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第49話・衝撃の事実

 迎えた昇段試験の日、道場は張り詰めた空気が漂っておった。


「では、始め!」


師範の合図で、冬馬どのに稽古を付けてもらった最後の型を程よい緊張感を持って披露した。


結果は、合格であった!これで黒帯になれたのだ!


そんな折、松乃どのから呼び出しがあった。緊急事態ということなのだが、何かあったのであろうか…



 呼び出しのメッセージが来た次の日、松乃どのの屋敷へ行くと、小梅どのも来ておった。


「かぐやちゃん、久しぶり!」

「ああ、小梅どのも久しぶりだな。して、緊急事態とは何事だ?」


「あれ?言ってなかったっけ?バレンタインデーだよ♪」

「松乃どの、去年の私を見ておっただろ。あんな悲惨な目はもうごめんだ。」


踵を返そうとしたが、松乃どのに引きとめられた。


「あ~!かぐやちゃん待って待って!だから作戦が必要なんだよ♪」

「作戦とは?」

「まぁまぁ、座って♪」


まぁ、話だけは聞くとするか。小梅どのの隣に座った。


「まずは小梅ちゃん!パーティードレスのレンタルはもう行った?」

「まだだよ。」

「なら、14日は絶対にバイト休んで行くこと!」

「バレンタインデーに行くの?」

「そ!その時なら、冬馬くんも意識しやすいからね♪」

「そっか!」


「そしてかぐやちゃん!買ってきたチョコレートを渡すだけでは駄目だよ!」

「松乃どの、それは誰に対して行っておるのだ?」

「もちろん春樹じゃん♪」

「最近は会っておらぬ故、何も世話をしてもらってはおらぬが。」


はぁ…二人に盛大なため息をつかれた。


「かぐやちゃんは、春樹に会いたいと思わないの?」

「皆に会えぬのは寂しいぞ。毎日会っておったしな。」


はぁ…またまた盛大なため息が聞こえた。


「そういえば冬馬くんから聞いたけど、かぐやちゃん黒帯になったんでしょ?」

「うむ。先日合格いたしたぞ。」

「だったら、その報告会って事で、久しぶりにみんなで集まらない?いい店知ってるんだ!」


「小梅ちゃんナイス♪で、どんな店なの?」

「チョコレート専門店で、チョコフォンデュがあるところなの!バレンタインデーってことでどう?」

「だったら、女の子が男の子に奢るって感じがいいかもね♪」


何やら出掛けることが決まった。久しぶりに皆に会えるのも楽しみだ。



 2月14日、小梅どのがお勧めする店の近くで集まった。


「久しぶり~♪みんな元気だった?」

「秋人どの、相変わらず元気そうだな。」


「よう。」

「何だ、冬馬どのか。」

「かぐや、俺だけ扱い悪くないか?」

「冬馬どのは度々道場で会っている故、久しぶりではないしな。」


「かぐやさん、お久しぶりです。」

「春樹どの、久しぶりだな。」

「冬馬から聞きました。黒帯への昇段、おめでとうございます。」

「ありがとう。これで師範への道に一歩近づいたぞ。」

「かぐやさんの夢は師範ですか?」

「そうだ。子供達に空手を教えたいのだ。」

「素敵な夢ですね。」


六人揃ったところで、店へ入った。店の中には、見事なチョコレートの滝が流れておった。


「あれは、全部チョコレートなのか?」

「そうです。ミニケーキやフルーツなどをそこへ潜らせて、チョコレートコーティングをして食べます。」

「では早速やってみるか!」


大きなチョコレートの滝にフルーツなどを潜らせるのは、なかなか面白いものであった。


「春樹どの!皿に置いたら、すぐに固くなったぞ!」

「ふふ。かぐやさんは驚きが新鮮で面白いですね。」


それぞれがテーブルに好きなものを並べ、食べていった。バイキングと言って、置いてある料理を好きなだけ取るシステムらしい。軽食用に置いてあるパスタも中々の美味であった。


食べ終わり、コーヒーを頂きながら寛いでおった時、いきなり秋人どのが私に顔を近づけてきた!


「うわっ!びっくりするではないか!」


サッ!と後ろへ仰け反り、眉間に皺を寄せた。


「ごめんごめん、ちょっと実験ね♪」

「そんな実験聞いたことないぞ。」

「僕も初めてやってみた♪」


秋人どのの行動は理解不能である。

その後、ちょっと失礼すると言って、お手洗いへ立った。


----------


 かぐやさんを目線で見送った後、松乃さんが、秋人に問いただした。


「秋人、さっきの実験って何だったの?」

「松乃ちゃん、妬いてくれるの?嬉しいな♪」

「いや、そうじゃなくてさ!」


秋人は私に向き直り、一つ咳払いをした。


「春樹、気付いているか?」

「何をだ?」

「かぐやちゃん、お前が近付いた時だけ顔が赤くなるんだよ♪」

「私だけなのか?」

「さっき、僕が顔を近づけても怪訝そうに見られただけだったでしょ?」

「意識してもらっているのは、何となく分かっていたが…」


「でも、かぐやちゃん、自分で自分の気持ちに気付いてないよね?」

「気付いていないと言うよりは、気付かないよう育ってきた環境がブレーキを掛けているのだろうな。後は男性恐怖症か。」

「キスしたら即、結婚の家だしね…」


う~ん…

みんなで頭を抱えた。


「まぁ頑張れよ。」

「冬馬に言われる日が来るとはな。完全に諦めてくれたのか?」

「俺は、かぐやの夢を応援し続けるさ。」

「かぐやさんの夢は、子供達に空手を教えることだったよな。」

「ああ、聞いていたのか?テンカイの貧困層の子供に教えたいらしいぞ。」


「え?テンカイで?」


思わず固まった。


「冬馬くん、かぐやちゃんはいつかはテンカイに帰るつもりなの?」

「そこまでは聞いてないけど、テンカイで道場を開きたいと言ってたぞ。」

「そんな…」


みんなが気遣わしげに私を見ているが、そんな視線にも答えられない程ショックだった。


いつの日か、かぐやさんと会えなくなる日が来てしまうのか…


----------


お手洗いから戻ると、何やら皆の周りに重たい空気が漂っておった。


「ん?何かあったのか?」

「いいや!何もないよ!」


「そろそろレンタルドレスでも見に行こうかなぁと思ってね。」

「そういえば、小梅どのと冬馬どのは出掛ける予定であったか。」


「私と秋人も映画に行くんだ♪」

「そうか。楽しんできてくれ。」


皆がそれぞれに散って行き、私と春樹どのが残された。


「かぐやさん、屋敷まで送りますよ。」

「ありがとう。」


帰りの車中、春樹どのは口数が少なかった。やはり何かあったのであろうか。


後日、春樹どのより深紅のドレスが送られてきた。バレンタインデーのお返しというものらしい。

絹で作られた、裾で広がる美しいラインのドレスで、ダンスパーティーの時に着てほしいと添え書きがしてあった。このドレスであれば、以前に頂いたネックレスとイヤリングも合いそうだ。


ふふ。憂鬱であったダンスパーティーが少し楽しみになってきたな。


こうして、ダンスパーティーの日を迎えた。


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