表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/169

第5話・ドライブの帰り道

 「かぐやさん、疲れましたか?」


帰りの車中、黙り込んだ私の顔を、春樹どのが心配そうに覗き込んできた。


「へ?い、いや大丈夫だ。」

「疲れたら遠慮なく寝てくださいね。」

「そういう春樹どのはずっと運転して、疲れないのか?」

「お気遣いありがとうございます。かぐやさんと一緒にいると癒されますので、大丈夫ですよ。」

「そ、そうか…」


また、春樹どのはすぐに顔が赤くなるようなことを言う…

赤くなったと言われるのも癪だった故、寝たふりをして窓の外を眺めておった。

そのうち本当に眠くなり、うとうとしてしまった。


----------


 かぐやさん、疲れて寝てしまったかな。そうだ、ちょっと寄り道をしよう。

車を走らせて、一人になりたい時によく行く高台の公園へハンドルを切った。


公園に着いて駐車場に車を停めた。かぐやさんを見ると、まだ寝ているようだった。


「…すみません。ちょっと我慢出来ません。」


寝ているかぐやさんに、そっと2回目のキスをした。


一歩ずつ、少しずつ、二人の間が縮まっていきますように…

そんな願いを秘めながら、一緒に鳴らした恋人の鐘の音を思い出していた。


----------


…ん。

目が覚めたら、知らない場所であった。


「ここは何処だ?」


外を見ると、春樹どのが車のボンネットに寄り掛かっておった。ドアを開けて春樹どのの隣へ歩み寄った時、目にキラキラ輝く夜景が飛び込んできた。


「おお!凄く綺麗だな!」

「かぐやさん、目が覚めましたか?」

「寝てしまって、すまないな。」

「いいえ、疲れさせてすみません。」


「ところでここは何処なのだ?」

「今、見える街は私達が住んでいる街なのですよ。」

「そうなのか?こんなにも綺麗だったのだな。」


「ここは何か考えたい時や、逆に頭を空っぽにしたい時に来る、秘密の場所なのです。」

「そうなのか。だが、私が知ってしまっては秘密の場所ではなくなったな。」

「ふふ。かぐやさんは特別ですよ。」


二人並んでボンネットに寄り掛かりながら、暫く光に溢れる街を眺めた。



 ゴールデンウィーク明け、皆でお昼御飯を食べておったら、小梅どのから報告があった。


「かぐやちゃん、バイト先が見つかった!」

「それは良かったな。今度はどんな仕事なのだ?」

「子供達向けの塾だよ!私は自習室で分からないところを個別に教えてあげる仕事なんだ!」

「そうか。小梅どのにはぴったりだな。」


「そうだ!まだ空きがあるんだけど、冬馬くん一緒にどう?同じ教育学部だし、就職の時も役に立つかもよ!」

「俺はいいや。子供苦手だし。」

「そうなんだ…。」


心なしか小梅どのがガッカリしておる。


「小梅ちゃん、いつから行くの?」


流石は松乃どの、すぐに空気を変えたな。


「早速、来週から来てくれって言われてるんだ。」

「そうなんだ!頑張ってね♪」

「ありがとう、松乃ちゃん!」



 翌週、道場からの帰り、冬馬どのと一緒に爺やのリムジンが来るのを待っておった。

あれ?道の反対側を歩いておるのは小梅どのではないか?

声を掛けようとして、ハッ!とした。見た事のない殿方が一緒に歩いておったのだ!


これは、冬馬どのに見せてはいけない!咄嗟にそう思い、冬馬どのの気を引こうと話し掛けた。


「と、冬馬どの!次の昇段試験はいつだったかな。」

「来月だよ。よく覚えておけよ。」

「そうであったな。うっかりしておった。」


チラッと道の反対側を見ると、小梅どの達の姿は見えなかった。

ふう。何とかやり過ごせたか…


爺やのリムジンが着き、冬馬どのは駅へ向って帰っていった。


翌日、一緒にいた殿方のことを聞きたかったが、皆が揃っての昼食だった故、小梅どのに聞けずにおった。


「有栖川さん、こんにちは。」


小梅どのの後ろから一人の殿方が話し掛けてきた。

って、昨夜の殿方ではないか!目は細めだが小さくは無い、背が高く爽やかな印象だ。最近覚えた言葉で言えば、イケメンという奴であろうか。


「あっ、吉田先輩。」

「昨日は無事に帰れた?」

「はい。すぐに電車来ましたので、大丈夫でした。」

「そう。じゃぁまた塾でね。お友達もお邪魔しました。」


爽やかな笑顔で私達にも挨拶をして、去っていった。


「小梅どの、今のは誰なのだ?」

「塾のバイト先で一緒になった吉田先輩だよ。私の教育係で色々と教えて貰っているんだ。」

「そうか。」


私も道場の後輩へ指導することはよくある。先輩ということは、そんなに心配することもなかろう。

冬馬どのも気にしておる様子は無さそうだ。


午後からの講義に向けて、小梅どの、松乃どの、私の三人は、先に学食を後にした。


----------


かぐや達を目線で見送った後、秋人が俺を煽り始めた。


「冬馬、お前まだ小梅ちゃんに告白してないのか?」

「べ、別に告白なんてしなくてもいいだろう。いい仲間だ。」

「女心が分かってないな~!そんなことじゃぁ、逃げられるよ!」

「小梅にも選ぶ権利があるしな。」

「あの先輩に取られちゃうのも、時間の問題だね~♪」


そんなこと言われても、ただの先輩だろう。6人でいる事が居心地良かった俺は、その時、本当にそう思っていた。


----------


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