第14話・残された二人
皆が、それぞれ寝室へ行き、春樹どのと私が玄関に残された。
とりあえず、現状を整理してみようか…
冬馬どのと小梅どの、秋人どのと松乃どの、それぞれが寝室へ入った。残りは一部屋。
え?え?え~~~!?
もしや、残り一部屋は、私と春樹どのなのか~?!
「どうかしましたか?かぐやさん。顔が百面相になってますよ。」
「き、気にするな!」
「ふふ。私達はどうしましょうか。」
「それを私に聞くな!」
春樹どのに遊ばれておる気がする…
「私はリビングのソファーで寝ますから、寝室はかぐやさんが使って下さい。」
「いや、ソファーはきついであろう。私の方が小さいからソファーは私が使うぞ。」
「女性をそんなところで寝かせる訳にはいきません。」
「春樹どのこそ、運転で疲れておるであろう。」
「じゃぁ、二人で寝室を使いますか?」
「な、な!何て事を言うのだ!婚姻の約束もしておらぬ殿方と同じ寝所など使える筈がなかろう!」
「ふふ。ではとりあえず、玄関に立っているのも何なので、リビングで冷たいものでも飲みましょうか。」
「そ、そうだな。」
春樹どのは笑いながら、リビングへ入っていった。
これは、完全に遊ばれておるな…
二人でソファーに座り、春樹どのが入れてくれたお茶を飲んで、一息ついた。
「ふう。色々と大変な一日であったな。」
「そうですね。でも久しぶりに秋人と冬馬に出会った頃を思い出して、楽しかったですよ。」
「しかし、バーベキューの時に思ったが、春樹どのがおらぬと私は食事にもありつけれぬな。」
「もっと頼ってくれてもいいですよ。」
「しかし、迷惑ばかり掛けておる。それは申し訳ないぞ。」
「迷惑なんて思っていませんから。私がいないと生きていけないくらい頼ってくださいね。」
…え?
何か、深読みしたくなるような言葉であった。
い、いや、春樹どのの事だ。特に意味は無いであろう…そう自分に言い聞かせた。
ふと、テレビの上を見ると、変な棒が取り付けられておるのを見つけた。
「あの棒は何だ?」
「あれは、ゲームのコントローラーを感知するパーツです。Hiiがありますので、やってみますか?」
「それはどんなものなのだ?」
「簡単なゲームです。色々なスポーツが出来るソフトがありますね。それをやってみましょう。」
春樹どのは慣れた手つきで、ゲームのセットをしていった。何やらコントローラーというものを持たされて、テレビの前に立たされた。とりあえずテニスをやるようだ。
「いいですか?コントローラーをテレビに向けてまずはセットして下さい。」
「こうか?」
「テレビの中の赤い帽子のプレーヤーが、かぐやさんになります。テニスと同じようにコントローラーを振ってみてください。」
言われるまま、コントローラーを振ってみた。
「おお!テレビの中の人物が同じ動きをしておるぞ!」
「慣れたら対戦をしてみましょうね。」
使い慣れてきた頃に、勝負を挑んでみた。
「あ~!また負けた!」
目下、14連敗中である。
「ふふ。私の方が慣れていますからね。そう簡単には勝たせませんよ。」
「もう一回だ!」
「でしたら、次は何か賭けますか?」
「何を賭けるのだ?」
「負けた方が、勝った方の願い事を聞くのはどうでしょう?ゲームはかぐやさんが選んで頂いて大丈夫ですよ。」
「その挑戦、受けて立とう!ボーリングで勝負だ!」
ことごとく連敗し、気付けば明け方になっておった。
「ふう、疲れた。なかなかゲームとやらも楽しいものであるな。」
心地よい疲れを感じ、ソファーに深く沈み込んだ。
「ふふ。そろそろ諦めてくださいね。」
「完敗であるな。して、春樹どのの願い事とは何だ?」
「かぐやさんの膝を貸してください。」
「膝?」
言い終わるや否や、春樹どのは私の足を枕にして、ごろんと横になった。
「え?え?」
「ふふ。膝枕ゲットです。」
「こ、こんな枕など寝心地が悪いであろう!」
「いいえ、最高に幸せです。」
私の足に頭を乗せて嬉しそうに私の顔を見る春樹どのが、可愛いと感じてしまった。まるで幼子のように私に甘えてくれておるようだ。自然と微笑み返し、春樹どのの頭を撫でた。
「かぐやさんの手、とても気持ちいいです。こんな幸せな気分になれるとは…」
安心したように目を瞑った春樹どのの頭をずっと撫でておったが、そのうち私まで眠くなり、撫でながら夢の世界へ入ってしまった。
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あれ?かぐやさんの手が止まった?
ふと目を開けると、かぐやさんは寝てしまっていた。
このままではゆっくりと休んで貰えないな…
かぐやさんに毛布を掛けてすぐ隣に座りなおし、頭を私の肩にもたれ掛けさせた。無造作に投げ出されたかぐやさんの手をそっと握った。
この手がさっきまで私の頭を撫でてくれていたのか…
そう思うと愛おしさが一層込み上げてきた。
「おやすみなさい、かぐやさん…」
そう呟いて、深い眠りに入った。
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