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第5話・初めての水族館

 文化祭の次の日は学校が休みであった。代休というらしい。そして何故か六人で出掛ける約束となっておった。

いつの間にそのような約束になっておったのであろうか。皆の行動は本当に早いな…



 ショッピングモールという店が沢山ある建物の広場に集合ということで、爺やに待ち合わせ場所まで送ってもらった。


「待たせてすまぬ。」


到着した私をみて、みんなが唖然としておる。


「どうして着物?」

「何処かへ出掛ける予定なの?」

「ん?何をいう?今から皆と出掛けるのであろう。」


「着物で?」

「ただの普段着だが…」


何やら皆が円陣を組んで話し始めた。


----------


「やっぱ相当なお嬢様なのかな。」

「ああ、あれはかなりの着物だぞ。」

「どうする?水族館なら着物でも大丈夫だけど、疲れないかなぁ…」

「よし!ここは僕にまかせて♪」


----------


話し合いは終わったようだ。と、思ったら、秋人どのが私の背中を押して歩き出した!


「んじゃ、みんなはそこのカフェで待っててね~♪」

「おう!楽しみにしてるぞ!」


「ど、何処へ行くのだ!」

「大丈夫大丈夫!これからかぐやちゃんの大改造しちゃうよ♪」

「改造?私は人造人間ではないぞ。」

「あはは♪相変わらず面白いね~!改造するのはファッションの方ね!僕に任せて♪」


よく分からぬうちに、一軒の店へ連れて来られた。


「お嬢様風に清楚なワンピースがいいかな!露出を少し抑えて、あ、でも可愛らしさもあった方がいいかな♪」


何やら真剣に服を選んでおる。殿方なのに、おなごの服に詳しいとは、珍しい者であるな。


「よし!決めた!これを着てみて♪」


そう言って、一着の服を私に渡した。スカートは短く、着物よりもはるかに露出が多いものであった。


「こ、こんなのを身に付けるのか?」

「絶対可愛いから♪」

「服が可愛くても仕方ないだろう!まず、露出が多過ぎだ!」

「足を出したくないということかな?じゃあ、マキシワンピにしてみるか…」


秋人どのはまた服を選び始め、長いワンピースという物を持ってきた。

これは中々良さそうだ。着物のように足も隠れるし、ふくよかでない体型も隠せそうであるな。それを受け取って、更衣室という狭い箱の中で着替えてみた。

更衣室から出て来た私を見て、秋人どのは、びっくりした声を上げておる。


「うわっ!想像以上に綺麗♪」


綺麗?このワンピースという服はそんなに綺麗なものなのか?そのような服を私が着ても浮いてしまうのではなかろうか…


「秋人どの、私がワンピースとやらを着ても大丈夫であろうか…」

「大丈夫、大丈夫!サイコーだよ♪じゃ、このサンダルとバッグで仕上げね!」


綺麗な服というのが私に似合うとは到底思えぬが、褒められると悪い気はせぬものだ。このような服を着れば、私も少しはマシに見えるのであろうか…

サンダルという靴は視界が高くなり、若干歩き難いのが気になったが、これも下界での見聞を広める為だ。我慢しよう。



 そのままワンピースで出掛けるようなので、店の者に着替えた着物を紙袋に入れて貰った。それを受けとろうとすると、横から秋人どのの手が伸びてきて、紙袋を取られた。


「それは私の荷物なのだが…」

「分かってるって!女の子に重たいモノは持たせられないよ♪」

「いや、自分の荷物だから自分で持つぞ。」

「こ~ゆ~時は甘えて欲しいな♪」


爺やのような世話人でもないのに、何故他人の荷物を持ちたがるのであろうか。変わった趣味をしておるな…



 秋人どのが選んでくれたワンピースを着て、皆が待つカフェという茶店に向かった。

私を見た途端、小梅どのと松乃どのが目をキラキラと輝かせた。


「うわ~♪かぐやちゃん綺麗!」

「凄くいいよ!」


ワンピースとやらは、そんなにも良いものなのだな。今度やよい姉様にも教えて差し上げよう。

それから爺やに着物を取りに来て貰うため、暫くカフェで寛いでおった。


「そういえば、かぐやちゃんの好きなタイプってどんな人?」


へ?

唐突に松乃どのに尋ねられ、どう答えて良いものか迷った。この不細工三人衆を目の前に、見た目がまず大事とは言い難い。私もそこまで鬼にはなれぬ…

とりあえず見た目以外の条件を答えてみた。


「私より見聞が広く、私より強い殿方が良い。」

「へぇ~。かぐやちゃんって好みも古風なんだね。」


古風かどうかは分からぬが、歩くだけで疎まれる生活なのだ。それ故、婚姻する相手には私が勝てぬ相手を返り討ちにできるくらいでないと困る。これも見た目と同様に重要な要素なのだ。

すると、不細工三人衆が反応した。


「かぐやに勝つ相手は中々見つからないと思うぞ。不意打ちとはいえ、俺に蹴りを入れたからな。」

「え~?!冬馬に蹴りを入れたの?それはハードル高いね!」

「かぐやさんの傍にいるには、相当な鍛錬が必要ですね。」


「まぁ、黒帯を取ったらちゃんと相手をしてやるよ。」


むっ!何が何でも早く黒帯になって、冬馬どのを再起不能にしてやるっ!

