第17話・ヤキモチ
パーティーから数日後、春樹どのの家の車で忍者村というところへ出掛けた。
「オウ!忍者ハ本当ニイタノデスネ!」
異国では忍者が有名らしく、クロードどのは興奮気味のようだ。
「貸衣装で村内を回れますので、ちょっとしたコスプレが楽しめますよ。」
忍者村の入り口を潜ってすぐに、貸衣装屋へ向かい、姫君用の衣装を色々と見て回った。
う~ん…あまり物珍しい着物も無いな。しかも仕立てが悪いようだ。
お姫様と思われる着物を前に考え込んでしまった。これならば屋敷にある普段着の方が良いな…
ふと隣に目を向けると、忍者の衣装があった。これなら普段も着ないものであるし、面白いかもしれぬな。
忍者の衣装に着替えて外に出ると、春樹どのは袴姿に長めの羽織もの、クロードどのはちょんまげを結った殿さまに扮しておった。
「オウ!カグヤサン!忍者、素晴ラシイデス!」
「クロードどのは何故その衣装にしたのだ?」
「コレガ昔ノ日本ノ王族ト聞キマシタ。」
「微妙に違う気はするが…」
「春樹どのは珍しい羽織ものを着ておるな。」
「これは新撰組の衣装です。いかがですか?」
袴姿に刀を差した姿、頭には鉢巻きを付けた凛々しい姿に、返事もせずにぼ~っと見惚れてしまった。
「ふふ。かぐやさんの返事が頂けなくても、その赤くなった顔で答えが分かりました。」
「え?き、気のせいであろう!」
照れくささを誤魔化すように、村内の地図を広げた。
まずは忍者屋敷というものへ行く事となった。ここは珍しい仕掛けであふれておった。
「おお!この壁は回転するぞ!」
「カグヤサン!コッチノ絵ノ裏ハ、穴ガ開イテマス!」
「本当だ!行ってみるか!」
「ハイ!一緒ニ行キマショウ!」
クロードどのが先に穴の中へ入り、続けて同じ穴へ入ろうとすると、後ろから春樹どのに腕を掴まれた。
「どうしたのだ?」
「中は暗いですから、私が先に行きますね。」
「分かった。よろしく頼む。」
三人で暗い穴の中へ進んでいった。
「ン?手ガ大キイデスネ。」
「クロード、私の手を離してくれるかな。」
「オウ!ハル!イツノ間ニ!」
「ふふ。簡単には触れさせませんよ。」
…クロードどのは、殿方同士で手を繋ぐのが趣味なのか?
忍者屋敷を出て、江戸時代の日本を再現したとかいう街並みを散歩し、三人でお蕎麦屋へ入った。
ざる蕎麦を注文し、勢いよくズルズル!と音を立てて食べておったら、クロードどのが不思議な顔をしておった。
「クロード、どうかしたか?」
「コレハ、音ヲ立テテ食ベルモノデスカ?」
「蕎麦やラーメン、うどんなど日本の麺類は音を立てて食べるのが美味しいんだよ。」
「ソウカ…」
クロードどのは必至になってすすろうとしておったが、難しいようで最後にはむせておった。
「食ベルノ、難シイデス!」
「ふふ。国によって食べ方も違うのだな。」
「今度ハ私ノ国ノ食事ニオ誘イシマスヨ!」
「機会があれば頼む。」
「ヤッタネ!カグヤサント、デートノ約束デキマシタ!」
ん?デートとは確か二人きりであるよな。
「春樹どのも行くのではないのか?」
「私ハカグヤサンダケヲ誘イマシタネ。」
「すまぬがデートとやらであるのなら、無理だ。」
「オウ!何故デスカ?」
「池に落ちたトラウマがあるのでな。」
春樹どのは思いだしたように、笑っておった。
次の日、学食でお昼御飯を頂いておると、クロードどのがやって来た。
「カグヤサン、昨日ハアリガトウゴザイマシタ。」
「クロードどの、一人とは珍しいな。」
「ハイ。コレヲカグヤサンニ見セタクテ、飛ンデ来マシタ。」
クロードどのの手には珍しい本があった。
「それは何だ?」
「私ノ国ヲ紹介シタ本デス。」
「それは珍しそうだ。是非見せて頂こう。」
「ハイ、デハコチラヘ。」
クロードどのに促されて、席を移動した。
「コレガ王様ガ住ム宮殿デスネ。」
「ほう!立派な建物であるな。日本では見かけぬ建物ばかりだ。」
「私ハ王位継承権ガ第4位ナノデ、多分王様ニハナレマセンガ、ユーリシア王国ト、他ノ国トノ、掛橋ニナリタイデス。ソノ一歩トシテ、日本ニ留学シテキマシタ。」
「そうであったか。色々と異国に行き、見聞を広めるのも良い手段であるな。」
ちょっと変わった殿方であると思っておったが、しっかりと目的を持っておるようだ。
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急にいなくなったクロードを探しながら学食へ行くと、クロードとかぐやさんが楽しそうに本を見ていた。
「え?あの二人が…」
二人の後ろ姿をじっと見ていたら、冬馬が気遣うように話し掛けてきた。
「…春樹?」
「あ、あぁ。」
「クロードは留学してきてから、かぐやにべったりだな。」
「かなり気に入られてしまったようだ。」
「クロードは王族だろ?大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。一国を敵に回してもかぐやさんだけは譲る気は無いさ。」
そうは言ったものの、仲良さそうに一冊の本を覗き見る二人を見ていると、もやもやしてしまった。
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