は十二単か白無垢、色打ち掛けであろう。」
「そっか。特に意味が無いんだったらいいよ。」
何だか意味深である気がしたが、まぁ良い。最後くらい気持ちよくクロードどのを送りだしてやろう。
クロードどのの腕に手を添えて、前回同様、沢山の来賓と挨拶を交わした。
「“おお!これは美しい女性だ!まるで花嫁のようだな。”」
「“もちろん!花嫁の御披露目のつもりでドレスを用意したよ!”」
「“クロードのガールフレンドなのかい?”」
「“違うよ。婚約者なのさ!”」
「“それはそれは!おめでとう!”」
「“ありがとう!これからも彼女を宜しくね!”」
まったく会話の意味が分からぬな…仕方なく前回同様、クロードどのの横で愛想笑いを続けた。
「クロードどのは、何故そんなに挨拶を沢山するのだ?」
「コレモ、王族ノ務メデス。カグヤサンモ、慣レマショウ。」
いや、これはたぶん一生慣れる気がせぬぞ。王族というのも大変な職業であるな。
そのうち、ダンスタイムとなった。
「カグヤサン、踊リマショウ!」
「うわっ!行くから、手を引っ張るな!」
「ハヤク!ハヤク!」
フロアの中央まで連れて来られ、腰に手を添えられてダンスを始めた。クリスマスに春樹どのと一緒に踊った時の方が楽しかったな…
踊っておる時、ふと会場の片隅に立っておる春樹どのと目が合った。私にだけ分かるよう、小さく手を振ってくれた。以心伝心しておるようで、思わず微笑んだ。
無事にパーティーも終わり、屋敷までクロードどのに送ってもらった。
「デハ、私ガ帰国スル時、オ迎エニ来マスネ。」
「分かった。楽しみにしている。」
「オヤスミナサイ。」
「おやすみ。」
走り去る車を見送って、屋敷へ入った。
そろそろ旅行の準備もせねばなるまい。幸い春樹どのにはまだバレてはおらぬようだ。
ふふ。驚く顔が楽しみだな。
そういえば、109本の薔薇に何の意味があるのか、皆に聞くのを忘れておったな。