第6話・今の関係
翌週、道場の帰り、いつもどおり冬馬どのと一緒に爺やを待っておったら、小梅どのと吉田先輩どのが歩いてきた。
「あ、かぐやちゃん!」
「小梅どの、今バイトの帰りか?」
「そうなの。かぐやちゃんは道場の帰り?」
「そうだ。今は爺やを待っておるところだ。」
冬馬どのは一言も喋らず、明後日の方向を見ておった。気になった私は一つの提案をしてみた。
「冬馬どの、私のことはいいから、小梅どのを送ってくれないか。」
「かぐや、また色々と絡まれるぞ。」
「すぐに爺やが来るだろうから、大丈夫だ。」
小梅どのはチラチラと冬馬どのを見ておるが、冬馬どのは明後日の方向を見ておる。
これは、私には難しいな…
そう思っておったら、吉田先輩どのが私の付き添いを買って出てくれた。
「それなら俺が残っておくよ。有栖川さん、電車の時間が近いだろ?彼と一緒に帰ったら?」
やっと冬馬どのが反応した。
「それなら、かぐやをよろしくお願いします。小梅、行くぞ!」
「うん。かぐやちゃん、またね!」
「気を付けてな。」
手を振りながら二人を見送った。
二人の姿が見えなくなってから、吉田先輩どのが話し掛けてきた。
「あの二人は付きあってるの?」
「まだのようだ。お互い好意を抱いておるようなのだが…」
「あの彼はたしかキング3の一人だったよね。」
「そのように呼ばれておるようだな。」
「モテ過ぎて、自分が告白し慣れてないんだろうな…」
「ん?今、何と言ったのか?」
「何でもない。それより、俺が有栖川さんに近づいても気にしないでね。俺にはちゃんと彼女いるからさ。それに、有栖川さんは妹に似ていて、ほっとけないんだ。」
「そうなのだな。承知した。」
その後すぐ、爺やのリムジンが到着した。
「かぐやさんだっけ?凄い車に乗ってるんだね!」
「しかし、道場の前の道には入れぬ故、若干不便でもあるのだ。」
「なるほどね。それじゃぁ気をつけて帰ってね。」
「吉田先輩どのもお気をつけて。」
何だか、大人の落ち着きがあり、悪くない殿方であったな。
それからほぼ毎日お昼時になると吉田先輩どのは、小梅どのに話し掛けてきた。
「有栖川さん、この前渡した学習指導要綱だけど、内容は分かった?」
「ちょっと分かりにくいところがあって、今度教えて貰えますか?」
「今持ってるんなら、今でもいいよ。」
「あ…今はちょっと…」
チラッと冬馬どのを見ておるが、冬馬どのは黙々と定食を食べておる。
「やっぱり、今お願いします。」
「分かった。じゃぁそっちのテーブルに移動しようか。」
「はい。よろしくお願いします。」
小梅どのはテーブルを移っていき、冬馬どの以外の4人で深いため息をついた。
はぁ…三人衆がいなくなったテーブルに戻ってきた小梅どのが、深いため息をついた。
「小梅ちゃん、どうしたの?」
「かぐやちゃん、松乃ちゃん、お疲れ様。」
「一番疲れてるのは小梅ちゃんに見えるけど、何かあった?」
「何かあった方がいいかな。何も無いから悩むってところ…」
松乃どのと私で顔を見合わせた。
「もしかして冬馬のこと?」
「うん。高校卒業の時には、もしかしてって期待もしたんだけど、やっぱりただの友達としか思われてないんだろうなって考えちゃって…」
「なら思い切って、小梅ちゃんから告白すればいいじゃん♪」
「ん…でもみんなで話が出来なくなっちゃったら寂しいから、今の関係を壊したくないっていう一面もあるんだよね。」
「なるほどね。」
色々と難しいものなのだな。
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最近、小梅に寄ってくる先輩がうっとおしい。
居心地のいい6人の空間を侵されるようで、ムッとしてしまった。
くそっ!小梅を取られてたまるか!
ん?小梅を取られる?
俺は6人の空間がいいのか?小梅がいいのか?俺自身もよく分からなくなってきた…
はぁ…歩きながら盛大なため息をついていたら、秋人と春樹に見られてしまった。
「どうした?冬馬、そんなため息をついて。」
「俺にも悩み事くらいあるさ。」
「小梅ちゃんのこと?」
「まぁな。」
「そんなに悩むくらいなら、早く告白しちゃえよ♪」
「それが、自分でも良く分からないんだよな…」
秋人と春樹は顔を見合わせた。
「分からないって何が?」
「最近小梅に近づく先輩がうっとおしく感じるんだけど、でも6人でいると気を遣わなくて済むから居心地いいし、この関係を壊したくないというか…」
「なるほどね。」
「難しいところだな。」
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