第7話・吉田先輩の作戦
週末、新しい夏服を買いに春樹どのと出掛けた。モデルでもある秋人どのに服の見繕いを頼んでおったところ、春樹どのが同行を買って出てくれたのだ。
「休みの日まで付き合わせてすまないな。制服で無くなった故、洋服が足りなくなってきたのだ。」
「大学は私服ですからね。それに、かぐやさんと会えるなら、いつでも時間を空けますよ。」
「ま、またそのようなことを…」
「ふふ。かぐやさんの赤くなった顔を見るのが趣味みたいなものです。」
「とんだ悪趣味だな…」
「それに、他の男性が選んだ服なんて着て欲しくないですしね。」
「ん?それはどういう意味なのだ?」
「深い意味はありませんよ。」
そう言いながらも、意味深に微笑まれた。春樹どのは時々、理解が難しい事を言うな。
ショッピングモールに着いて、服や靴を色々と選び始めた。
「この靴はどうであろうか。」
「大学ではもう少し動きやすい方が良いかもしれませんね。こちらはどうですか?」
「それもなかなかいいな。履きやすそうだ。」
「このバッグは今年の流行りのようです。テキストもたっぷり入りそうなので、重宝しそうですよ。」
「春樹どのは何でも詳しいな。」
「一応経済を学んでいますから、どんな流行りもチェックするようにしています。」
「なるほどな。」
春樹どのは私の服や靴、バッグを沢山選んでくれて、中々満足する買い物が出来た。買い物袋が大量になってしまったが、春樹どのがほとんど持ってくれた。
「荷物を持って貰って、すまないな。」
「これくらい当然ですよ。それより、全部持ちきれなくてすみません。」
「ふふ。少し買いすぎたようだ。」
「毎日着るものですからね。秋冬物もお付き合いしますよ。」
休憩がてらカフェに入り、冷たいジュースを飲みながら先日の小梅どのの話をした。
「先日、小梅どのが盛大なため息をついておってな。原因は冬馬どののことらしい。」
「冬馬が何かしましたか?」
「それが、何も無いとのことでため息をついておったのだ。」
「そういうことですか。」
「松乃どのが、自分から告白するように進言したのだが、今の関係を壊したくないと言っておってな。」
「冬馬も似たようなことを言っていましたね。お互い友達以上恋人未満ってところでしょうか。」
「何やら難しいことを言うな。」
「お互いが意識しているけど、まだ恋人まではいかない状態のことです。」
「分かるような、分からぬような…」
「まぁ、なるようにしかならないので、見守りましょう。」
「そうだな。」
皆には幸せになってもらいたいのものだが、中々うまくいかぬようだ。
それから大きな動きがあったのは、梅雨に入ってからのことだ。
いつもどおり道場の帰り、冬馬どのと一緒に爺やのリムジンを待っておった。
「朝から雨ばっかりで、うっとおしいな。」
「まぁ、恵みの雨となる場所もあるし、仕方ないであろう。」
「そうなんだけどさ。」
冬馬どのと二人でそれぞれ傘を差して立っておったら、小梅どのと吉田先輩どのが通りかかった。
「お?あれは小梅どのではないか?」
私の声で後ろを振り向いた冬馬どのが、すかさず反応した。
「何で、相合傘?」
相合傘?スマホで調べてみるか。
と言っている場合ではない!冬馬どのが吉田先輩どのに向かっていったのだ!
「おい!何で二人で同じ傘を使ってるんだよ!朝から雨降ってただろ!」
「冬馬くん、吉田先輩の傘がこ…」
小梅どのが何かを言いかけたところで、吉田先輩どのが急に小梅どのの肩を抱き寄せた!
「どうしたの?冬馬くんだっけ?君は有栖川さんの彼氏ではないよね?」
「…そうだけど。」
「なら構わないよね。有栖川さん行こうか。電車の時間が間に合わないよ。」
小梅どのは冬馬どのを時々振り返っておったが、吉田先輩どのに肩を押されて連れて行かれてしまった。
「くそっ!」
吉田先輩どのは、小梅どのに近づいても気にするなと言っておったし、ここは黙っておくか。それよりも彼氏ではないと言われた時、とどめを刺されたように傷ついた顔をした小梅どのの方が気になった。
二人の背中を鋭い目で追う冬馬どのには言葉を掛けず、爺やが来るまで黙って過ごした。
翌日、学食で冬馬どのを省く5人で食べておった時、遅れてきた冬馬どのがいきなり小梅どのの肩を掴んだ。
「おい!小梅!昨日のはどういうつもりだ!」
「そんなの、彼氏でもない冬馬くんには関係ないでしょ!」
おお!珍しく小梅どのが反論しておる!他の皆は、あっけにとられておる状態だ。
小梅どのは、さっと席を立ってしまった。
「もういい!ごちそうさま!」
「勝手にしろ!」
冬馬どのも何処かへ行ってしまった。
「何があったんだ?あの二人。」
残った皆に、今までの経緯を説明した。
「なるほどね。吉田先輩いい仕事するね~♪」
残った皆は、黙って事を見守ることで話がついた。