第4話・恋人達の鐘
ゴールデンウィーク前、学食へ行くと三人衆が固まって話をしておった。
「いいな~♪僕のところマンションで停めれる台数限られてるから買えないんだよな~!」
「俺にも運転させろよ!」
「駄目だよ。私とかぐやさん専用なんだ。」
ん?私の名前が出たか?
「何が私専用なのだ?」
「うわっ!」
三人衆の後ろから話し掛けたら、ビクッ!とされた。
「そこまで驚かなくても良いであろう。」
「ごめんごめん!いきなりだったからさ♪春樹の車の話をしてたんだ!」
「ほう。春樹どの専用の車が届いたのか?」
「はい。ゴールデンウィークのドライブ、楽しみにしていますね。」
「分かった。だが、何処へ行くのだ?」
「ふふ、それは当日までのお楽しみです。」
春樹どのが嬉しそうな顔をしておるので、それ以上聞くのを止めた。ドライブとはそんなに楽しいものなのであろうか。
ゴールデンウィークに入り、春樹どのと約束をした日となった。
屋敷の前に着いた車は、見たこともない車であった。
「これは、珍しい車だな。席が2つしか無いのは初めてみたぞ。」
「実は、屋根も開くのですよ。」
春樹どのがポチッとボタンを押すと、屋根が後ろへと片付けられていった。
「おお!凄い仕組みだ!面白いな!」
「喜んで頂けて光栄です。では早速行きましょうか。」
助手席のドアを開けて、私に乗るよう促した。春樹どのの運転は静かで心地よかった。
「かぐやさん、寒くなったらすぐに言って下さいね。」
「大丈夫だ。とても風が気持ち良いぞ。」
爽やかな風を感じながら過ごしておると、海の香りがしてきた。
「覚えていますか?かぐやさんが転校してきたばかりの頃に行った海岸ですよ。」
「そういえば、あの時は寝てばかりで迷惑を掛けたな。」
私の言葉を聞いて、春樹どのは何故だか笑いを堪えておった。
「いいえ、とても楽しかったですよ。」
「そうか?海で泳いでみたかったが、それも叶わなかったな。」
「ではまた今度、一緒に行きましょうね。」
暫く海岸線を走り、交差点で左に曲がって小さな橋を渡った。小島に行くようだ。
「この小島には何かあるのか?」
「小島にある山の頂上からの眺めがとても綺麗なので、是非お見せしたかったのです。」
「そうか。それは楽しみだ。」
駐車場へ車を停めて暫く山道を歩くと、開けた展望台へ着いた。
「おお!海がきらきらしておるぞ!とても眺めが良いな!海の向こうの異国まで見えそうだ!」
「ふふ、本当にかぐやさんの発想は面白いですね。」
カーン、カーン。
ん?
何処からか、鐘の音が聞こえてきた。きょろきょろ見渡しておったら、展望台の端に人だかりと鐘を見つけた。
「あそこに鐘があるぞ。あれは何だ?」
「誰でも鳴らせますよ。一緒に鳴らしてみますか?」
「そうしてみるか。」
鐘の傍まで行き、列に並んで鳴らす順番を待った。しかし、周りは殿方と姫君の組ばかりであるな。
私達の順番になり、春樹どのと一緒に紐を引っ張って鐘を鳴らした。
カーン、カーン。
「そういえば、この鐘を鳴らして何の意味があるのだ?」
「さあ。でも、一つかぐやさんとの思い出が増えましたね。」
「まぁそうだな。」
深く考える事でも無さそうであるな。
展望台から再び山道を歩き、駐車場付近まで戻ってきた。
「お昼御飯を食べましょうか。ここは海の幸がとても新鮮で美味しいですよ。」
「そうか。それでは寿司でも頂くとするか。」
「お勧めの海鮮丼があるのですが、それでも宜しいですか。」
「ならば、それを頂こう。」
春樹どのは狭く古びた食堂に入っていった。
だが、溢れんばかりの海鮮が乗った丼は想像以上に美味であった。
「想像以上に美味しいぞ!魚本来の旨味がしっかりと味わえるな!」
「ふふ。喜んで頂けて良かったです。」
「これもカフェになるのか?そろそろサークル活動の報告をせねばなるまい。」
「ちょっと違いますね。後で海沿いのオープンテラスのあるカフェで食後のコーヒーを頂きましょうね。」
丼を頂いた後、春樹どのがお手洗いへ行ったので、そのまま席に座って待っておった。その時、後ろ側に座ってきた姫君達の声が聞こえてきた。
「はぁ…恋人達の鐘鳴らしたかったな~。」
「何言ってんの!あれは、カップルで鳴らすことに意味があるじゃん!女同士なんて寂しいだけだよ。」
「あ~!早く彼氏見つけて、一緒に鐘鳴らしたい!」
「まぁね、鳴らしたカップルは二人で一生幸せになれるっていうジンクスがあるもんね♪」
そ、そ、そうなのか?春樹どのと鳴らしてしまったぞ!どうなるのだ?
いや、そもそも、このジンクスとやらを知っておるのか?
そこへ、春樹どのが席へ戻ってきた。
「どうしました?かぐやさん。顔が少し赤いようですが。」
「あの…春樹どのは、鐘の…」
「鐘がどうしましたか?」
「いや、何でもない!忘れてくれ!」
聞ける訳が無いであろう!一緒に恋人達の鐘を鳴らしたとか、ジンクスを知っておるかとか!
知らないで鳴らした可能性もあるやもしれぬし、ここは黙って胸の内に秘めておこう。
いや、しかし…
帰りの車中は、色々考え過ぎて無口になってしまった。