第50話・パーティーの落とし穴
パーティーの日、春樹どのが迎えに来てくれた。春樹どのはタキシードを着こなし、私に贈ったドレスと同じ素材であろうタイを閉め、ポケットから覗くチーフも同じであった。
「かぐやさんどうぞ。」
ん?手を出しておるが、これは何だ?
「かぐやさん、手を取ってください。このように車に乗ったり降りたりする時、女性が動きやすいよう手を添えて頂くようにするのが、男性の務めなのです。」
「そうであったか。」
車に乗り込み、他にもあるのか聞いてみた。
「腕を出しますので、歩く時にはその腕に掴まってください。」
「それは何故だ?」
「女性は高いヒールの靴を履きますから、それを歩きやすいようサポートするのも男性の務めなのですよ。」
「なるほど。色々あるのだな。」
会場近くまで来たが車が何台も停まっておったので、入口近くで降りることとなった。少し歩くと、皆の姿が見えた。
「かぐやちゃん、綺麗~!その深紅のドレス、似合ってるね!」
「ありがとう、小梅どの。そなたもピンクのドレスが可愛らしいぞ。」
「ありがとう!」
「マーメイドラインが凄く素敵!かぐやちゃんのイメージにぴったりだね♪」
「ありがとう松乃どの。そなたの紫色は意外であったが、よく馴染んでおるぞ。」
「秋人のタキシードも合わせて紫色なんだよ~♪そういうかぐやちゃんも春樹と合わせてるね!もしかしてオーダーメイド?」
「よく分からぬが、これを着るように送られてきたのだ。」
「え?」
ん?何故皆が固まっておるのだ?
「僕が松乃ちゃんにドレスのプレゼントをするのは当たり前だけどさ~。春樹もやるね♪」
ん?どういう意味だ?
何故か小梅どのは顔を赤くしておる。
「小梅どの、何故顔が赤いのだ?」
「き、気にしないで!」
「かぐやちゃん、もしかして意味が分かってない?」
「松乃どのは分かるのか?」
「そりゃね♪」
教えを請う前に、係員の呼び声が聞こえ、移動を始めてしまった。
貸切会場の入り口には赤い絨毯が敷かれ、その上を春樹どのの腕に手を添えて歩いた。
『見て!キング3よ♪』
『いつ見ても素敵だわ~!』
『かぐや様のドレス見て!オートクチュールかしら!』
『流石ね!美しさに磨きがかかっているわ♪』
「なぁ、春樹どの、やけに私達六人は注目されておらぬか?」
「気にしなくて大丈夫ですよ。私達は私達で楽しみましょう。」
「そうだな。」
全員が会場に入り、始まりの合図とばかりに校長が挨拶をした。続いて理事長が乾杯の音頭をとった。
「そういえば桜小路どのは、異国で元気にしておるのか?」
「先日、理事長から聞いた話では、元気にされているそうですよ。」
立食パーティーとのことで、春樹どのが食べ物を取ってきてくれた。
「かぐやさん、どうぞ。」
「ありがとう。ところで、何故真ん中のフロアがあんなにも空いておるのだ?」
「あそこはダンスをする為に空いているのです。」
その時軽快な音楽が流れ始め、秋人どのと松乃どのが手を取って中央へ進み出た。
「あの二人はパーティーにも慣れていますから、ダンスも完璧でしょう。」
お互いが見つめ合い密着するようなダンスだが、優雅な動きで回るたびドレスが華やぎ、そこだけ花が咲いたかのような美しさがあった。
「二人とも素晴らしいな…」
「かぐやさんも踊ってみますか?」
「私はフォークダンスで懲りておる。」
「ふふ。フォークダンスよりもワルツの方が簡単ですよ。今度、教えましょうか?」
「春樹どのはワルツとやらも出来るのか?何でも出来るのだな。」
「はい、無事に車の免許も取れましたので、運転も出来るようになりましたよ。」
そこへ、小梅どのと冬馬どのが私達のところへ来た。
「小梅どの達は踊らないのか?」
「うん。私は習ったことないし、無理かな。」
「俺もダンスなんて柄じゃぁ無いしな。」
ボーイを呼び止めて、人数分のジュースを貰った。冬馬どのと春樹どのはコーラ、小梅どのはオレンジジュース、私はジンジャーエールを頼んだ。
「まぁ、今日はゆっくりと楽しみましょうね。」
「そうだな。乾杯!」
軽くグラスを上げ、ジュースで乾杯をした。
すっきりした飲みごたえで、美味しいな。あっという間にグラスが空になった。
「そういえば、かぐやさん。テンカイへは…って、かぐやさん?」
何だか春樹どのの声が遠くに聞こえるぞ。
そこへ先ほどのボーイが焦った様子でやってきた。
「すみません!教職員用のシャンパンを間違って渡してしまいました!」
「え~!!まさか、かぐや、酒飲んだのか?」
「かぐやちゃん、大丈夫?しっかりして!」
「まずい!何処か休憩する部屋はありますか?」
「すぐに手配いたします!」
何やら皆が騒いでおるな。
おお?皆の顔が三つに見える!ふふ♪楽しくなってきたぞ!
「グラス一杯だけだよな!笑ってるぞ!」
「アルコール度数はかなり高いはずだ!」
そこで、記憶が途絶えた。
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かぐやさんに、テンカイへ帰るのかどうか、聞き出そうとした時だ。
向き直ると、目がうつろになっていた。
あれ?ジュースしか飲んでいないよな。
そこへボーイが間違えてシャンパンを渡してしまったと慌てて来たが、遅かった。すでにシャンパンを飲み干した後だった。
急いで控室を用意するようお願いしたが、かぐやさんが段々と笑い始めてきた。
かなりまずい!このままでは、会場にいる全員に抱きつく可能性が!
「お待たせしました!控室のご用意が出来ました!」
「ん~?御苦労であったな~♪」
ヤバい!ボーイに抱きつくかも!
急いでかぐやさんを引き離し、抱きかかえた。
「冬馬、私はかぐやさんを寝かしてくるから、秋人にも伝えておいてくれ!」
「分かった!」
「きゃ~♪お姫様抱っこよ!」
そんな事言う暇があったら道を空けてくれ!急いで会場から連れ出さないと!
「かぐやさん、落ちないようにしっかりと掴まっていてくださいね。」
「わかった~♪」
ギュッ!としがみ付き、私の首に顔を埋めるかぐやさんを、急いで控室へ運んだ。