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第8話・冬馬の決戦

 小梅どのと冬馬どのが学食に顔を出さぬ日が続いておったある日、道場から出た道に春樹どのが待っておった。


「どうしたのだ?こんなところまで。」

「ちょっとありまして。それより送りますので、爺やさんに断りの連絡を入れて貰えますか?」

「分かった。」


スマホを取り出して、爺やに迎えは不要との連絡を入れた。私から少し遅れて、冬馬どのが道場から出てきた。


「春樹、すまないな。」

「これくらい喜んで。」

「じゃぁ、後はよろしく。」


短い会話の後、軽く手を挙げて冬馬どのは去っていった。


「何かあったのか?」

「さあ。これから何かあるかもしれませんね。では、帰りましょうか。」


車中、冬馬どのから道場がある日は、毎回私を迎えに来て欲しいと頼まれた事を聞かされたれた。


「しかし、毎回は申し訳無いぞ。」

「でも、リムジンはあの辺りの道には入れませんよね?私の車なら大丈夫ですし、他ならぬ冬馬の為ですから。」

「冬馬どのの?」


春樹どのは笑うだけで、詳しくは教えてくれなかった。しかし、楽しそうなところをみると、悪いことでは無いのであろう。そのまま屋敷まで送ってもらった。


----------


 春樹にかぐやの迎えをお願いし、約束どおり来て貰った。

心の中で感謝しつつ、俺は意気込んで決戦場へと足を運んだ。いつもかぐやのリムジンを待っている場所だ。今日は俺一人で、小梅と先輩が通るのを待っていた。


暫くすると、二人が並んで歩く姿が見え、俺に気付いた先輩が不思議そうに話し掛けてきた。


「あれ?今日は一人?」

「かぐやは別で迎えに来てもらった。あんたに話がある。」


「ちょっと、冬馬くん。どういうつもり?」

「小梅は黙ってろ!」


更に反論しようとする小梅を、先輩が片腕を広げて制した。


「話なら聞こう。」

「小梅を返してもらおう。」

「元々、彼氏でもないし、返すというのは可笑しいと思うけど。」

「これからなるんだよ!」


「有栖川さんを散々振り回しておいて、今更じゃぁないか?」

「今更でも何でも、小梅は絶対に渡さない!」

「君に有栖川さんを幸せに出来るとは思えないよ。そんな奴に簡単にどうぞって言えると思うか?」

「必ずとは言えない。でも全力で守っていく事は誓える!だから、頼む。小梅を返してくれ!」


ガバッ!と頭を下げた。初めて人に頭を下げた気がする。こんな奴に頭を下げる必要は無かったのかもしれないけど、自然とそうしていた。


「…だそうだよ、有栖川さん。」


先輩が振り返った時、小梅は涙ぐんでいた。


「冬馬くん…」


「じゃぁ、駅まで送る役目は終了かな。お幸せにね。」


先輩は軽く手を挙げて帰っていった。

小梅の手を引き、近くの公園のベンチに座った。


「さっきは、カッコ悪いところ見せちゃったな。」

「ううん。返してくれって頭を下げた冬馬くん、凄くカッコ良かったよ。」

「そうか…」


うっ!緊張してきた!さっきは勢いがあったけど、改めて考えると、かなり恥ずかしいこと言ってたよな…

自分を落ち着かせるよう、一つ咳払いをして、小梅に向き直った。


「で、さっき言ったことなんだけど、改めて言うから。」

「…」

「今回の事があって、やっと自分の気持ちがはっきりと分かったんだ。俺は小梅が好きだ。俺の彼女になってくれ。」


小梅は、ぽろぽろと涙を流し始めた。


「それは、嬉し泣きでいいのか?」

「…うん。」

「良かった…」


恐る恐る小梅に手を伸ばして、抱き締めてみた。俺の腕の中にすっぽりと入ってしまった。

こんなに小さかったんだ…

小さい体で頑張っている小梅を、愛しく感じた。


「もう一度誓うよ。小梅を全力で守っていくから。」

「…ありがとう。冬馬くん。」


月明かりの下、暫くそのまま抱き締めていた。


----------


 次の日、学食で松乃どのと私の二人に、嬉しい報告があった。


「私、冬馬くんと付き合うことになりました!」

「おお!良かったな!」

「小梅ちゃん、おめでとう♪」

「二人ともありがとう!」


「で、どっちから言ったの?」


松乃どのが身を乗り出して聞いておる。


「冬馬くんが、好きだ、全力で守るって言ってくれたの。」


顔を赤らめながら報告する小梅どのは、本当に可愛らしいな。


「それからそれから?」

「私、嬉しくて泣いちゃって…冬馬くんが落ち着くまで抱き締めてくれたの。」

「へぇ~!冬馬やるじゃん♪」


松乃どの、絶賛であるな。


「それから?」

「それから、駅まで一緒に帰ったよ。」

「へ?それだけ?」

「うん。」

「えっと、キスはしなかったの?」

「…うん。」

「前言撤回!冬馬ヘタレ!」


松乃どの、罵倒であるな。


そこへ、三人衆がやってきた。それぞれ報告を受けておるようだ。

テーブルの向い側へ座るとすぐ、秋人どのが口を開いた。


「二人とも、おめでとう♪良かったね!」

「そう、改めて言われると恥ずかしいんだが…」


冬馬どのも顔を赤らめておる。初々しい幸せが伝わってくるようだ。


「残りは春樹とかぐやちゃんだね♪」

「秋人どの、残りとは何だ。私も春樹どのには幸せになってもらいたいと思っておるぞ。私はその次で良い。」

「えっと~、ちょっと意味が違うかな♪」

「どう違うのか?」

「まぁ、それは追々ってことで♪」


何やら言葉を濁された気がする…


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