第15話・異国の留学生
夏休みを堪能した後、大学が始まった。
最近はサークル勧誘の危険が無くなった構内を歩いておると、春樹どのと金色の髪の毛をした殿方がやって来た。
「春樹どの。」
「あ、かぐやさん。紹介しますね。こちら先日もお話しましたユーリシア王国からの留学生、クロードです。日本語も堪能ですよ。」
クロードと呼ばれた人物は、金色の髪の毛、透き通るような白い肌、大きく青い目をしておった。異国の者を真近で見るのは初めてだな。
「はじめまして、かぐやです。」
クロードどのは私の顔を覗き込み、いきなり声を上げた。
「“ワオ!オリエンタルビューティー!”」
ん?何と言っておるのだ?
と思ったら、クロードどのはいきなり私を抱き締め、頬に口付けをしてきた!
な、な、な!!
「クロード、かぐやさんから離れてくれるかな。」
春樹どのに無理やり剥がされたクロードどのは不満げに肩をすくめておる。
っていうか、今のは何だ?
そこへ秋人どのがやってきた。
「あれ?どうしたの?かぐやちゃん、固まってるよ!」
「クロードがハグの挨拶をしたんだ。」
「それでか♪」
「へ?今のは挨拶なのか?」
「あっ!かぐやちゃんが再起動した♪」
クロードどのは改めて私に向き直った。
「失礼シマシタ。日本ハ、ハグ&キスノ文化、無イデスネ。」
「あったとしても、かぐやさんには触れないでくださいね。」
春樹どのが釘を差してくれておる。これで一安心だな。
「オオ、ソレハ残念!」
がっかりする様子が大げさであるな…
「デスガ、パーティーニハ、オ誘イシテモ宜シイデスカ?」
「パーティー?」
「ハイ、私ノ歓迎パーティーガアリマス。」
パーティーか…ちらっと春樹どのを見た。
「丁度、私もお誘いしようと思っていました。私の両親が帰国して、クロードの歓迎パーティーを開くのです。」
「そうであったか。それならば参加してみるか。」
「デハ私ノパートナーデ決定デスネ!」
「私のお誘いを受けて頂きましたので、かぐやさんは私のパートナーですよ。」
「イエ、先ニ私ガ誘イマシタネ!」
二人ともにこやかであるが、何やら不穏な空気が流れておる気がするな…
するとクロードどのが、私に懇願するような目を向けてきた。
「カグヤサン、私ノパートナーデOKデスヨネ?」
「初めて参加するもの故、春樹どのと一緒が良い。」
「オウ!」
これまた、大げさな残念がり方だ。春樹どのは安心したように、にっこりしておる。
「デハ、次ノ時ニハ、私ノ誘イヲ受ケテ下サイネ。」
「パーティーとやらは、そんなにも多いものなのか?」
「ハイ、沢山アリマスネ!」
「機会があれば考えておこう。」
校舎の案内をするとのことで、春樹どの達とそこで別れた。
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初めては私と一緒がいい…
かぐやさんは無自覚かもしれないけど、初めて私を頼りたいと、一緒がいいとはっきり言ってくれた事に、嬉しくて顔が緩みそうだった。
ふふ。好きな人から頼って貰えるって、こんなにも嬉しいものなんだな。
「ハル?何カ良イ事アリマシタカ?」
「え?」
「嬉シソウナ顔シテマスヨ。」
「いや、気にしないでくれ。」
思いっきり表情に出ていたか…急いで緩んだ顔を引き締めた。
「カグヤサンハ貴方ノ恋人デスカ?」
「今は違うけど、いずれはそうなるよ。」
「デハマダ間ニ合ウネ♪」
まずいな…クロードはかぐやさんを気に入ったようだ。ここは本気にならないよう常に釘を差しておくか。
「クロード、かぐやさんだけは譲れないから、そのつもりで。」
「オオ!笑顔ガ怖イデスヨ!ハル。」
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数日後、屋敷で前期の試験勉強をしておったところ、春樹どのから電話がかかってきた。
『かぐやさん、今、大丈夫ですか?』
「大丈夫だ。何かあったのか?」
『お願いがあるのですが、最近クロードが一緒で、かぐやさんとゆっくりお話が出来ないので、電話にしてみました。』
「ふふ。それもそうだな。」
『実は今度のパーティーで、何か日本文化を披露したいと父が言っておりまして…かぐやさんが以前、舞をされるとお聞きしていたのを思い出したのですが、是非パーティーで舞って頂けないでしょうか。』
「舞の衣装や楽団を準備するには時間が掛る故、少々難しいものがあるな。」
『そうでしたか…残念です。私もかぐやさんが美しく舞い踊る姿を見て見たかったのですが。』
う、美しいって…
一瞬で顔に血が上ったが、顔を見られぬ電話で助かった…
「そ、それはまたの機会ということにしておこう。」
『ふふ。今、かぐやさんの赤くなった顔が見れないのが残念です。』
「何故分かったのだ?春樹どのは超能力者か?」
『かぐやさん限定ですけどね。』
しかし、いつも世話になっておる春樹どのの頼みだ。何か役に立てることは無いであろうか…
部屋を見渡すと、片隅に置いてある琴が目に入った。
「そうだ。琴の演奏はいかがかな?それなら屋敷にある故、準備は必要ないぞ。」
『それは是非お願いします。きっと父も喜びます。』
当日の為に私のドレスを用意しておったらしいが、着物に変更となった。春樹どのも私に合わせて着物に変更するそうだ。
ふふ、パーティーがちょっと楽しみになってきたな。早速、試験勉強の息抜きと称して、琴の練習を始めた。
数日後、大学で前期の試験があった。高校の時と違い、講義内容についての小論文形式が多く、私にとってはとても書きやすいものであった。
難なく試験を終え、パーティー当日を迎えた。