第7話・学問の試験
学校には定期的に学問の試験というものがあるらしい。
天界人は本を一度読むと、ほとんど記憶することが出来るので、どれだけ本を読んで知識を習得するかが賢さの差となる。また、特別な能力を持った者が重宝される。
下界では試験の出来具合によって賢さが決まるようだ。今は試験前とあって、クラブも休みになり退屈であった。
教室にて、皆で試験勉強をしておった時のことだ。小梅どのがさっきから唸っておる。
「う~ん、この公式ってどこに載ってたかなぁ…」
「それなら数学Ⅱの56頁にあるぞ。」
「本当だ!かぐやちゃんありがと!」
今度は松乃どのが唸っておる。
「この動詞の訳って他に何かあったかなぁ?」
「それなら英文法の35頁に載っておる。」
「本当に載ってる!かぐやちゃん凄いね♪」
ここで、小梅どのが不思議な事を言い出した。
「もしかしたらかぐやちゃん、キング3の記録破るんじゃない?」
「かもね♪記憶力凄いもん!」
松乃どのまで同意しておるが、まったく意味が分からぬ。
「キング3の記録とは?」
「常にトップ3を独占!その連続記録を更新中だよ。」
「顔だけでなく頭もいいし、運動もできるからキングって呼ばれてるんだ♪」
二人の説明を合わせると、あの不細工三人衆がいつも成績上位を独占しているということか。天界と下界の違いがどれ程のものか確かめる良い機会だ。まぁ私が下界人に負ける筈は無いがな。
かくして無事に試験は終わり、上位成績者の氏名が貼り出された。
<一位・浦和 春樹>
<二位・竹野塚 かぐや>
<三位・金城 冬馬>
<四位・桃井 秋人>
<五位・桜小路 乙葉>
え?ま、負けた…
天界人であるこの私が、下界人の不細工三人衆の一人に負けてしまった…
「すごいじゃない!かぐやちゃん!」
「キング3の記録、破ったね♪」
小梅どのと松乃どのが口々に褒めてくれるが、負けたことへの衝撃から気分は晴れなかった。
皆が褒めてくれる手前、落ち込んでおる顔を見せてはまずいであろう。何とか取り繕って教室へ戻った。
「かぐやさん、凄いですね。うかうかしていたら私も抜かれそうです。」
「ま、まぁな…」
「ですが、何故そんなに浮かない顔をしているのですか?」
顔を取り繕っておったのに、春樹どのにバレてしまったようだ。仕方なく負けた原因を白状した。
「えっと、数学の点数が悪くて…」
「何点だったのですか?」
「…58点であった。どうやら覚えるだけでは駄目なようだ。」
「私で良ければ教えましょうか?」
春樹どのが教授を買って出てくれた。
「数学は思考力も必要ですが、ちょっとコツを覚えればすぐに点数上がると思いますよ。」
「本当か?それは是非お願いしたい!」
「ずるい!俺にも教えろよ!」
「お前は私よりも数学が得意だろう。」
冬馬どのと春樹どのが何やら言い合いを始めた。そんな二人の仲裁に入るよう、小梅どのが何やら言い出した。
「ねぇねぇ、私も教えて貰いたいんだけど、みんなで集まらない?」
「いいね~♪夏休みにもなるし、ゆっくりと海の計画も立てたいし!」
また何かが決まった。皆の決断力は恐れ入る速さだ。
と、ここで、松乃どのが私に何やら尋ねてきた。
「かぐやちゃん、スマホ持ってる?」
「“すまほ”とは何だ?」
「主には電話だけど、他にも色々便利な機能が付いているよ♪」
そういえば、婆やから電話とかいう平べったい物を渡されたな。鞄の中から取り出して皆に見せた。
「これのことか?」
「そう!それそれ♪」
「K.NETやってる?みんなでメッセージ交換が出来るんだよ♪」
「いや、スマホを今まで使ったことがないのだ。」
すると、秋人どのが私のスマホをサッ!と取り上げた。
「何をする!」
「だって使い方わからないんでしょ?今すぐ設定してあげるから♪」
何やら器用に画面を動かし始めた。
「これが、かかってきた電話を取るやり方ね!これがK.NETで、みんなでグループチャットが出来るんだ♪」
「ほうほう。」
「何か知りたいことも、こうやって検索すれば説明が出てくるよ!」
知りたい事を簡単に調べる事が出来るとは、中々便利そうなものだ。興味深く見入った。
放課後、小梅どのと松乃どのの三人で教室を出たところ、前から一人の姫君がやって来た。その姫君は私の前に立ち塞がると、いきなり喧嘩腰で話し始めた。
「転校してきたばかりのあなたが、どうして二位なの?何か不正な手を使ったのではなくて?」
な、何だ?このお化けのような不細工な者は!目がぎょろっと大きく、化粧で更に大きく見せ、飛び立ちそうな羽のようにバサバサのまつ毛、茶色い髪の毛がくしゃくしゃになっておるではないか!
「ちょっと!かぐやちゃんは記憶力がいいの!変な言いがかりをつけないでくれる?」
あまりにも酷過ぎる容姿に後ずさりしそうになった私の代わりに、松乃どのが反論してくれた。
「記憶力がいいだけで、いきなり二位なんて信じられないわ。どんな卑怯な手を使ったの?」
「桜小路さん、自分が五位に落ちたからって、文句を言うのは筋違いだよ。」
後ろから不細工三人衆の声が聞こえてきた。
「あら、春樹さま♪そんなのではありませんわ。それよりも夏休みは何処かへいらっしゃるのかしら?また両家揃ってニースへバカンスにでも行きませんこと?」
あれ?声が変わったか?
桜小路どのとやらは、人によって声を変えれるのか…大したものだ。
「残念だが、夏休みはかぐやさん達と予定が入っているんだ。桜小路家だけで行っておいで。」
キッ!と睨まれた、と思ったらすぐに顔を変えて春樹どのに話し掛けておる。
この桜小路どのは、人によって顔まで変えれるのか…ますます大したものだ。
「春樹さま、最近あまり会えないから寂しいですわ。お忙しいようでしたら、国内の別荘にでも行きませんこと?」
「別にただの幼馴染なんだから、そこまでベッタリいなくてもいいでしょう。」
「桜小路さんも相変わらずトップに君臨してるじゃん♪そのゆる巻きも似合ってるよ!」
「そそ。俺達も負けてられないな!」
「まぁ♪冬馬さまと秋人さまにそうおっしゃって頂けて光栄ですわ♪」
何やらよく分からぬが、上機嫌で桜小路どのは去っていった。そして、春樹どのが申し訳なさそうに、謝ってきた。
「かぐやさん、すみません。気を悪くさせてしまいましたね。」
「いや、別に春樹どのが悪い訳ではないだろう。」
「そう言って貰えると、助かります。」
何だかよく分からぬが、人助けをしたようだ。