第3話・サプライズパーティー
とうとう私の誕生日となってしまった。
18日午後6時、行くのを少し躊躇したが、ここは男らしく正面からぶつかった方がいいだろうと思い直した。
意を決して指定された部屋のインターホンを鳴らすと、ガチャッ!と少しだけドアが開いて、冬馬の声が聞こえた。
「入れよ。」
「ああ…」
中は薄暗いようだ。大きく息を吐き出して、一歩踏み出した。
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ピンポーン。
「来たか?」
「たぶんな。みんなクラッカーの用意はいいか?」
「OK♪」
ガチャッ!とドアを開ける音がした。暗い部屋の中、こちらに寄って来る足音が聞こえた。
「ドキドキするな。」
「しっ!」
「すまぬ…」
足音が止まった。春樹どのは暗い部屋に戸惑っているようだ。
「おい。冬馬、何処にいる。」
せ~の!
「お誕生日おめでとう~♪」
部屋の電気が付いたと同時に、パンパン!と沢山のクラッカーが鳴り響いた!
「春樹どの、お誕生日おめでとうなのだ!」
春樹どのはポカンと口を開けて皆を見渡している。
「…え?え?もしかしてサプライズ?」
「ふふ。成功したな!」
皆でハイタッチをした。
春樹どのは何故かしゃがみ込んで、良かった~!と安心しておる。
「何が良かったのだ?」
「いえ、こちらの話です。みんなありがとう。」
「早くこちらへ。座る場所も決まっておるぞ!」
一人ゆったり座れるソファーを差し、そこへ春樹どのを座らせた。
「かぐやちゃんがパーティーを考えたんだよ♪」
秋人どのが悪戯な笑顔を浮かべて、計画をバラしてしまった。
「秋人どの!考えたのは皆であろう!」
「でも言い出したのはかぐやちゃんじゃん♪」
「そうだが…」
こんなことをバラされるのは気恥ずかしいものだ…照れを隠すように、春樹どのから顔を背けるよう髪の毛をいじった。
秋人どのと松乃どのが手配してくれた料理と、小梅どのが作ったケーキを頂いておった時、今度は松乃どのにバラされてしまった。
「かぐやちゃん、クラッカーは絶対必要だって言って、パーティーの準備を張り切ってたもんね~♪」
「それはパーティーの始まりの合図だと秋人どのが以前言っておったし、クリスマスの時には私だけ出来なかった故、やってみたかっただけなのだ。」
「かぐや、意外と可愛いところあるんだな。プレゼントも一生懸命探してたしな。」
「冬馬どのまで…」
「かぐやちゃん、嬉しそうだったもんね。」
むむ!皆でバラしおって!
「いつも世話になっておる故、何かしたかっただけなのだ!悪いか!」
「いいえ、何も悪くありませんよ。むしろそのお気持ちが嬉しいです。」
春樹どのは嬉しそうに微笑んでいた。
「かぐやちゃん、ツンデレ?」
「それっぽいな。」
「小梅どの、ツンデレとは何だ?」
「ううん。気にしないで!」
屋敷に帰ったら、スマホで調べてみよう。
一通り騒ぎ終わった頃、春樹どのがベランダへ出た。何やら手すりに手をついて顔を埋めておるようだ。心配になり、私もベランダへ出て声を掛けてみた。
「春樹どの、気分でも悪いのか?」
「いえ…自分の器の小ささを絶賛反省中です。」
「ん?そんな反省するような事あったか?」
「自分の中の問題なので気にしないでください。」
「そうか…」
春樹どのでも落ち込むことがあるのか…
いつぞや私が天界恋しさに泣いてしまった時、春樹どのがしてくれたように、黙って傍で同じ景色を眺めた。
暫くして、春樹どのが口を開いた。
「かぐやさん、今日は本当にありがとうございます。」
「いいや。礼には及ばぬ。」
「こんなに楽しく誕生日が過ごせたのは初めてです。」
「たしか去年の誕生日は、ご両親とも海外だと言っておったな。」
「はい。両親が日本にいる時でも、両親の仕事関係の知らない大人達に囲まれたパーティーでしたので、あまり楽しめませんでしたね。」
「そうであったか。」
私のように親元から離れていなくても、色々と思うことはあるのだな。
「今度から寂しい時には我慢しないで、私を呼んでくれ。」
「ふふ。それは何処かで私が言ったような気がします。」
「同じことだ。家柄に関係なく強く生きようと誓った同志ではないか。遠慮はいらぬぞ。」
「私達は同志ですか…そんな誓いをした事もありましたね。」
春樹どのはちょっと寂しそうに笑った。
二人で部屋へ戻ると、皆の姿が見えなかった。
「あれ?皆は何処へ行ったのだ?」
テーブルに置いてあるメモ書きに、春樹どのが気付いた。
「みんな、帰ったみたいですよ。ごゆっくり♪と書いてあります。」
「ごゆっくりと言われても、明日も講義だしな。」
「そうですね。みんなの心遣いは感謝しますが、それはまたの機会にしましょう。」
春樹どのは自分で運転してきたと言うので、屋敷まで送ってもらうこととなった。
いつもどおり車の後ろへ座ろうとすると、春樹どのは運転席の横のドアを開けて待っておった。
「かぐやさん、後ろに乗ってしまっては、ただの運転手になってしまうので、出来れば横へ座って頂きたいのですが…」
「分かった。」
不思議な感覚を覚えながら、乗り込んだ。車の前側へ座ったのは、初体験なのだ。
「おお!何だか道路が近く見えるな!ジェットコースターみたいだ!しかも、春樹どのが運転するとは新鮮な気がするぞ!」
春樹どのは、はしゃぐ私を見て笑っておったが、何かを思い出したように尋ねてきた。
「そういえばかぐやさん、ゴールデンウィークは予定ありますか?」
「いいや。何もないぞ。」
「この車は家の車ですが、来週、私専用の車が納車されます。良かったらドライブへ行きませんか?」
「それは楽しみだ。」
「では、詳しくはまたお知らせしますね。」
「分かった。」
屋敷の前まで送って貰い、手を振って見送った。
サプライズも成功し、上機嫌で屋敷へ入っていった。