内なる闘志を燃やした。


その後、再度来て貰った爺やに着物を預け、予定より遅れて水族館へ向かった。



 天界には海というものが無い。川はあるが、地の果てまで繋がっておる。故に、水族館とは非常に興味深かった。


「何だ?この色とりどりの魚は!まるで昔話の竜宮城ではないか!」

「熱帯魚がいっぱいだね♪南の海に生息する魚達だよ。竜宮城なんて発想が可愛い!」


「お、大きい!一飲みにされてしまいそうだ!」

「ふふ。かぐやさんは驚き方も面白いですね。これはジンベエザメっていうサメの仲間ですが、人を襲うことはありませんよ。」


水槽のガラスにへばりついていた私に、皆が解説してくれた。色々な水槽を見ながら歩き回っている時、館内放送が流れた。


「あと30分でイルカショーが開催されます。観覧ご希望の方はイルカプールへお越し下さい。」


「かぐやちゃん、そろそろイルカショーが始まるよ!」


もう少し熱帯魚を見ていたかったが、小梅どのに手を引っ張られ、イルカという魚がいる水槽にも行ってみた。そこはイルカが芸を行うところだそうだ。


「何だ!あの大きい魚は!見事な跳躍力だ!」


隣に座った春樹どのが解説してくれた。


「あれがイルカといいます。実は哺乳類なんですよ。」

「ほう、魚類とは違うのか。明日にでも図書室で調べてみるとしよう。」


感動しながら隅から隅まで堪能し、水族館の中にあるカフェで皆と一緒にお昼御飯を頂いた。


「かぐやちゃん、随分楽しんでたね!」


小梅どのが微笑みながら話し掛けてきた。


「天界には海が無い故、珍しい魚ばかりであったぞ。海とは凄いところなのだな!」


それを聞いた松乃どのが身を乗り出してきた。


「もしかして海を見たこと無いの?夏休みは決まりだね!みんなで海に行こうよ♪」

「いいね♪」


夏休みの予定が早くも決まったようだ。皆の行動力にはいつも驚かされるな…


「ところで、かぐやちゃんは水着持ってる?」

「水着?小梅どの、水着とは何ぞや?」

「プールや海で泳ぐ時に着る服の事だよ!私と同じくらいの体型だし、貸そうか?」


泳ぐには水着というものが必要らしい。どのような物かよく分からぬし、ここは小梅どののご厚意に甘えるとするか。


「何の事やら分からぬので、お願いするとしよう。」

「了解!私のと一緒に持って行くね!」


海というのは広くて気持ち良い所らしい。皆が説明してくれた。



 お昼御飯の後も浮かれ気分で話しながら階段を降りておる時、履き慣れぬ高い靴が段差に引っ掛かった!


「うわっ!」


ズドン!


「いてて…」

「かぐやちゃん、大丈夫?」

「怪我はないか?」


前を歩いていた不細工三人衆が駆け寄ってきた。


「大丈夫だ。何も問題無い。」


そう返事したものの、足首に激痛が走り、一瞬顔をしかめてしまった。


何とか痛みを隠して立ち上がろうとすると、秋人どのが私を横に担いできた!

うわっ!目の前に私より大きな目が迫っておる!若干見慣れてはきたが、この近距離は耐えきれぬ!


「な、何をする!離せ!」

「わっ!かぐやちゃん暴れないで!」

「男性恐怖症だからだろ。」

「僕が怖いんなら、目を瞑っていて!」


そっか!目を瞑っていれば、顔が近くても耐えきれる!ギュッと目を瞑った。

ところで、男性恐怖症って何だ?


「ごめんね。僕が履き慣れない靴なんか選んだから…」


秋人どのが何故謝るのだ?高い靴は強制的に履かされた訳では無く、私の意思で履いたのだ。

だが、私を抱えている意味の方がもっと分からぬ。いくら怪我をしたからといっても、自分で歩けることには変わり無いのだ。


「秋人どのは、何故私を抱えておるのだ?」

「え?そうきたか~!ホントかぐやちゃんって思考が想定外斜め上だよね♪かぐやちゃんくらいは運べないと、男として成り立たないでしょ♪」


なるほど。包容力の象徴であるふくよかな殿方でも、私を運べるかは疑問である。細くても力はあるのか…

うん。ふくよかさだけは妥協しよう。



 そのまま医務室へ行き、軽い捻挫だろうということで湿布を貼ってもらった。包帯もぐるぐる巻きで歩きにくい故、爺やに迎えに来て貰う事となった。


独り寂しく退場だ。もっと小梅どのや松乃どのと話しがしたかったな…




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